第7話 門番とのやり取り -簡単には入れませんね-
「やっと着いた! 最寄りの街まで2時間の表示はなんだったんだよ。結局、あの後もキノコのお化けばっかり襲ってきやがって! 経験値が入ってる感じも無いし、疲れただけじゃん!」
むくれたような声が門番の耳に届いた。声がした方に意識を向けると、独り言を呟きつつ疲れきった顔で歩いてくる、この付近では見かけない子供だった。腰に剣を差していている以外は軽装で、旅をしている割には身綺麗であった。そのアンバランスさに違和感を持ちながら、門番は規則に則って子供に話しかける。
「君。どこから来たんだい? ここから最寄りの街までは3日ほどかかるんだよ。かなり身綺麗だけど、馬車か何かでここまで来たのかな?それに家族はどうしたんだい?一人ってことはないだろ?」
門番が話しかけている事に気付かない亮二は、ブツブツと呟き続けていた。
「あの森の中には、キノコのお化けしかいないのかよ! 他にも魔物がいてもいいんじゃね? このままだったら二つ名はキノコマスターで決まりだね! 大体、イオルスがあんな場所に移転させ……。えっ? 私ですか? 私に話しかけられたのですよね?」
内容は分からないが、怪しい事には間違いないと判断した門番が険しい表情を浮かべ、詰問に変わろうとした瞬間に自分への問い掛けだと気付いた亮二が慌てて応える。
「私は、遠い国から一人旅をしている最中です。旅の目的は特になく、着の身着のままで世界を回って見聞を広めています。それにしても、門番さんから見たら若く見えますかね? 親と一緒に旅をするような年でもないんですけどね」
どこから見ても10歳程度にしか見えない子供に苦笑されながら敬語で答えられた門番は、軽く混乱しながらも職務を全うしようと、さらなる質問を重ねる。
「丁寧な挨拶をありがとう。でもね、君の姿はどうみても子供にしか見えなくてね。ひょっとしてエルフかなにかなのかい? 見た目に対して年齢を重ねているとか? それに名前もまだ聞いてな……」
「エルフ! エルフが居るんですか! そうだよな! 異世界だもんな! エルフが居てもおかしくないよな! 門番さん! だったらドワーフもいるんですか?」
「あ、あぁ。いるよ。何をそんなに興奮しているかは分からないが、エルフもドワーフも獣族も妖精族だっているよ。さっきから話を誤魔化そうとしてるようにしか感じないが? 職務なんで君の名前を教えてくれるかい? この街に来た目的は? これ以上誤魔化すなら厳しく取り調べをする必要があるから!」
名前を聞く前に、エルフへの食い付きっぷりに戸惑いながらも、挙動が余りにも怪しい相手に見えた門番は、亮二に名前と街への訪問理由を尋ねるのだった。
◇□◇□◇□
「失礼しました! 私の名前はリョージ=ウチノです。この街に来た目的は、先ほども話したように特に無くてですね。たまたま森の近くにあったので、寄らせてもらった次第です。それとギルドに冒険者として登録をさせて頂きたいのですが、可能でしょうか?」
「やっと答えてくれて有難う。挙動が怪しすぎるから、強制的に尋問所に連れて行こうと思っていたところだよ。それにしても、言葉遣いが丁寧だね。どこかの貴族のご子息かな?」
「いえ、貴族ではありません。初対面の方には丁寧に話すように教育されていますので」
亮二と門番の微妙に話が噛み合わない問答が続き、気が付けば亮二の後ろには長蛇の列が出来ていた。門番は軽く溜息を吐くと、詰め所にいた別の門番に声をかけ尋問所に連れて行く。尋問所で亮二はイスに座るように指示をされ、右手に水晶を持った門番から再度確認をされて答える。
「もう一度、確認するけど街に来た目的は?」
「西に向かっていたところ、たまたま通りがかった道に入ったら森の中でした。それに、エルフやドワーフは、自分の住んでいた国には人間しかおらず、興奮してしまいました。お騒がせしました」
門番は亮二の言葉に嘘が無いことを水晶で確認すると最後に年齢を尋ねた。
「二六才です」
「え? 本当に二六才なの?本当に?」
真面目な顔をして答えた亮二の言葉に、門番は苦笑いをもらす。どこから見ても一〇才くらいにしか見えない子供が、二六才と言っているのに水晶が赤く反応しないのである。この子供は一〇才くらいに見える二六才か、自分を二六才と信じている一〇才の可能性がある。
水晶では嘘しか見抜けないので、亮二の年齢について悩んだ表情になっている門番の反応に、首を傾げながら亮二も考えこんでいた。
(ん? この門番さんは、俺の年齢をしつこく聞いてくるよな? 日本人は若く見られるからか? でも、この門番さんと俺って同じ年くらいだと思うんだけど? ちょっと聞いてみるか)
「ちなみに門番さんは何才ですか?」
「ん? 俺も26才だよ。君からすると同じ年かな? 俺の方がかなり年寄りに見えるけどね」
同じ年ではないと言わんばかりの答えに、なにかが間違っていると感じた亮二は、こっそりとインターフェースを起動して、自分自身のステータスを確認する。
【ステータス】
名前:リョージ ウチノ
年齢:11
職業:無職
レベル:20
備考:ステータスや体力・魔力については職業が無職のため非表示
(あれ? 年齢が十一才になってますけど? そう言えば門をくぐる時に十三才の扉を選んだよな? でもなぜに十一才? 職業無職でレベル20はどうよ。どう見ても完璧なニートです。ありがとうございます。イオルスは扉をくぐったら十三才になるって言ったよな? もう一回言うけど、なんで十一才? そりゃあ、十一才の子供が『私は二六才です』と言ったら困惑するよな。どうすんだよこれ? 『てへぺろ』と言ったら許してくれる? あの門番さんの持っている水晶って、どう見ても嘘発見器だよな?)
「もう一回聞くけど、本当に二六才かい? あれ? 水晶の色が赤色になった? リョージ君の年齢をもう一度教えてくれるかな?」
「じゅ、十一才です……」
「さっきは二六才って言ったよな? なぜ急に年齢の訂正を?」
「どうしても二六才だと思いたかったのです! 大人って感じじゃないですか!」
やけっぱちで言ってみたが、門番の顔を見ると、むしろすっきりした表情になっていた。
「水晶で嘘じゃないのは分かったから、年齢の件は別にいい。それで、これからどうするつもりだい? 街に入るのは許可するけど、街に入るには税金が必要だよ?」
「え? あんな言い訳でいいんだ」
思わず小声で呟いていた亮二には気づかず、門番は街に入るためには税金が必要だと伝えてくる。
「どのくらい必要ですか? お金は余りありませんが……」
「外から来た人には、銅貨5枚を払ってもらってるよ」
「安っ! し、失礼しました。銅貨5枚ですね」
亮二はイオルスさんの幸福な皮袋に手を入れて、銅貨5枚を取り出すと門番に支払うのだった。
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