第52話 ランクアップ試験 -試験受けるのに時間がかかりますね-
カレナリエンとメルタに連れられてやってきた部屋はギルドマスターの執務室としては狭い部屋であり、必要最低限の調度品以外は何も置いておらず、良く言って質実剛健であり亮二の感想としては殺風景な部屋であった。
「それにしても、殺風景な部屋だね。ここって本当にギルドマスターの執務室なの?」
「リョージさんのお気持ちは十分に分かりますが、残念ながらここは本当にギルドマスターの部屋なんですよ。もう来られると思うので座って待てて下さいね」
カレナリエンに席を薦められて待つこと10分。いつまで待ってもやって来ないギルドマスターに痺れを切らして、「そろそろ帰ろうか」と思い始めた亮二は扉の向こうで誰かがこちらに向かいながら激しいやりとりをしているのが聞こえてきた。
「ギルドマスター!どこに行ってたんですか?リョージさんにさっきから待って貰ってますのに!」
「すまない、てっきり闘技場の方に来るんだとばかり思っていたよ」
「だから、闘技場じゃなくて職業適性検査場ですって!この脳筋が少しは考えたらどうなんですか!」
「脳筋って!ちょっと期待の新人のリョージと戦ってみたいだけじゃないか!」
「いや、それって脳筋どころか戦闘狂だろう」と亮二が呟いていると扉が勢い良く開いて漆黒の肌の色の女性が飛び込んできた。背丈は亮二より頭2つ分ほど高く、フルプレートアーマーを着込んでおり左手にはラージシールドを構え右手にはメイスを握りしめていた。
「よし!リョージ戦うぞ」
「いや、戦わないですよ」
勢い良く言って来た女性のテンションの高さに辟易しながら亮二は軽く流すと「カレナリエンさん、もう帰っていい?」と確認を取った。
「駄目に決まってるだろう!リョージと戦えると聞いたからフル装備で、闘技場で待ってたのに」
「だから!職業適性検査場です!それにリョージさんと戦えるなんて一言も言ってません。『今年の新人でリョージさんが凄いのでランクアップ試験を見に来ませんか?』と言っただけです」
「それが戦えるって意味だろう?」
亮二の帰る発言に対して勢い良く止めてきた女性にカレナリエンがツッコミを入れ、女性は意味不明の返答をしていた。それを聞いていた亮二は「ダメなタイプだ。1回だけ、付き合ってぐうの音も出ない程やっとくか」と言いながら椅子から立ち上がると女性に向かって一礼を行った。
「分かりました、ギルドマスター。では1回だけお相手させて頂きます。それがギルドのランクアップ試験って事で良いですよね」
「おう!もちろんだ。俺が試験官をしてやるから闘技場に早く行こうぜ」
女性は亮二の返事を待たずに職業適性検査場に向かって一目散に走っていった。
「リョージさん、良かったんですか?ギルドマスターって脳筋なだけあって強いですよ」
「大丈夫だよ、カレナリエンさん。ギルドマスターに怪我はさせないから」
心配そうなカレナリエンに対して軽く返答すると亮二は職業適性検査場に向かって歩いて行くのだった。
□◇□◇□◇
「そう言えば、自己紹介をしてなかったね。クセニア=ユジャノフだ。ドリュグルの街でギルドマスターをしている。冒険者ランクは【A】ランクだ。戦闘能力なら【B】ランクと言われているリョージの相手には丁度だろう」
「よろしくお願いします、クセニアさん。リョージ・ウチノです。クセニアさんに参ったと言わせたら俺の勝ちでいいんだよね」
亮二とクセニアがランクアップ試験の名で模擬戦をすると聞いて集まっていた冒険者達から「おぉ!言うね」「ギルドマスターの勝ちに銀貨1枚」「じゃあ、俺は銀貨2枚だな」「モテル男に鉄槌をギルドマスター!」などと声援が飛び交った。
「あぁ、急に何で呼ばれたのか理由はよく分かったわ、俺が審判をすればいいんだな」
「頼むよ、マルコ。俺の知り合いで公平に判断する人がマルコ以外に居なかったんだよ」
急に呼び出されたマルコは何が起こっているのか理解すると諦めたような口調で審判を引き受けた。
「よし、じゃあ早速始めるか。クセニアは分ってると思うが手加減しろよ。リョージが怪我したら俺だけじゃなくてカレナリエンとメルタが激怒するぞ」
「え?何でその2人が?報告ではリョージはドリュグルに来てまだ1週間も経っていないじゃないか?それなのに我がギルドの2枚看板のカレナリエンとメルタを持っていくのか」
「他にもシーヴって武器屋の娘やエレナ姫もリョージの虜になってるぞ」
マルコはニヤニヤと笑いながら亮二を見るとからかうように「モテル男はツライよな」と語りかけた。
「あっ!ナターシャさん。」
「え?うそだろ?アイツはユーハンの所で養生しているはずだぞ」
マルコの焦り顔に対して亮二は満面の笑みを浮かべると「モチロン嘘さ、焦りすぎだろマルコ」とからかい返した。
「お前っ!ふざけんなよ!別にナターシャが怖いからじゃないからな。こんな所にいたらお腹の子に悪いから驚いただけだからな!」
「モチロンそうだろうね。でも今の台詞はナターシャさんに伝えとくから」
「ごめんなさい、リョージさん。以後注意しますので今回は許してください」
亮二はマルコがイキナリ卑屈になった事に笑いを噛み締めながら「準備OK!号令よろしく!」とマルコに伝えるのだった。
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