第283話 街道整備の視察3 -料理問題を解消しますね-
「今日の飯はなんだったけ? また野菜の煮込みか? 量は有っても味も薄いしなぁ。喰った気がしないんだよ」
「まぁ、今日の食事は別格だから期待しといてくれよ。後悔はさせないからね!」
街道整備の工事が終わった一同が食堂に入ってきた。「食べないと力が出ないから食べる」とのスタンスで、仕方なしに食堂にやって来た労働者一同に対して、食事を用意した食事係の者達は用意したスープと肉にパンをトレーに入れて手渡していった。
「ここの飯で美味いのはリョージ伯爵が用意しているれているパンだけだよな。俺も早く街道整備を終わらせて、王都のすいーつってのを食べたいわ。前にエレナ姫が来てくれた時とリョージ伯爵の差し入れにもらったのは美味かったもんな」
「おい! 今、その話をするなよ。せっかく人が無心で飯を食おうとしているのに。それにしても料理をする奴はいいよな。俺達が汗水たらして働いてるのに料理をするだけで同じ金が貰えるんだか…… ん? なんか今日の飯は美味そうな匂いがするな」
手渡されたトレーを机に置いて、飲み物を用意した労働者達はため息を吐きながら食事を始めようとしていた。当初こそは貧民対策として行われている街道整備に感謝して働いていた一同だったが、毎日が同じ繰り返しであり、料理も代わり映えの無い物しか出て来ないので飽きが入りだしていた。特に料理に関しては量としては用意されるものの味は殆どせず、机の上に置かれている塩で味を調整するしかなかった。普段なら一気に流しこむように食べるのだが、今日の料理はいつもと違って素晴らしい匂いがしており、突然の変わりように不思議に思いながらスープを一口飲んだ。
「なっ! 美味い! 物凄く美味いぞ! なんだこれ? えっ? スープ? スープってこんなに美味いのか? なんだよ! パンに付けて食べてくれって? あ、あぁ。おぉ! 美味い! 普段から美味いと思っていたパンの味が、さらに美味くなるじゃねえか!」
「だろ! パンにも合うように味付けをしたんだよ。どうだい! 美味いだろ! 安心しな。今日から私達が料理係として専属になったからね! あんた達は力仕事に専念しておくれ!」
労働者達は料理係になると宣言した者達を不思議そうな顔で眺めていた。力仕事が出来ない者が料理の準備をすると言われており、街道整備の仕事では力仕事が出来ない者は役立たずと言われるくらい、料理担当は誰もやりたがらなかった。目の前に居た10名も嫌々料理の仕事をしていたはずなのに、全員が喜びに満ち溢れた顔で料理をしているのである。だが、料理係が作った絶品料理が毎食出てくるのなら文句はなく、むしろ仕事に対するやる気も出てきた一同は、まずは食欲を満たすために先を争うようにお代わりを始めるのだった。
後に、街道整備事業でメインの料理係になった10名は、王都と神都との間を結んだ宿場町の宿屋兼料理屋の店主として任命され、信徒や道行く人々に心安らげる宿と素晴らしい料理を提供するのだった。
◇□◇□◇□
「おぉ! 大盛況だな。これで食の問題は大丈夫だな。あの10人も意外と筋が良いから、街道整備が終わったら宿場町の料理屋に任命させるか」
「それにしても、リョージ伯爵が一緒に作った料理って言わなくて良いのか?」
労働者の視界から隠れるように中の様子を見ていた亮二に対して、横に居たリカルドが小声で話しかけてきた。
「ああ。いいんだよ。ここで俺と一緒に作った料理なんて言ったら、料理係より俺の方に意識が向くだろ? それだったら意味が無いんだよ。俺が毎食、料理を作れるわけじゃないからな」
「まあ、そうだよな。リョージ伯爵と一緒に作った料理なんて聞いたら、料理係なんてどうでもいいからな」
自分の言葉に納得した表情で頷いているリカルドををみて亮二は改まって話し掛けた。
「よし! 料理問題は、これで完璧に解決したよな。後は規律が緩んでいるのと、新旧の働いている者の軋轢の解消だよな」
「それが一番大変なんだよ。対応で出来ていない俺が言うのもなんだけどな」
自嘲気味に呟いたリカルドに対して、亮二は肩を叩きながら「俺に任せろ!」と力強く請け負うのだった。
◇□◇□◇□
「今日も代わり映えのしない作業の始まりだよ」
「おい! 最初っから気合を入れろ! 今日はいつもの倍は働くぞ! リカルドに目に物見せるんだ!」
だらけきった作業員にブルーノが怒鳴りつけながら檄を飛ばした。ブルーノに声を掛けられた従業員は聞こえないように舌打ちをしながら返事をすると、スコップを手に取って作業を始めるために作業場所に向かっていくのだった。
「遅い! 集合時間は過ぎているぞ!」
突然掛けられた声にブルーノ達が視線を向けると仁王立ちのリカルドが睨みつけていた。ブルーノは反射的に睨み返したが、鼻で笑うとリカルドに対して怒鳴りつけた。
「うるせっ! 偉そうにしてんじゃねえ! ちょっと、遅れたくらいで文句を言うなよ! 俺達の作業量はそいつらの倍はやってるだろ」
「そんな話じゃねえよ。規律を守れないと組織として成り立たないんだよ。それに、お前達は1日2日の作業量は他を上回ってるんだけど、1週間で考えると変わらないんだよ!」
ブルーノの言葉にリカルドが反論すると、ブルーノの周りの居た者達が怒鳴りだした。
「貰える金額は同じだから作業量も一緒でも文句はないだろう!」
「おい! 今の話は本当か? 同じ作業量ってどういう事だよ? リカルドに圧勝していたんじゃないのか?」
ブルーノの困惑した顔に取り巻きの一人がバツの悪い顔で話し始めた。
「ブルーノさんには悪いけどよ。貰える金額は同じなのに一所懸命には出来ねえよ。おっと!でも、仕事量としては他と同じなんだから問題無いだろ?」
「おい! なんだよそれは。俺はリカルドに勝つために……「お前ら、ちょっと仕事が出来るからって調子に乗ってんじゃないだろうな?」」
取り巻きの言葉にリカルドが反論しようとしたタイミングで一同の背後から声が掛かり、その声に反応する前に労働者達から大歓声が上がった。ブルーノ達が声の主を見るために振り返ると満面の笑みを浮かべた亮二が近付いて来るのだった。
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