第282話 街道整備の視察2 -問題点の解消に務めますね-
「報告書でもらっているだけじゃあ、現状って分からないって典型だな」
亮二は用意された食事を食べながらリカルドから報告を聞いていた。工事は予定通りに進んでいる事。エレナ姫が慰問に来た事。最近は工事に慣れてきたのか規律が緩みつつある事。用意されている食事に文句が出始めている事。最初から参加している者と途中で参加してきた者とで軋轢が起きつつある事。リカルドから少しずつ問題が出始めているとの報告を聞いた亮二はため息を吐くと、リカルドは申し訳なさそうに謝罪してきた。
「貧民対策としてリョージ伯爵がしている事業だから、伯爵の顔に泥を塗らないようにと頑張ってるんだけど、徐々に進み具合も遅くなって小さな問題が起こり始めているんだよ」
「気にするなよ。初めて担当した事業がデカすぎるだけなんだからな。聞いてる内容からすると、計画の遅れは少しはあるかもしれないけど、まだそれほど気にする感じじゃないから大丈夫だぞ」
リカルドの謝罪に亮二は軽く手を振りながら気にしないようにと伝えた。元々は亮二が行う予定だった貧民対策責任者をリカルドがする事で、自分は好きに行動をする事が出来ており、感謝こそすれ、謝罪は必要ないと伝えるとリカルドはホッとした表情になって明日の視察について相談を始めるのだった。
◇□◇□◇□
「明日の視察についてだけど、本当にリョージ伯爵が来てるって事を伝えなくていいのか?」
「ああ。構わない。ブルーノ以外には運良く顔を見られてないからな。軽く変装して見つからないように視察させてもらうよ。間違っても女装じゃないからな!」
「お、おう。誰も女装なんて言ってないだろ? どうしたんだよ急に?」
亮二の女装拒否宣言にリカルドは驚きながら質問をしてきたが、亮二は我に返ったかのように慌てて誤魔化すと視察の話を続けた。
「で、この視察で俺が対応するのは、食事の改善と新旧作業員の確執解消だな」
「えっ? 食事の問題を解消するのか? 今でも十分に出してるのに? ちゃんと飯を食わせているのに贅沢な話だろ」
リカルドの言葉に亮二は難しい顔をすると、ストレージから食材を取り出し始めた。亮二はその場で鍋を創りだして水属性魔法で満たすと、素材をぶつ切りにして煮込み始めた。
「なあ。急に料理を始めたのは俺に属性魔法の凄さを見せつけるためか?」
「まさか。それだったら転移魔法やミスリルの剣に雷属性魔法を3重で掛けて見せ付けてやるよ。もうちょっと煮込んで塩を足すかな」
亮二はリカルドの呆れたような顔に対して応えつつ、素材を風属性魔法と火属性魔法を駆使して煮込み続けながら水で調整して出来上がったスープをリカルドに手渡した。
「食えって事だよな? 水に入れて煮込んだだけじゃないのか? えぇ! なにこれ? 美味い! 美味すぎる」
「だろ? 塩加減を極めて、野菜を煮込む時に一緒に入れたキノコのお化けの粉末! これがあれば旨味が引き立つんだよ! 後で、このレシピと粉末を送るから料理係に渡しといてくれ」
ドヤ顔で説明をした亮二の言葉にリカルドはキョトンとした顔をすると首を傾げながら返事を返した。
「料理係ってなんだよ? そんなの居るわけないだろ」
「ちょっ! なに言ってるんだよ! ふざけんなよ! 料理係が居ないなんて俺の壮大な計画を無駄にしてんじゃねえ!」
「えっ? 壮大な計画? な、なんなんだよそれは」
恐ろしい剣幕の亮二に、リカルドは全身から冷や汗を流し続けて硬直しながら呟くのだった。
「なあ。料理係を置いてなかったのは謝るけどよ。いつまで正座したらいいんだよ? そろそろ足が痺れて……「いや! お前は料理の偉大さを分かっていない! 俺の国は普段は大人しいが、食べ物が絡むと恐ろしい戦闘民族に変化するぞ! 他国からも『食い物で騙したら滅ぼされる』と恐れられているんだぞ。それくらい食事は大事なんだよ!」」
正座をさせながら1時間説教をしている亮二にリカルドが限界を伝えようとしてきたが、リカルドの言葉を途中で遮ると料理の素晴らしさと重要さについて延々と説明を続けた。
「分かったか? 料理の素晴らしさと重要さが。今から料理の出来る奴を全員連れて来い!」
「い、今から? 了解です! 料理当番をしている者は10名だから連れてくるよ!で、でも……お願いですから休憩を。あ、足が痺れて動かない」
亮二の言葉にリカルドが疑問を口にすると殺気の混じった威圧が押し寄せてくると、青い顔で慌てて立ち上がろうとしたが身動きがとれない事に気付いた。亮二の苛立ちながらも訝しげな表情にリカルドは情けない表情をすると、絞りだすように亮二に懇願するのだった。
◇□◇□◇□
「あ、あの? リカルドさん? なんで急に私達は呼ばれたんですかね? 特に問題は起こしてないと思うんですが? 昨日の工事で失敗した件については申し訳ないと思ってます」
「ああ。昨日の失敗は気にしなくていいよ。明日から頑張ってくれたらいいレベルだから。今日来てもらったのは……「はい! 今日はようこそお越し下さいました。皆さんは今日から料理人として働いて頂きます」」
不安げにやって来た10人を前にリカルドが話し始めようとすると、隣りにいた亮二が話を引き継いで話し始めた。唖然としている10人に対して亮二は奥に案内して正体を告げると建物中に響き渡る歓声が起こるのだった。
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