第281話 街道整備の視察 -リカルドとの約束を思い出しましたね-
エレナ姫以外の婚約者達に指輪を送った亮二は、領都に戻ってくると精力的に執務を再開させた。文官の長に任命しているニコラスから受け取った報告書を元に、立案した計画を実行に移し始めた。特別監査官のエレナ姫を出迎える準備で慌ただしい中、手始めに王都に続く街道整備を冬に近付きつつある農村部向けの救済として行い、野盗の討伐や商人の護衛等をマチカタドウシンやアラちゃん騎士団が中心に行い、エレナ姫の安全確保と停滞している流通の解消対応などを始めた。
「本当なら王都と神都の街道整備をしているリカルドに来てもらうのが一番なんだけどな。まだ半分くらいしか街道整備出来てな…… あっ! リカルド達の所に行く約束を忘れてた! ちょっとリカルドに会ってくる! ニコラス、ゴメン! 俺の代わりにメルタを呼んどいて!」
「えっ? リョージ様? 書類はまだ残っております! それにメルタ様を呼ぶとは、なにをしてもらうのですか?」
亮二はニコラスの言葉を気にする事もなく一方的に言い放つと、転移魔法陣を展開して王都に向かった。しばらく呆然と亮二が座っていた場所を眺めていたニコラスだったが、逃げられた事に気付くと、諦めた表情でため息を吐いて近くに居た部下にメルタを呼ぶように指示を出すと、山の如く積み上がっている書類との格闘を再開するのだった。
◇□◇□◇□
「よしっ! 脱出成功!」
亮二は嬉しそうに伸びをしながら王都の街を歩いていた。すれ違う王都民から声を掛けられたり、手を振られたりしながら門までたどりつくと、前方から自分を見つめている視線を感じた。
「リョージ伯爵ではありませんか? こんな時間からどちらに?」
「ちょっと、街道整備しているリカルドに会いに行こうと思ってね」
平常時は出て行く者に声を掛けない門番だったが、時の人であり、上級貴族でもある亮二が1人で夕方から出て行くことに対してはさすがに声を掛けて確認を行った。
「これからですか? 報告によると街道整備は、馬車で3日は掛かる場所まで進んでいるはずですよ? 向かうにしては軽装過ぎるのでは?」
「大丈夫! 今から会いに行くつもりだし、走っていくから!」
爽やかな笑顔で返事をしてきた亮二に、同じく笑顔で返事を返そうとした門番だったが、亮二の回答内容を反芻して、その突拍子もなさに仰天すると慌てて再確認を行った。
「そうで……えぇ! 走って? いま走ってと言われましたか? それも今日中に? いくらドリュグルの英雄と言われる伯爵でも馬車で3日の場所に走っていくのは無謀と言うより無理なのでは? それとも魔法で向かわれるとかでしょうか?」
「確かに魔法は使うけど、ちゃんと走っていくよ? 馬車で3日くらいだったら3時間もあれば到着するんじゃないかな? それに街道の出来具合も確認しておきたいからね」
亮二は門番に出発の挨拶をすると風属性魔法を体にまとわせて、回復属性魔法を掛けながら勢い良く走りだした。走り出した勢いの凄さに唖然としたままの表情で固まっている門番に、軽く手を振ると亮二は王都から街道整備の最前線に向かって出発するのだった。
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「おぉ! 結構、いい感じじゃないの? 回復させながら走ってるから息も上がらないし、疲れも出ないってのが素晴らしいな。 もうちょっと風の力を強めてみるか」
リカルド達が整備した街道を快調に飛ばしながら亮二は走っていた。想像以上に工事は丁寧にされており、30kmごとに設置予定の宿場町の建築も順調に行われているようだった。走り始めて2時間弱で街道整備の最前線に到着した亮二は、ストレージから超美味しい巨大な水筒を取り出して水を飲みながらリカルドを探し始めた。
「ねぇ。リカルドを探しているんだけど、どこに居るか知らない?」
「なんだ? 街道整備の責任者のリカルドの事か? あんな役立たずの事なんて知るかよ! 自分で探しな!」
近くを歩いていた男性に声を掛けた亮二だったが、あまりにも刺々しい言い方に面食らっていると、男はなにかを思いついたかのように話し始めた。
「おい。いい服を着てるところを見ると、リョージ伯爵と知り合いじゃないのか?」
「そうだね。知り合いってレベルじゃないね」
亮二の言葉に男は嬉しそうにすると、馴れ馴れしく亮二に近付いて肩を抱きながらお願いをしだした。
「なあ。リョージ伯爵に俺の事を紹介してくれよ。リカルドなんかより絶対に役立つ男だぜ?」
「へぇ。リカルドより役立つんだったら紹介してもいいよ」
男の言葉に亮二はニヤリと笑いながら紹介する事を約束するのだった。
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「おい! リカルド! 客だ!」
「ブルーノ! 俺は街道整備の責任者だぞ! 幼馴染でも俺が上司なんだから言葉使いから直せ!」
ノックもせずに豪快に扉を開けて中に入ってきたブルーノにリカルドは渋面になりながら叱責した。
「うるせえ! たまたまリョージ伯爵の近くに居ただけで騎士になったくせに偉そうにしてんじゃねえよ!」
リカルドの叱責を鼻で笑い飛ばすとブルーノは後ろに居た亮二に対して話し掛けた。
「おい。ちゃんと、リカルドのところに連れて来てやったんだから約束を忘れるなよ! じゃあ、リョージ伯爵と話をつけて俺に連絡を寄越せよ!」
「分かった。紹介はするけど採用されるかはブルーノさん次第だからね。そこを間違えたら駄目だよ?」
亮二の言葉にブルーノは「会えば俺の良さなんて一発で分かるんだよ」と豪快に笑いながら部屋を出て行った。その様子を眺めていたリカルドは、盛大にため息を吐くと亮二に対して頭を下げて謝罪してきた。
「申し訳ありません。リョージ伯爵。部下のブルーノが失礼を致しました」
「おいおい。ため口で話せって言ったろ? 街道整備を頑張りすぎて口調まで綺麗にしたのかよ」
亮二の言葉にリカルドは苦笑しながら口調を改めて話し始めた。
「謝罪するんだから敬語は当然だろ? リョージは主君なんだから」
「じゃあ、謝罪は受け取った。だから敬語はもうやめろよ」
2人はお互いの言葉に笑い合うと久しぶりの再会を喜ぶのだった。
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「遅い! もっと早く来る話だったよな?」
「ごめん。ごめん。俺もまさか領地持ちになるなんて思わなかったんだよ。今日は、ここに泊まらせてもらって、明日視察をさせてもらうから。それと、お願いがあるんだけど……」
亮二からの提案にリカルドは軽く同情しながらも喜んで提案を受け入れるのだった。
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