第28話 試練の洞窟広間の攻防 -戦線はいつもぎりぎりですね-
広場に突入してきた魔物との戦闘が始まって20分が経過していた。バリケードを有効に活用した防御陣を敷いているため、魔物が広間に雪崩れ込む事は何とか防いでいるが、魔物は仲間が倒されようと気にすること無く突撃を繰り返しており、その勢いは衰えるどころか増しつつあって駐屯軍の中にもけが人が増えてきていた。
「このままではジリ貧ですね。戦線的には厳しいかもしれませんが1人を外への連絡に回して増援を頼みましょう」
「そうですね。では貴方に連絡役をお願いします。おいお前ら!カレナリエンさんが抜けるが応援が来るまでは大丈夫だよな!」
「当たり前っすよ!カレナちゃんが抜けた位で崩壊する様なやわな鍛え方はしてないっすよ!」
「まだ、リョージに勝ってないからな。丁度いい練習相手になりますよ」
カレナリエンの提案に駐屯軍の部隊長は頷くと部下に声を掛け、部下達からも笑いながら力強い答えが返ってきた。
「ち、違います!私は回復役なので残ります。私以外の誰かを伝令に回して下さい。そうだ!ミルコさんにしましょう!彼は来週結婚されるんですよね?」
「俺?俺の事なら大丈夫ですよ!来週、結婚をするからって女の子を犠牲にしてたら彼女は俺の事を認めてくれないでしょうね。それに仲人の部隊長を置いて行ったら、誰が挨拶をしてくれるんですかって!」
指名されたミルコはカレナリエンの提案におちゃらけながら答えると、目の前にいた魔物に斬りかかった。カレナリエンも回復役として引くに引けず、部隊長と伝令役を誰にするかについて不毛なやりとりを続けていた。2人のやりとりの間にも戦線は膠着状態から駐屯軍の疲労が徐々に蓄積されつつ有り崩れ始めていた。
それぞれの能力自体は駐屯軍の兵士達の方が上であったが、魔物は数を頼りに休む事も無く波状攻撃をかけ続けてきている。駐屯軍の兵士達が精鋭部隊とはいえ、バリケードを使うことによって出口を3箇所に絞って防衛する事がやっとであり、時間の経過とともに限界に来ていた。
「カレナリエンさん、そろそろ限界のようですね。戦線を後退させながら出口に向かうので引いて下さい。先陣はカレナリエンさんで殿は私が努めます」
「撤退は分かりましたが、絶対にダメですからね部隊長!殿だからって犠牲にならないでくださいよ!ミルコさんの結婚式では責任をもって挨拶してもらいますからね!」
死者こそまだ出ていないものの回復魔法を使える者が魔力切れを起こしかけており、このままでは戦線が崩壊すると判断した部隊長は全体に命令を下した。部隊長の冷静と言うより自らを犠牲にする事を厭わない達観した内容に、この状況では誰かが犠牲になる必要が有ると分かっていながらカレナリエンは泣きそうな顔になりながら了承した。
「あれ?ひょっとしてカレナリエンさん達って大ピンチ中なの?」
背後から聞こえてきた声に泣き顔は見せられないと思いながら無理に笑顔を作るとカレナリエンは振り向いた。視線の先には慌てて駆けつけてくる亮二とマルコの姿があった。
□◇□◇□◇
泣き顔を無理に笑顔にしながら振り向いたカレナリエンの姿を見て全てを理解した亮二は、カレナリエンに対して強く頷くと「戦線を押し上げるぞ!マルコは左!俺は右に行く!」と叫んで右翼で戦闘を行っている駐屯軍兵士3名の前に出ると豚人を一刀のもとに切り裂くとその勢いのまま前線を押し上げ始めた。
「おい!無茶するな!」
右翼にいたディーノからかかって来た声に「大丈夫!これ飲んで落ち着いたら戦線に復帰して!それまでは俺1人で支えるから」とストレージからポーションを3本取り出すとディーノに向かって投げつけて、バリケードから飛び出してきた魔物達を片っ端から切り裂いて戦線を維持し始めた。亮二の戦いぶりに呆然となっていた兵士たちが我に返って目を向けると、そこには模擬戦の時よりも鋭く激しく流れるように魔物達と戦いを繰り広げている亮二の姿があった。
「俺達との模擬戦は手加減をしてたのか?俺達が3人がかりで維持していた戦線を1人でやっているぞ。大体、倒した魔物達が一瞬で消えるのはどうなってるんだ?」
駐屯軍兵士達の目には亮二が倒した魔物が一瞬で消えるように見えていたが、実の所は魔物を絶命させたことを確認してストレージに片っ端から収納しているだけだった。広間に来るまでの戦闘の中で倒した魔物が邪魔になる事に気付いた亮二は戦いながらストレージに収納するスキルを磨いていたのである。
- 魔物の強さ自体は大したことは無いが数が凄いな。先に倒されている魔物も収納しとくか。戦いの邪魔になるからな -
背後で倒した魔物を収納しているのが兵士達には消えていく様に見えており、その現象に驚きの声が上がっていることには亮二は気付かなかったが、突然上がった大歓声には思わず振り返ってしまった。亮二の目に映ったのは力強く拳を握りしめて身体を動かしている兵士達だった。
「なんだ、このポーション!今までの疲れと傷が一気に無くなったぞ!これなら幾らでも戦える!」
亮二は戦線に復帰してきた3人に「ここは任せます!」と告げると中央と左翼を同じ様に救援に行きポーションを手渡していった。全員が魔物の襲撃直後と同じ状態に戻った事を確認すると中央で回復に専念していたカレナリエンや回復魔法が使える兵士3名にマナポーションを渡していった。
「なにこれ!さっきまで枯渇しそうだった魔力が完全に回復しているんだけど」
「なあ、リョージよ。あのポーションは秘薬かなんかか?見たことも聞いたこともないぞ。飲んだだけで体力や魔力、ましてや傷が回復するポーションなんて。マナポーションを飲んだカレナリエンやそこの3人も完全に魔力が回復したって言ってるぞ?」
左翼を担当していたマルコも戦線が回復したのを確認して中央に戻り、ポーションの効き目が今までの物とは全くの別物である事の確認を亮二に行った。
「ああ、あれはウチノ家特製の秘薬だよ。材料が特殊なんであんまり作れないけどね」
「そんな秘薬を大量に使って大丈夫なのか?すでに20本以上は使ったろ?」
「気にするなよ、マルコ。秘薬だからって大事にしてても結局、戦線崩壊して全滅してたら意味ないだろ?」
マルコと亮二のやりとりを聞いていた部隊長は「すまん。この恩は一生忘れない」と頭を下げるのだった。
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