第120話 人気投票の結果発表 -イベントは楽しいですよね-
「そ、そう言えば伝言が有るって言ってたよね?」
カレナリエンから”普通の人”では無いと断言されて反論できずに固まっていた亮二は、何とか再起動に成功すると冒頭でカレナリエンが”伝言が有る”と言っていた事を思い出して、無理やり話題を変えようとした。
「ああ、そうでした。今日の入学テストは午後からになっています。それと覚えてらっしゃいますよね?午前はギルドで一番売れた屋台の表彰をするって事を」
あからさまな亮二の話題変更に乗る形で、カレナリエンは亮二に今日の予定を伝えてきた。亮二は表彰の事をすっかりと忘れていたが、「ヤダナカレナリエンサンワスレルワケナジャナイデスカ」と返事をしてギルドに向かおうとしたが、魔術学院の入学テストの事について何も聞いていない事を思い出した。
「そう言えば、入学テストってどんなことするの?王立魔術学院って言うくらいだから魔力量の測定とかするのかな?」
「そうですね。基本的にはギルドでやったのと同じになりますね。”魔力測定””属性測定”はありますし、”詠唱速度””連射能力”他にも”どれだけ魔力を込められるか”とか、魔法の活用方法とかも採点対象になりますよ」
亮二の質問にカレナリエンは審査内容について伝えると、頼まれていた伝言を思い出して亮二へ伝えてきた。
「そうでした。ハーロルト公とユーハンから伝言を預かっているんでした。『入学試験は全力でやっていい。最初の魔力測定の時は魔道具を壊してもいいからな』だそうです。個人的には壊すのは無しにして欲しいですけどね。魔力測定器って金貨500枚はしますから」
「壊しても弁償しなくてもいいんだよね?払えって言われたら一括で払うけどさ」
「壊してもハーロルト公が弁償してくれるそうですよ。って言うより壊すの前提で、前みたいに一括で払う気なんですね」
自分の伝言に対しての質問に答えながらも壊す事が前提になっている会話に、呆れたような返事をしたカレナリエンに対して亮二は満面の笑みで答えた。
「だって、魔力測定器を破壊するのってテンプレでは必須でしょ!前回は出来なかったけど」
「壊さなくていいんですよ! それにしてもリョージ様は”てんぷれ”ってよく言いますけど、”てんぷれ”ってどういった意味なんですか? ニホン国独特の言葉ですよね?」
「良い事を聞いてくれた。そう! 俺の国で”テンプレ”とは”あらかじめ決定付けられた運命”って意味だよ。角を曲がったらパンを咥えた異性とぶつかるとか、『ここは俺に任せて先に行け』って言ったらほぼ死んじゃうとか。初めて入ったギルドで美人受付嬢に会うってのもテンプレの一つだね。そして美人受付嬢と仲良くなる事も含めて。婚約まで出来たのはテンプレじゃ無かったけどね」
亮二はテンプレについて説明すると片目をカレナリエンに対して瞑ってみせた。こちらの世界でもウインクは通じるようで、カレナリエンは顔を赤くすると「知りません」とそっぽを向くのだった。
◇□◇□◇□
「リョージ・ウチノです。場所を借りて悪いけど、皆んな揃って…って、メルタ何してるの?」
「ギルドの人が足りないとの事で駆り出されました。カレナは逃げたみたいですが。リョージ様の入学式には行きますのでご安心ください」
「逃げてないわよ!嫌だったから話を聞いてない振りをしただけだから!」
亮二が受付で話し掛けた相手がメルタである事に驚いたが、王立魔術学院の入学式と謁見があるこの時期は貴族が集まり、それを見越して商人も集まり、商人が集まるので物が集まると人も増える。そして人が増えるとギルドへの依頼が増えてギルドも忙しくなり人が足りなくなるとの事だった。
「え? ずっと忙しいの? メルタには屋敷を買ったらメイド長として働いてもらうつもりだったんだけど」
「もちろん、そうなればギルドの仕事は断りますよ。リョージ様の方が大事ですからね。その時はカレナに代わりに働いて貰いますから」
「やらないからね!」
亮二とメルタ達とのやり取りを静かに周りで聞いていた冒険者達から怨嗟の声が聞こえてきた。
「だれだよ、あいつは」
「貴族様かよ! 屋敷を買うからメイド長をやれって言ってたぞ」
「無理矢理だったら俺が何とかしてやるんだが、メルタさん嬉しそうなんだよな」
「しかも隣に超可愛い子を連れてるぞ」
「何とか出来る相手じゃねえよ。あいつはリョージだぞ」
「え! あの”ドリュグルの英雄”の?牛人を3体討伐して傷一つ負わなかったって噂の!」
「そうだよ。子供みたいだが敵対したら容赦しないそうだぞ。刃向かった奴が翌日には白髪になって目が死んでるって話だ」
周りからの呟きが全て聞こえてくる状態だった亮二は「俺も見た事ないわ! そんな恐ろしい奴は」とため息を吐きながら屋台店主が集まるスペースを聞くとそちらに足を向けるのだった。
◇□◇□◇□
「お待たせ。って何か人多くない?見たところ50人くらい居るんだけど?」
「えっとですね、リョージさんが行われていた人気投票ですが、意外と人気が出まして。結局、8店舗に渡した木片が全部木箱の中に入っちゃたんですよ。で、どうしようかなと皆で悩んだ結果が『リョージさんに相談しよう』ってなった訳です。で、周りの人達は結果が楽しみで集まっている人達ですよ」
亮二は念の為に木箱の中の木片を確認したが不正をしている店は1店舗もなく公正な勝負の上での引き分けとなるようだった。
「よし! じゃあ、8店舗全部に銀貨5枚ずつ渡すよ。それと、ちょっと待ってね」
亮二はそう言うとストレージから鉄のインゴットを取り出すと8個の屋台の形の小さいオブジェを作りだし、それぞれを店主に手渡した。
「これは?」
「第1回人気投票結果の最優秀店舗として渡しておくよ。どれも美味しかったって事だもんね。もちろん後で食べに行くから、まずかったらオブジェを取り上げるからな! オブジェを置いてる店は『”ドリュグルの英雄”であるリョージ・ウチノが旨いと認めた店』って宣伝してくれていいから!」
亮二がそう言うと店主たちは宣伝効果の高さに気付いたのか銀貨とオブジェを貰って大喜びすると「今日の俺の店は材料が無くなるまで奢りだ!」「私の店もよ!」「俺んとこもだ!」と次々と宣言をして、集まっていた見物客からも冒険者達からは大歓声が上がるのだった。
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