第121話 水飴に関して -作って貰えそうですね-

 屋台の店主や見物客、冒険者達が盛り上がっている中で、少女と年老いた男性の2人だけが盛り上がりに参加せずに、亮二達をジッと見つめている事に亮二達は気付いた。亮二が視線を向けると少女は頭を下げ、年老いた男性は亮二の事を値踏みするように全身を眺めていた。


「あっ!ソフィア!約束通りギルドに来てくれたんだ!水飴を売ってくれて有難う!」


「は、はい!旦那さま!住所を聞こうとギルドに来てみたら皆さんが『リョージ様が来る』と聞きましたので待っていました。昨日は”水飴”を買って下さって有難う御座いました…痛いので離してもらっていいですか?」


 嬉しそうな大声と勢い良く近付いて両腕をがっちりと掴んだ亮二に若干怯えた小声で返事をしてきたソフィアに気付いたカレナリエンが、「この子怯えてるじゃないですか」と亮二の頭を軽くチョップしてジト目で睨み付けるとソフィアの前に出て「どうしたの?」と話し掛けた。


「え、えっとですね。昨日、旦那さまが水飴を買って下さって、おじいちゃ…族長に会わせて欲しいと仰いましたので来てもらいました」


「後は儂から話させてもらいましょう。孫のソフィアがお世話になったようで感謝致します。また、我らが作った”フツウソノベ”に”水飴”と名前を付けて下さり有難う御座いました。嬉しそうにソフィアが帰って来てから『”水飴”って言おうよ』『”水飴”っていい名前だね』と煩かったですわ」


「ほっほっほ」と笑いながら話す年老いた男性に対してソフィアが「もう!おじいちゃん!それは内緒って言ったじゃない!」と赤い顔で擬音で表すなら「ポカポカ」と叩いていた。


「リョージ様?これも朝お伺いした”てんぷれ”って奴ですか?」


「いや、これはテンプレでは無く”お約束”だな。ソフィアは怒る時に頬を膨らませて『むー』って言ったり、喜ぶ時は『やったー』ってビョンと跳んだりするんじゃない?」


「な、なんでそんな事を知ってるんですか?当たってます!」


「すいません。そんな的確な返事が返って来るとは思わなくて冗談のつもりだったんですが」


 驚いた顔で返事をしたソフィアに、「ねっ」とカレナリエンに向いて力強く頷いてみせた事に、カレナリエンがゲンナリしながら返事をしたのを待っていた族長が話し始めようとしたので、亮二は場所を変えるためにメルタに会議室を借りるのだった。


 ◇□◇□◇□


「取り敢えず儂の話を聞いてもらえますかの?まずは、リョージ様。この度は”水飴”をご購入頂き有難う御座います。あれの良さを理解して頂ける方が居るとは思いませんでした」


「なんで?”水飴”は甘いからそれだけで売れるんじゃないの?」


 首を傾げながら質問する亮二に族長は苦笑いしながら答えた。


「粘り気がある時点で『スライムみたい』と嫌がる人が多いのです。それに造り方は秘密にしているので”怪しい物”と思われるようですな」


「ソフィアから聞いたけど、中々売れないって話しだけど”水飴”を今後どうするの?」


「そうですな。東の国で似た様な甘い調味料があると聞きましたので行ってみようかなと。王都に残りたい者がいるようですので、私と後5名くらいの別行動になりますかな」


「ちなみに、一族ってどのくらい居るの?」


「儂とソフィアを入れて40人くらいですな。世帯数で言えば8軒程になります」


「”水飴”を卸して貰うにはどのくらいかかる?」


「ソフィアがお渡しした瓶なら1日くらいで出来ますかな。それ以上になると今の設備では出来ないかと。なぜそのような質問を?」


 亮二の質問に答えながら不審そうな顔で問いかけてきた族長だが、亮二は下を向いてブツブツと呟いているのを聞いて思わず亮二の顔を見つめた。


「大きな鍋は簡単に用意出来るとして、大麦麦芽を作る設備も要るよな。鍋を設置するのと、ろ過する為の場所も近付けないと駄目だよな。全体的にかなり暑くなるから作り手が倒れないような施設にする必要があるしな。”透明の水飴”にするところが秘伝なんだろうな。麦芽糖を魔法でなんとかして分離して透明にしてるんだろうけど…「リ、リョージ様?なぜ秘伝とされる内容をご存知なのですか!」」


「え?何でって…そう!あれだよ!あれ!イオルス神からの啓示が有ったんだよ!」


「答える気無いでしょ、リョージ様。駄目ですよ族長さん。リョージ様がこんな言い方をする時は、何も言う気が無いって事ですから。そんな時は”リョージ様だから”って諦めるしか無いんですよ」


 族長の驚愕しながら問い詰めてきた内容に対して、亮二の人を喰った返事にカレナリエンが溜息を吐きながら生暖かい言葉を族長に掛けると、族長は何となく納得したのか弱々しく頷いた。


「なるほど”リョージ様だから”ですか。いい言葉ですな。これから我が一族でも使わせて頂きましょう」


「え!ちょっと族長さん!なに真面目な顔で悲壮感漂わせて言ってるの?駄目だよ!もっと前向きにならないと!」


「取り敢えず、元凶のリョージ様がその台詞を言っちゃ駄目だと思います。それよりもそろそろお昼になりますけど食事はどうされますか?」


「そうだね。じゃあ、せっかく会議室を借りているからここで食べよう。その前にこれを試食してみてくれる?」


 亮二はストレージからソフィアから買った小瓶を取り出すと、中からビー玉サイズの玉を取り出して族長とソフィア、カレナリエンに手渡した。


「リョージ様、これは?」


「俺の国で”きなこ玉”って言ってるお菓子だよ。水飴ときな粉を同じ分量で混ぜて甘味料を足したら出来上がり!取り敢えず食べてみてよ!」


 亮二から受け取った”きなこ玉”を食べた3人は今まで食べた事の無い味に驚きながらも美味しさに舌鼓を打った。


「美味しいです!リョージ様!これが”水飴”を使って作ったお菓子なんですか?」


「そうそう、乾燥した豆を粉状にして温めた”水飴”と練り合わせて、食べ頃の大きさに切り分けた後で粉状の豆「きな粉」って言うんだけど、それを振り掛けたら出来上がりだよ」


「これを販売したら大人気になるんじゃないですか?」


「なるだろうね。で、族長に相談が有るんだけど。族長たちが住んでいる場所ってどこなの?」


「今は王都の外れにある所でテント生活をしております」


「え?テント生活?なんでまた?」


「ソフィアから聞いておりませんか?私達は生活に困って一族を挙げて王都にやって来たのです。結局、王都でも生活に困って東に行こうとしているん…」


 族長は自嘲しながら話しだしたのを亮二は手を上げて遮った。


「ちょっと待って!じゃあ俺が住む場所を用意したら俺のために”水飴”を用意して”きなこ玉”とかを作ってくれる?」


「いいじゃない!お爺ちゃん!リョージ様が住む所を用意して下さるんだから”水飴”を作ろうよ!」


「黙っておれ!ソフィア、そんな簡単な話じゃないのじゃ。リョージ様、失礼ながら我が一族は40名おりますが。それだけの人数を養って頂けるのですかな?」


「いいよ。その辺はカレナリエンに任していい?土地さえ買ってくれたら後は俺が家を建てるから。20軒くらいの住居が建てられる場所と、一緒でも離れてても良いから水飴工場が建てられる場所もお願い」


「工場の大きさは40名が働ける大きさで良いですか?」


「そうだね。出来そう?」


「王都と言っても色々有りますからね。場所に関しては任せて下さい。大事な賃金の話をされてませんよ」


「そうだったね。取り敢えず”衣食住”は俺が保証する。”水飴”に関しては出来高次第で交渉を始めよう。まずはソフィアに渡したお金とここに金貨5枚入っている袋を渡すから、皆の衣服や生活用品を整えて美味しいものを食べて待っといて。準備が出来たら連絡するから」


「リョージ様、本当に感謝の言葉も有りません。我ら一族は今後、リョージ様の為に命がけで働かせて頂きます」


 族長は袋を受け取ると頭を下げて一生の忠誠を誓うのだった。

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