第59話 鉱山訪問 -そろそろ魔法を使いたいですね-

 屋敷でのメイド騒動が終わった翌日となり、亮二は与えられた屋敷での生活に必要な物についてはメルタ達に一任し、夕方頃には戻る事を伝えてドリュグルの街から2時間離れた場所にある鉱山に向かっていた。受付には以前依頼を受けた時に対応してくれた男性はおらず別の男性が暇そうにしていた。


「おはようございます。前のおっちゃんは居ないの?」


「お!リョージか。お前さんのお陰で皆が忙しく採掘が出来るようになって、嬉しい悲鳴をあげているよ。前のおっちゃんって、ひょっとして鉱山長のことか?鉱山長なら今日は潜る日じゃないかな」


 受付の男性はそう答えると鉱山の入り口を指さした。


「俺も潜ってもいい?」


「ユーハン伯から『リョージに関しては可能な限りの便宜を図るように』って言われてると鉱山長が言ってたからな。この書類にサインをしてくれたら潜ってもいいらしいぜ」


 - さすが、ユーハン伯は分ってるな。ここ以外にも便宜を図られている所はあるんだろうな多分 -


 亮二は受付から書類を受け取るとサインをして坑道に入っていった。坑道は亮二がイメージしていたよりも綺麗に整備されており、広さや高さも十分に確保されていてゲームに出てくるダンジョンの様になっていた。実際に廃棄された鉱山に魔物が住み着いてダンジョン化している所もあり鉱山として栄えていた街が冒険者のための街に転身している事もあるのだった。


「よし、インタフェースを起動しながら進めば最短で鉱山長の所まで行けるな」


 亮二はインタフェースを起動して鉱山長を検索すると「下層3階」と表示されたのでマーキングを行うと、検索範囲を15mに設定して敵意のある魔物に襲われても大丈夫な状態にして進み始めるのだった。


 □◇□◇□◇


「お?リョージか?どうしたんだよこんな最下層までやって来て。途中で魔物に襲われなかったか?」


 最下層に到着した亮二は鉱山長がいる場所まで脇道をせずに真っ直ぐに彼の元に向かっていた。鉱山長は軽装でやって来た亮二に対して心配そうに問いかけたが予想外の回答が返ってきた。


「魔物ってやっぱり出るんだね。襲ってきたのを片っ端から倒していったけど大丈夫だよね?」


 亮二の「邪魔だから倒したよ」と言わんばかりの言い方に鉱山長は苦笑すると「さすがは“ドリュグルの英雄”だな」と呟くと、亮二が何故この場所に居るのか再度質問をするのだった。


「で、もう1回聞くが何でこんな最下層までやって来たんだよ?今日は坑道を伸ばす仕事が有るからお前の相手はしてられないぞ?」


「丁度良かった。ちょっと試したいことが有るから手伝わしてもらってもいいかな?」


 亮二はそう言うと鉱山長に自分が考えているプランを話し始めた。


「って事は、お前さんの【土】属性魔法を試すために手伝って欲しいってことか」


 亮二の話を聞いた鉱山長は渋い顔をしながら考え込んだ。確かに亮二は鉱山で発生していたドリュグルの街への運搬問題を解決してくれた。1年間は鉱夫とギルドの依頼で何とかピストン運搬をして、その間に運搬業者を探す予定だったのが亮二の活躍で一気に解消され半年は掘ることに専念できるようにはなっている。だが、それとこれとでは話が違う。個人的には面白そうな話なので乗りたいが、鉱山長としては安易に許可する事は出来なかった。


「恩のあるお前さんの頼みだし、ユーハン伯にも便宜を図れと言われているから受けたいがな、鉱山長としては…「じゃあ、30分だけ付き合ってよ。それでダメだと判断したら諦めるから」」


 亮二から懇願された鉱山長は「30分だけだぞ」と念を押して拡張予定の場所に亮二を連れて行くのだった。


◇□◇□◇□


「お前らちょっと休憩だ!今から30分ほど”ドリュグルの英雄”のリョージが試したいことが有るそうだから、そこを空けてやってくれ!」


 時間外の休憩の号令が鉱山長から入った鉱夫たち10名ほどが鉱山長と亮二の元に集まってきた。


「鉱山長、せっかく乗ってきたのに休憩なんて入れられたら今日の行程が終わりませんぜ」


「すまんな。ちょっとだけリョージがやりたい事が有るそうだから好きにさせてやってくれないか?」


 亮二を見つめる10名の視線を一手に引き受けた亮二は胡散臭い感じで見られているのを実感すると【土】属性魔法でテーブルと椅子机を創りだし、その上に飲み物と軽食を用意した。


「皆、作業の邪魔しちゃってごめん。鉱山長から話しがあった通り、30分だけ俺に時間を貸して欲しい。それまではここに用意した物は好きに飲み食いしてくれていいから」


 突然、亮二がテーブルや椅子、飲み物や軽食を取り出したのを驚愕をしながらも1人が飲み物を飲んで「冷たいっ!」との感想と、さらに驚愕の表情を浮かべた。鉱夫たちが飲んだのは果物水だが、鉱山の奥どころか、ドリュグルの街でも本来は飲むことが出来ない冷やされた果実水だったからだ。亮二は更に【土】属性魔法で大きな器を創り出すと、【氷】属性魔法のアイスボールを小さい状態で固定して器をいっぱいにすると「ここに有る氷も使っていいから」と言って、唖然としている鉱夫たちを放置して鉱山長を連れて奥に進んでいくのだった。

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