第21話 ギルドでのトラブル -自分に関係なくてもテンション上がりますね-
ギルドの掲示板の前で亮二は途方に暮れていた。上から下、右から左までをくまなく確認したが、亮二の冒険者ランクで受けられる討伐系の依頼が全く無いのである。ランク【H】で受領できる依頼を何回見ても「お庭の掃除をお願いします」「迷子の猫を探して下さい」「ゴミが片付けられなくて困ってます」「犬の散歩をして下さい」「力のある冒険者募集!鉱石を運んでくれ!」などしか無いのである。せっかくデビュー戦なので討伐系依頼をバシッと決めたかった亮二からすると肩透かし以外の何物でもなかった。
- どうすんだこれ?ランク【H】は駆け出しだから討伐系の依頼が無いって事だよな。確かに依頼を頼む方にしても駆け出しに依頼なんてしたくないもんな。なんか【H】ランクの俺でも受けられるような依頼は無いかな?異世界モノなら「死蔵」された依頼とかが有るんじゃなかったけ?メルタさんに聞いてみるか -
亮二が掲示板に貼られている依頼は諦めてメルタに死蔵依頼が有るかを聞きに行こうとした時、1人の少女がギルド依頼受付所で職員と揉めているのが目に入った。
「どうしてですか!依頼を頼む時は報酬や冒険者ランクは依頼者が自由に決められるはずでしょ!!」
少女の抗議の声を受けて受付の男性は困った表情で説明を始めた。
「確かに、ギルドではランクや報酬については基本的に依頼者にお任せしております。ただ、内容によっては介入もさせて頂いております。登録されようとしている今回の依頼についてはランクの低い冒険者では危険が多くて達成が困難ですし、仮に掲示板に上げても受諾する冒険者はいないでしょう。もし、間違って受諾する冒険者がいたとしたら尚更困ります。失敗するだけならまだしも、帰って来ないとなったらギルドの責任問題にもなりますので」
受付男性から正論で諭され、反論できなくなった少女は騒動に興味を持った冒険者達が集まっているのに気付くと、ギルドの受付男性との会話を止めて必死の形相で冒険者達に直接訴え始めた。
「お願いします!どなたか私の依頼を受けてくださいませんか?父が怪我をして大変なんです。報酬はあまり払えませんが、依頼を達成して頂いたら何でもしますので!」
「こらこら、貴方の様な子供が『なんでもする』なんて発言するのは感心しませんね。いったい何事ですか?」
騒動に気付いたメルタが受付から出てきて少女とギルドの受付男性の両方に問い正した。
「メルタさん、聞いてくださいよ。この子がランクの低い冒険者に依頼を出したいと言ってるんです。どう見ても【H】ランクでは無理な内容なので見直す様にアドバイスをしていた所なんですよ」
「そんなに難しい依頼なんですか?」
「薬草を取ってくる内容です。ただ、薬草が咲いているのは”試練の洞窟”ですので、依頼ランクはソロなら【C】でパーティーなら【D】以上が推奨ですね」
「薬草取得依頼ですか。確かに【H】ランクでは話になりませんね」
受付男性は困り切った顔で状況を説明しメルタも納得をしていた。少女は受付男性とメルタのやり取りを途中まで聞いていたが、ギルドでの受付は不可能だと感じたのか冒険者達に「お願いします。どなたか依頼を受けて頂けませんか!」と再び訴え始めた。
「ちなみに、嬢ちゃんは幾ら報酬を用意したんだい?」
野次馬の冒険者の1人が少女に確認すると「銀貨1枚です」と消え去りそうな声で返事が返ってきた。報酬額を聞いた冒険者たちからは失笑や呆れた声が次々と上がり、少女に報酬額を聞いた冒険者が諭すように話し始めた。
「嬢ちゃん。それは幾らなんでも無理だ。親父さんが大変なのは同情するし必死さは理解するが、その依頼なら金貨2枚は欲しいところだな」
「金貨2枚ですか!依頼を達成して頂いたら私を金貨2枚分になるまで使って頂いて構いません!どうかお願いできませんか!」
「嬢ちゃんみたいな子供を金貨2枚分になるまで使っていたら、どんだけ時間がかかるか分からねえよ。それにそんな契約をしたらギルドから警告もらうか、辺境伯から呼び出しを食らうわ」
亮二は少女がギルドの受付男性や冒険者とやりとりしている一連の流れを黙って聞きながらも静かに興奮をしていた。少女が父親を救うためにギルドへ依頼する為にやってきたが、依頼内容と報酬金額が合わなくて受付の職員とトラブルが発生。冒険者に直談判をするも危険度の高い割に報酬の少ない内容に冒険者から失笑や呆れた反応が返ってきて受けてもらえらえず、自らを金貨2枚分として提供してでも依頼を受けて欲しいと懇願する健気な少女。
「な、なんて王道的なテンプレ展開!これは俺のために用意された強制イベントに間違いない!この依頼を俺が受けなかったら誰が受けるんだよ。この流れには何の関係もないけどドリュグルって辺境伯が納めてる街なんだ!奥さん!辺境ですよ!辺境!!」
いきなりガッツポーズしながら叫びだした亮二に対して「何言っているのこいつ?」との目線が全て亮二に対して集中するのだった。
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