第20話 ギルドの受付との会話 -奢るって気分が良いですね-
「ふぁぁ眠い」
宿からギルドに向かう途中で亮二は大きな欠伸をすると身体を伸ばした。インタフェースを起動して体力、魔力の両方共が100%で表示されており、数値上は完全回復している事は確認したが、気分的にはまったくスッキリとしていなかった。昨日 “ミスリルの腕輪”に対して行った魔力充填で、魔力残量が5%を切った瞬間に意識が途切れて気がついた時には朝を迎えていたからである。
「5%で意識が途切れるなんて携帯電話のバッテリーかっての。0%になったら意識を失うとは思ったけどまさか5%でそうなるなんて。パーセントが減っても体調的には変化がなかったら油断してたよ。今後は10%を切った時点で魔法を使うのは止めとこう」
“ミスリルの腕輪”を握りしめたままの状態で、ベッドの上ではなく床の上で寝ていた事を考えると亮二がそう判断するのも当たり前だった。
気分はスッキリとしていなかったが、宿の朝食は満足の行くものだった。宿に併設されている食堂で食べた初めての朝食が異世界での本格的な食事だった。昨日の飲み会は亮二にとっては居酒屋の飲み会と同じノリだったため食事扱いにはなっていなかった。
「さっき朝食を食べたけど、こっちの食事は大丈夫そうだな。異世界モノとかだと半々くらいで料理の味が分かれるからな。こっちの世界は「上手い方」に分類されてるみたいでホッとしたよ」
食堂で出された朝食は麦芽パンに野菜スープと何か分からない肉の塊とコーヒーみたいな味のする飲み物だった。サラダが無いのは衛生的な面もあって生食の習慣が無い様なので仕方ないとして、味付け自体はシッカリとしており、パンは固めだったが野菜スープに浸して食べると程よくスープを吸って美味しく食べられた。肉に関しても基本は塩ベースだったが焼き加減が絶妙で肉汁が溢れる状態で提供され、朝から肉が出たにも関わらず美味しく食べることが出来た。
「絶対にあの宿屋で香辛料や味噌、醤油なんかの調味料を用意して飯を作ってもらおう。異世界に来た限りはテンプレ通りに食の革命を起こす必要があるしな。イオルスも『世界を回って下さい』って言っていたから食生活の向上も期待してるんだろう。ストレージにこっちの世界には無さそうな調味料とかを入れてるくらいだしな」
ストレージの【食料品】フォルダにある各種調味料を確認して、亮二は自分の世界にある様々な料理を思い出しながらギルドに向かうのだった。
◇□◇□◇□
「お早うございます。リョージさん。昨日はご馳走様でした」
「またか」と呟きながら亮二は疑問に思っていた。ギルドに着くまでに沢山の一般市民から昨日行った宴会のお礼を言われており、今まさにギルドの受付嬢からもお礼を言われると流石に違和感と共に疑問が出てくるのだった。
「おはようございます。今日は宿からギルドに来る途中に、何故か多くのお礼を一般市民の方から言われるんですけど?それに昨日って事は宴会ですよね?なぜ受付の貴方からもお礼が?」
「それはですね。昨日の宴会は冒険者だけじゃなくて騒ぎを聞きつけた近所の方がギルドを覗きに来たのを見て、マルコさん達が参加許可を出したからなんですよ。それで“誰でも参加が出来る”と噂になってあちこちから人が集まった様ですよ。ちなみにギルド職員も手が空いた人から順番に参加させてもらいました。もちろん私は先陣を切って参加してますけどね」
カレナリエンばりにえっへん!と胸を張っている受付を見て亮二は一連の御礼の言葉をもらった理由がやっと納得できた。
「どうりで人数が多いと思ったんですよ。冒険者限定でやったつもりでしたから、ドリュグルの街には冒険者が100人位は居ると思いましたよ」
「流石に100人はいませんね。50人位じゃないですかね?この街に常時いる冒険者って」
朝からお礼を言われた理由を納得していると受付嬢から小さな袋が亮二に手渡された。
「何ですか?これ?」
「昨日の宴会の残りの金額ですよ。金貨5枚位は残ってるんじゃないですかね?」
「結構残りましたね。足りないかと思ってたんですが」
「どんなパーティーをするつもりだったんですか?上級貴族でも一晩で金貨10枚も使うパーティーなんて無いですよ。それに金貨10枚も突然使ったら、この辺りのお店から商品が無くなりますよ。昨日もこの近所だけでなく別の場所からもお酒や食べ物を掻き集めたそうですからね」
呆れた声で受付に言われた亮二は、マルコから「金銭感覚を身に付けろ」と言われた昨日の事を思い出して慌てて話題を変えることにするのだった。
◇□◇□◇□
「ま、皆さんが楽しめたのならそれで良いです。これだけお話しといて貴方の名前を聞いていない事に気付きました。今更ですがお名前を教えて頂けますか?」
「そう言えばそうですね。失礼しました。私の名前はメルタ=レーンと言います。メルタって呼んで下さいね」
「こちらこそ、よろしくお願いします。メルタさん」
話題を変えることに成功したとメルタの笑顔を受けながら亮二がそう答えると、こっちの様子を伺っていた冒険者達から「カレナリエンちゃんだけでなくて、メルタさんとも仲良くなってやがる」「やっぱり世の中は金持ってる奴が勝つんだよな」「マルコに続いてリョージも独身男の敵と認定だな」との怨嗟の声が聞こえてきた。
亮二は改めてメルタを眺めてみた。黒髪のストレートで身長はカレナリエンより高く、カレナリエンを可憐と表現するとメルタは知的美人との表現がよく似合っている。「眼鏡を掛けた上で叱って貰ったら、あっちに居た友人が涙を流して大喜びするだろうな」と亮二は日本の友人の事を思い出していた。
「ギルドの2枚看板娘なんだろうな」と亮二は呟きながら、メルタから受け取った小袋をストレージにしまうと、冒険者達に少し世間話をしている所を見せつけてから依頼を選ぶために掲示板に向かうのだった。
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