第214話 自領訪問2 -水で盛り上がってますね-
「私は頼まれて仕方なく重税を課していただけなんです!間違ってもリョージ伯爵に対して反逆を企てていたわけではないのです。そ、そう!こいつらに脅されて仕方なく加担していたのです!」
「えぇ!そんな言い訳する?それは通じないだろ。お前が『こいつは捕らえよ。奴隷として売りに行くからな。金持ちの変態商人あたりが大金を出してくれるだろうからな』って言ってたじゃん。どう考えても情状酌量の余地はないと思うんだけど?」
役人の余りにもレベルの低い言い訳にゲンナリしながら亮二は、縛られている役人配下のリーダー格の男に視線を向けた。リーダー格の男は亮二を睨みつけているが、まだ余裕があるのか落ち着いた態度であり、役人との差に疑問を感じながら亮二は男に話しかけた。
「随分と落ち着いているね。さっき、役人に『お前達が犯人だ』って言われたのに」
「俺達は役人に雇われただけの冒険者だからな。役人の悪行なら傍で見ていたから、いくらでも証言が出来るぞ」
「いや、そこは悪行を見ていたなら止めろよ」
亮二の問い掛けに悪びれもせずに返事を返してきたリーダー格の男に、亮二は呆れながらツッコむと「これも仕事なんでね」と返事が返ってきた。一方、役人は「俺は悪く無い!悪いのはそいつだ!」を喚き続けていた。余りにも役人が騒がしいので猿ぐつわをして喋れないようにすると、リーダー格の男に向かって取引を持ちかけた。
「なあ、お前の知っている情報が有益だったら見逃してやってもいいぞ」
「本当か?俺の知っている情報だったら全て話すぞ」
リーダー格の男が嬉しそうな顔で乗ってきたのを確認した亮二は目を少し細めて話し掛けた。
「その前に1点だけ確認だ。さっき、役人が『行方不明にしろ』って言っていたが、村人を殺す気だったか?」
「それは契約外の話だな。俺たちが依頼を受けたのは『村人から私を護衛しろ』だったからな。それに冒険者が一般人を殺したら駄目だろ。いくら落ちぶれていても超えちゃ駄目な線は分かってるつもりだ。もし、殺すつもりだと答えたらどうす…」
亮二との会話で情報によっては解放してもらえると手応えを感じたリーダー格の男が、冗談交じりに「もし、殺すつもりだと」と話しだそうとした瞬間に、目の前にいた亮二から背筋が凍りつくような圧力を感じた。リーダー格の男が咽喉を引きつらせながら喋ろうとしたが、亮二はそれを許さず【雷】属性魔法を3重に掛けた“ミスリルの剣”を喉元に剣を突き付けて冷淡に見下すように話し始めた。
「俺は、そう言った冗談は嫌いでね。多少の冗談なら付き合うが、少なくとも自分の置かれている立場を理解して発言した方がいい。お前はなにか勘違いしていないか?」
「じょ、冗談だよ。す、すまなかった。ほんとに殺すつもりなんてないんだよ。冒険者証に殺人が記録されてしまうからな。そうなったら二度と冒険者ギルドの門をくぐることが出来なくなる」
真っ青な顔をしながら必死に謝罪するリーダー格の男に嘘が混じっていない事を確認すると、“ミスリルの剣”をストレージに収納して表情を一変させて笑顔で話しかけた。
「だったら、いいんだよ。俺も無駄に怒りたくはないしね。じゃあ、知っている情報を教えてもらおうか」
急に笑顔になった亮二に対して青い顔で頷くとリーダー格の男は知っている情報を全て話し始めるのだった。
◇□◇□◇□
「って事で、今回の件については、周辺の村を含む街を治めている代官が怪しいと睨んでるんですが」
亮二が村での一連の出来事を聞いていたハーロルトは、用意された紅茶を飲みながら苦々しい顔をしながら話し始めた。
「レーム伯爵領がそこまで腐敗しているとはの。リョージよ、申し訳ないが掃除をしっかりと頼むぞ。儂も別の角度から色々と調べてみるのでな」
「分かりました。取り敢えず、周辺の村と街を調査して風通し良くしておきますよ。レーム伯爵領全体が寄生虫に蝕まれている可能性がありますからね」
亮二はハーロルトへの報告を完了すると転移魔法陣に乗って最初に寄った村に戻るのだった。村に戻った亮二は困った顔をしている村長に近付くと笑顔で話しかけた。
「どうしたの?」
「おぉ!これはリョージ様!今回の件については本当に有難うございました。お陰さまで村の半分は救うことが出来そうです」
村長の言葉に亮二が「半分?」と首を傾げると村長は水量がかなり減っている、ため池を指差しながら説明を始めた。ため池は村長が治める村を含めた周辺の村全てを潤していた。今回の増税で村長の治める村は支払いが出来ずに水門が閉じられてしまったが、他の村は借金をしてでも税金を支払って、水を供給してもらっていた。その事自体は問題ではなかったが、役人は税金を支払った村に対しては通常よりも長い時間、放水を行ったようで、年間計画値の半分まで水量が減っているとの事だった。もうすぐ雨期が来るので、ため池の水量自体はギリギリ持ちそうだが、残りの水では畑全てを賄うことも出来ないため、範囲を絞って水を流すとの事だった。
「え?半分も枯らしちゃうの?それで、村の人達は生活は出来る?」
「仕方が有りませんな。餓死者は出ないと思っていますが、もし可能でしたら今年の税金は控えめにして頂ければ助かります。もちろん、こんな事をお願いしている責任は私の命を持って償わせて頂きますので、どうか村人達だけはお救い下さい」
亮二は暫く考えると、ため池の中央に向かって「“ウォーターボール”」と連続で呟きながら魔法を放った。ため池の水量が2/3に達した段階で魔法を撃つのを止めて、水量に満足すると「これでもう大丈夫!」と笑顔で言い放つのだった。
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