第213話 自領訪問 -村に行きますね-
「このままでは村が全滅してしまう」それが村人の総意であり限界だった。ため池が目の前にあるのに利用できない。広大な畑に水を撒くには井戸では賄いきれない。このままでは村が全滅してしまうとの焦燥感に突き動かされた村長や村人数名は、ため池がある場所で管理者である役人に切々と訴えかけた。
「お願いします!ため池を開放して下さい。このままでは育てた作物が全滅してしまう!」
「だったら、ため池使用税をさっさと持って来い。税金を納めもせずにため池を使おうとは言語道断だ!これから伯爵領を治められるのは、今まで優しかったレーム伯爵と違って“ドリュグルの英雄”と呼ばれ、魔物討伐だけでなく悪に対して数々の武名を上げられているリョージ=ウチノ伯爵だ。税金を払いもせずにいるお前らのような輩は厳罰に処されるだろう。大体、金も払いもしない奴らはリョージ伯爵に聞くまでもなく、俺が断罪してやる!」
役人が配下の者に「捕らえよ」と命令すると、ニヤけた顔で配下の男達が剣を抜いて村人達に近付き始めた。剣を抜かれて近付かれる恐怖に村長は青い顔をしながらも、毅然とした目で役人を睨みつけると役人に言い放った。
「今回の急な増税は、レーム伯爵が失脚してリョージ伯爵に変わったからでしょう!王都に行っている娘からの手紙で『リョージ伯爵は不正を正すために行かれるそうよ』と書かれていました。私はこれから領都に行って今回の件を直訴してきます」
「なに?それは困るな。よし、お前達。ここにいる者達は行方不明者だ。俺の所には来なかった事にしておこう。後は絞れるだけ絞って隣国に逃げれば済むからな」
村人達から悲鳴が、配下の者達からは歓声が上がった瞬間に、その場の雰囲気に全くそぐわない軽い声が両者に届いた。
「ねえねえ、なにやってるの?喧嘩?」
余りにも軽い亮二の問い掛けに一瞬呆気に取られた役人だったが、帯剣していて小綺麗な格好をしているとはいえ子供が1人だけだと分かると恫喝しながら近付いてきた。
「何だ貴様は?子供が出てくる場面じゃない!これから、この村民たちに天罰を与えねばならんのだ!ん?よく見ると整った顔をしているな。おい、こいつは捕らえよ。奴隷として売りに行くからな。金持ちの変態商人あたりが大金を出してくれるだろうからな」
「よし!問答無用でお前達を捕縛する!」
役人の返答に亮二は一瞬で真顔になって役人を殴りつけると、“コージモの剣”を抜いて村人と役人の配下の間に入ると「下がって!」と村人達に伝えるのだった。
◇□◇□◇□
「おいおい。お前みたいな子供が俺達を相手にしようってのか?俺達は子供だからって容赦はしないぜ」
「いいよ。武器も持たない村人相手に威嚇する程度のバカ相手に俺も本気にはならないから」
亮二に対して威嚇してきた男は軽くあしらわれると、一瞬で顔を真っ赤にさせて切りかかってきた。亮二は軽くサイドステップをして男の攻撃を躱すと、【火】属性魔法を付与させて剣の腹で男を殴りつけ燃え上がらせた。殴りつけられた男は剣を放り投げて転げまわりながら火を消していたが、一気に間合いを詰めた亮二にみぞおち辺りに蹴りを食らうと動かなくなった。
「そのままじゃ、焼け死んじゃうからね。よし、これで大丈夫」
亮二は無詠唱で“ウォーターボール”をぶつけて消火をした。突然、現れた“ウォーターボール”に伏兵が居ると勘違いし、動揺した男達に向かって一気に間合いを詰めるとリーダー格の男が持っていた剣を叩き落として喉元に剣を突き付けると「降参しろ」と低い声で告げるのだった。
「こっちを見ろ!お前こそ剣を捨てろ!剣を捨てないとこいつらを殺すぞ!」
「“ライトニングニードル”4連!」
村人に剣を突き付けて叫んできた男に対して、亮二はリーダー格の男に剣を突き付けたまま左手を男に向けると“ライトニングニードル”を4連で撃った。亮二から放たれた“ライトニングニードル”は村人に剣を向けていた男の四肢に吸い込まれるように突き刺さった。
「ぎゃぁあ!痛てぇ!痛てぇよ!ぐぁ!」
魔法で攻撃された男が痛みでのたうち回っていると、亮二から“ウォーターボール”が飛んできて意識を刈り取られた。一連の流れの中、なにも出来ずに眺めるだけだったリーダー格の男は格の違いを感じて戦意を喪失すると剣を手離すのだった。
◇□◇□◇□
「よし!そこの人はこっちに来てロープを渡すから。一人残らず全員縛って!“ライトニングアロー”3連!おい、どこに行こうとしてるんだよ」
亮二が役人の配下達を全員武装解除して一箇所に固めると両手両足を【土】属性魔法で固めて逃げられないようにし、気絶している2人も同じようにロープで縛り付けた。村人達が亮二からロープを受け取って縛ろうとしていると、隙を見て役人が突然走りだして逃げ出そうとした。
亮二は村人に指示をしながら“ライトニングアロー”を3連を放って役人の足と止めると、自分の頭上に“ファイアーボール”を固定させながら近付いて話し掛けた。
「おい、どこに行こうとしてるんだよ。お前には聞きたい事が山盛りあるんだよ」
「貴様!俺に対してこんな事をして許されると思うなよ!リョージ伯爵が来られたら、お前なんて捕縛して極刑にしてやるからな!」
「リョージ伯爵に言いつけてやる!」と言われた亮二は、苦笑しながら短剣と勲章とマルセル王からの任命書を取り出すと「君が言っているリョージ伯爵って俺のことね」と告げると真っ青な顔をしながら崩れ落ちるのだった。
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