第212話 寄り道する前の一コマ -ライナルトと話しますね-

「よっと。やっぱり便利だな。ライナルト」


「ええ、そうですね。ここまで改良出来れば研究の第一段階としては完了ではないでしょうか?」


 亮二が転移した先は領都に向かっている馬車の中ではなく、旧レーム領の領都からすればかなり南に位置する街に向かっている馬車だった。馬車の中ではライナルトが論文を書きながら待機しており、亮二が手に持っている鍵のような物を確認するのだった。


「特に異常はないな。これで俺の屋敷に設置していた転移魔法陣の片方を回収して別の転移魔法陣に使えそうだな。それにしても、鍵のようなアイテムを差し込むことで行きたい転移魔法陣を選べるって良く考え付いたなライナルト」


「私も、色々と研究をしていますからね。魔法陣の開発に関しては軍曹に負けないと自負していますよ」


 ライナルトは亮二からの賞賛を受けると嬉しそうにしながら転移魔法陣の改良について再び熱く語り始めるのだった。


 ◇□◇□◇□


 今までの転移魔法陣は2個で1組となっており、両地点に置く必要が有った。A地点からB地点に行くだけなら問題は無かったが、今回のように6か所から1か所に集合するような使い方だと、1か所に転移魔法陣を6個設置する必要があった。


 何かいい方法が無いかとライナルトに頼んでいた亮二はライナルトから「改良が出来ました」と呼び出しを受けた。亮二が研究室にやって来ると、彼の手には6つの鍵のような棒が握られており、転移魔法陣には鍵穴のような差込口が有った。


「これは?」


「この鍵は色によって行きたい魔法陣を選べます。例えば、金色なら王城に設置した転移魔法陣に、銀色ならハーロルト公爵の転移魔法陣ですね。お手数ですが、この鍵達と改良転移魔法陣に【時空】属性魔法を注いで頂けませんか?」


 ライナルトのお願いに亮二はストレージから“ミスリルの腕輪”を取り出して装備すると、鍵のような物と転移魔法陣に【時空】属性魔法を注ぎ始めた。


「ん?この転移魔法陣はいつものやつより魔力が必要だな」


「さすが、軍曹。その通りです。こちらの転移魔法陣は改良版になります。私の試算では、いつもの1.5倍の魔力は必要だとなっています」


 亮二はライナルトの説明を聞きながら魔力を注いで鍵と改良転移魔法陣を完成させると、疑問に思った転移魔法陣の運用に付いて質問をおこなった。


「鍵を差すだけなら1台で済むから便利だな。でも、タイミング悪く同時に乗ったりしたらどうなるんだ?」


 亮二の質問に「いい質問ですね」と嬉しそうにするとライナルトは説明を続けた。改良された転移魔法陣は亮二が鍵を差さない時は、相手側からしか移動する事が出来ず一方通行になり、鍵を差すと、こちらからの一方通行になるとの事だった。また、違う場所に設置されている転移魔法陣に誰かが乗ると、他の転移魔法陣は起動しない仕様に変更されており、衝突事故が起こらないようになっているとの事だった。


 ◇□◇□◇□


「これで、俺は行きたい場所に改良転移魔法陣を設置したら、縦横無尽に移動が出来るって事だな」


「そうなりますね。それと、転移魔法陣とは関係ないのですが、こんな物も作ってみたのですが見てもらっていいですか?」


 ライナルトはアイテムボックスから水筒のような物を取り出すと亮二に手渡した。亮二は水筒なような物を眺めると蓋を外して中を覗き込んだが何も入っていなかった。


「これは?」


「それは、私の開発した“巨大な水筒”です。軍曹は【水】属性魔法を使われるので必要を感じないかもしれませんが、軍曹と違って通常の人は水は生命線です。これは魔法陣を使って、軍曹のように【水】属性魔法を水筒の中に呼び出します。底に魔石を入れる箱のようなものがあるでしょう?ここに、予め【水】属性魔法を注ぎ込んだ魔石を入れて、水筒を逆さまにすると水が出てくるようになっています。【水】属性が付与された魔石さえあれば水が出てきますので、水の持ち運びが簡単になります。今は魔石が入っていないので単なる空っぽの水筒ですが」


 ライナルトから説明を受けた亮二は、ストレージからきのこのお化けの魔石を取り出して【水】属性魔法を注ぎこむと、何も入っていない水筒の底に魔石を収納して軽く振りながら逆さまにしてみた。


「おぉ!凄い!本当に水が出てくる!ちなみに、これって水はどのくらい出てくるんだ?」


「そうですね。魔石の量によっても変わってきますが、私が試した犬人の魔石1個の時は20リットルくらい出ましたよ」


 ライナルトの答えに亮二は大きく頷くと「やっぱり、テンプレの事をよく分かってらっしゃる。ライナルトはいい物を持ってるね」と賞賛するのだった。


 ◇□◇□◇□


「有り難うございます。ただ、今の軍曹は『てんぷれの事が分かっている』事に喜ばれたみたいですが?」


「流石ですね。ライナルト主任教授。君の洞察力鋭さには学院特別講師の私も脱帽ですよ。よっ!ライナルト大先生!素敵!」


 亮二のあからさまな持ち上げ方にライナルトは嫌な予感を覚えると、書きかけの論文や筆記用具を急いでアイテムボックスに収納して転移魔法陣に乗って亮二に挨拶を始めた。


「では、軍曹。私の改良転移魔法陣も無事に検証できましたので、これで失礼しますね。私は王立魔術学院用の鍵しか持っていませんので安心して改良転移魔法陣をお使いくださ…痛ぃぃぃ!離して下さい!軍曹!痛いです!」


「よし!ライナルトの洞察力が上がった事を記念して、暫く一緒に旅を続けようじゃないか。そう言えば、これから向かう街や村では水不足が深刻で、犬人の魔石を入れたら水が出てくるような水筒が欲しかったんだよ。俺がため池を作って【水】属性魔法で満たす方法もするんだけど、やっぱり飲み水としてなら水筒がいいよな。これから街1つと村を5箇所周る予定をしているんだが、村用の水筒を10個作ってくれ。おい、それと、さっきは良くも『通常の人は水が生命線』って言ってくれたな。俺が異常って言いたいわけだな!」


 亮二からアイアンクローを受けている状態で、ライナルトは「いや、ち、違います!そんなつもりは!って、10個って!」と叫んで逃げようともがくのだった

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