第4章
第211話 自領に向けて出発 -王都から旅立ちますね-
「みんな準備はいい?」
亮二の言葉にカレナリエンやメルタやクロが大きく頷くと、馬車の上から見送りに来てくれた一同に向かって挨拶を始めた。
「見送り有難う!卒業式の時にも言ったけど、俺の領地に来たら寄ってくれよ!ちゃんと歓待するから!それと、困った事があったら屋敷の管理人に手紙を預けてくれ!必ず駆け付けるから!」
「じゃあ、マテオと喧嘩したら手紙書いていい?」
「もちろんだ!ルシアを不幸にしたらマテオの給料を思いっ切り減らして、ルシアに渡してやるから安心しろ!その代わり、別れてないことが条件だぞ!」
「兄貴の代わりに特別クラスをまとめるから、安心してくれ!」
「当たり前だ!俺の代わりをするんだから、腑抜けたことをしたら再訓練をするからな!それとマイシカを不幸にしたら、前にやった地獄の特訓を3倍だからな!」
特別クラスのルシアやネイハムから声をかけられた亮二は大きな声で返事をすると、ルシアとマイシカは嬉しそうに、マテオとネイハムは真っ青な顔で大きく頷くのだった。そんな様子を微笑ましそうに見ていたシャルロッタが亮二に近付くと小さな声で話しかけてきた。
「リョージ君とクロちゃんと会談した次の日に、ライナルト主任教授から呼び出しを受けて、『シャルロッタ学院長からの熱い手紙を読みました。お気持ちは嬉しいですが、無詠唱の研究が終わるまで待ってもらって良いですか?1年で結果を出しますので、その後に結婚しましょう』と言われたのですが?手紙を出したのってリョージ君ですよね?」
「それは、リョージ様じゃなくて、私が犯人。ライナルト主任教授にシャルロッタの熱い思いを手紙で書いた。良かったシャルロッタが結婚出来て」
亮二が「手紙?」と首を傾げていると、クロが横から会話に入ってきた。クロから詳細を聞いた亮二は頭を抱えるとシャルロッタやルシア、ネイハムに謝罪するとクロに対してきつく叱責をした。
「そんな事をしてたのか?ダメだぞ!今回はたまたま上手くいったから良かったものの、一歩間違ったら取り返しのつかない事になってたんだぞ!人の恋路にちょっかいをかけちゃダメだ!次やったらシュバルツさんのところに帰ってもらうからな!皆に謝って来い!」
亮二の言葉にクロの瞳に涙が溜まり「ご、ごめんなさい。リョージ様」と嗚咽を鳴らしながら謝罪し、ルシアやネイハム、シャルロッタに謝りに行った。3人からは「結果として良かったからいいよ。でも、もうやっちゃダメだからね」と言葉を掛けられていた。
「珍しいですね。リョージ様が怒るなんて」
「当たり前だよ。上手くいったから良かったとしても、それは結果論であって、一歩間違ったら修羅場だからね。俺なら、クロにお膳立てしてもらって告白しても嬉しくないよ。自分の恋路は自ら力強く切り開くよ。カレナリエンやメルタの時のようにね」
カレナリエンが亮二の側にやって来て話しかけると、謝っているクロを見ながら呟くように亮二は話した。カレナリエンは嬉しそうに亮二の腕を取って身体を近付けると、微笑みながら茶目っ気のある表情で耳もとで話し始めた。
「じゃあ、エレナやクロちゃんの件も自ら切り開かれたんですね。ふふっ、冗談ですよ。2人のことは認めてますので安心してください。でも、今後は事前に相談してくださいね。あっ!愛人はダメですよ!」
「もう、増やさないよ!ってか、愛人なんて最初から居ないからね!」
憤慨しながら答える亮二を見ながら「増えるかどうかは分かりませんよ?」と言いつつも、カレナリエンは嬉しそうに亮二の身体に身を寄せるのだった。
◇□◇□◇□
「よし!じゃあ、出発するぞ!」
亮二の掛け声に御者が馬に鞭を入れると、静かに馬車が動き始めた。亮二達を乗せた馬車が屋敷から中央通りに進んでいくと、沿道から「リョージ様!店を開いたら来てくれよ!」「向こうに行っても、美味しいもんは王都に届けてくれよ!」「行った先で愛人作って、修羅場になったと新聞が出るのを待ってるぞ!」などと集まった多くの人から声が掛かった。
「誰だ!今、愛人って言った奴は!愛人なんて作るわけないだろ!」
沿道からの声に亮二が大きな声で叫ぶと、あちこちから笑い声が上がり「気を付けてな!」「向こうでの活躍が新聞に載るのを待ってるぞ!」とさらに声がかかると、亮二は大きく拳をかざして「任せろ!新聞を楽しみに待ってろよ!」と叫んで答えるのだった。
亮二達一行が水飴工場の前に差し掛かると、工場の前で従業員達が列を作って並んでいた。亮二が馬車から顔を出すと、「リョージ様!お気を付けて!」「美味しいレシピをいっぱい考えときますね!」「我々はリョージ様から頂いたご恩に報いるために、精一杯働きます!」などの声が王都を出る時の沿道よりも上がるのだった。
◇□◇□◇□
「よし、王都から大分と進んだよね?」
「そうですね。王都から2時間ほどでしょうか?」
カレナリエンの言葉に亮二は頷くと、「後はよろしく。何かあればすぐに戻って来るから」と告げると、“拡張の部屋”に入って設置していた転移魔法陣に飛び乗った。
「お帰りなさいませ。リョージ様」
先に転移魔法陣で屋敷に戻っていたメルタに「ただいま」と笑いかけながら客間への扉を開くと、ハーロルトが亮二の帰りを待っていた。
「お待たせしました」
「いや、こちらこそ呼び戻してすまんな。盛大に王都から出てもらうのも大事だったのでな」
現在、転移魔法陣は7組が完成していた。完成した転移魔法陣はマルセル王、ハーロルト、ラルフ枢機卿、宮廷魔術師ヘルマン、テオバルト騎士団長の各屋敷と王立魔術学院に設置され、その全てが亮二の屋敷と繋がっていた。今回、秘密裏の依頼があると聞いた亮二は自身の屋敷を待ち合わせ場所として指定し、ハーロルトが転移魔法陣を使って亮二の屋敷に来たのだった。ハーロルト公爵から手渡たされた巻物の中身を確認するとマルセル王からの手紙で、いつものようなフザケた内容ではなく真面目な公文書だった。
「“レーム伯爵領では重税を課していた噂がある。リョージ=ウチノ伯爵においては公明正大な領地経営によって、王国民の生活水準を元に戻すように務めよ”とありますね。“噂”って書いているのに“務めよ”って確定ですよね?重税してたって」
「そうなるな。儂の諜報機関でも情報を得られなかったからな。よっぽど、上手くやったんじゃろう」
ハーロルトが憎々しげに呟いているのをみて、亮二は慰めるように話しかけた。
「安心して下さい。俺が行ったら不正なんて一気に消し去ってやりますよ。ハーロルト公はお屋敷でお茶でも飲みながら待ってて下さい。取り敢えず、俺は領都に向かう前に周りの村や町を見てきます」
「最近、きな臭い噂も聞いておるからな。十分に気を付けて行くんじゃぞ」
ハーロルトからの言葉に亮二は大きく頷くと一旦、馬車に戻るために転移魔法陣が設置されている部屋に戻るのだった。
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