第210話 -水飴一族 やっと出番が来ましたね-

「もし宜しければこちらの商品も買って頂けませんでしょうか?」


 ソフィア=ラレテイが亮二に声を掛けたのは運が良かったの一言に尽きた。ソフィアの一族は森で狩猟や農耕、水飴作りなどをしながら暮らしていた。ある日、暮らしていた場所が魔物の大群に襲われ一族総出で撃退したものの、村は破壊しつくされて住める状態ではなくなっていた。ソフィアの両親を含めて一族にも少なからず被害が出ていた。ソフィアの祖父である族長は集められるだけの食料や水飴、日常品を持って村を廃棄して王都に活路を求める事を宣言し、生き残った40名を連れて王都に向かったのだった。


 森から王都までの道のりは1ヶ月ほど掛かったが、1人の脱落者も出さずに王都に到着したのはソフィアの祖父が族長を長年勤め上げた経験があったからだろう。だが、王都で難民としてテント住まいを始めてからは無理が祟ったのか病に伏せりがちになり、ソフィアの祖父に頼りきっていた一族は今後の方針を巡って王都に残る者と、水飴を買ってくれる可能性のある東の国に向かう者の2派に分かれてしまった。


 ソフィアは今まで仲の良かった一族が2派に分かれて言い争っているのを解消しようと、僅かに残っていた水飴を持って王都に売りに出掛けるのだった。


 ◇□◇□◇□


「気持ち悪っ!なにこれ?食べ物?スライムみたいじゃない!もっと、マシな物を持って来なさいよ!」


「お願いします!銀貨1枚でも結構ですので!」


 ソフィアがやって来たのは食料品を取り扱う店だったが、大通りではなく路地に面した小さな食料品店であり、水飴を見た事も聞いた事も無い小さな店だった。そのため、ソフィアの必死の売り込みにも相手をせずに「そんな気持ち悪い物に銀貨1枚なんて誰が払うか!賤貨1枚でももったいないわ!」と追い払うのだった。ソフィアは失意の中、王都外のテントに向かって歩いていた。このままでは一族が二分されてしまう。暗い表情の中、前方の出張屋台の辺りから賑やかな声が上がっているのが聞こえてきた。


「おい!“ドリュグルの英雄”のリョージってのが王都に来たらしいぞ!」


「え?あの、牛人を3体同時に討伐したって噂の?なんでまた?」


「ああ、そのリョージだ。理由は分からないが一般人側の列に並んでいて、王都に入るのに時間がかかってるみたいで、暇だからって家臣たちに美味いものを買わせてるらしい」


 ソフィアが耳を澄ませて男たちの話を聞いていると“ドリュグルの英雄”が王都にやって来ていて、暇つぶしに美味しいものを探しており、見付けて来た者には銀貨3枚の報酬がもらえるとの事だった。亮二本人が言った訳ではなかったが、尾ひれが付いて話が大きくなっていた。もちろん、尾ひれが付いた噂だと知らないソフィアは神が与えた最後のチャンスとばかりに亮二を探すのだった。


 ◇□◇□◇□


 ソフィアが取った行動は一族にとって最良の結果となった。水飴を気に入った亮二は族長を責任者として王都の郊外に工場と従業員用の宿舎を建設し、週休2日の高待遇で一族40名を従業員として採用したのである。また、従業員のために託児所や娯楽施設なども運営した事で、水飴を作る技術がない者も働く事が出来るためソフィア一族は周りの者達から羨望の目で見られるのだった。その後、亮二が建てた工場は拡張を続け、王国全体に亮二達が考えたお菓子を供給する最大の工場となるのだった。


 当のソフィアは亮二との橋渡しなどの交渉を担当し、その中でエレナ姫と意気投合して“サンドストレム王国すいーつ普及研究所”の職員としても採用され、新たな水飴の活用方法やスイーツの開発を行った功績で2代目研究所長としてサンドストレム王国全体にスイーツを普及させていくのであった。

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