第209話 -クロの楽しい日常 後編だそうですね-

 よし!これで嫁候補補欠が一人消えた。私に掛かれば簡単。本当ならエレナ姫も追い落としたいけど、ハーロルト公爵とマルセル王から「リョージの嫁候補は2人共なるように」と言われているので我慢。「嫁は我慢する」ってのが内助の功だとお父さんも言っていた。リョージ様の為なら我慢できる。


 色々と考えながら歩いていると修練場に来ていた。修練場では魔法の練習や、剣に属性を付与する練習をしているのが見える。でも、リョージ様に比べると属性付与の華麗さが圧倒的に足りていない。もっと、流れるように剣に魔力を纏わせないと。


「どうした?迷子か?場所が分からなかったら案内してやるぞ?」


 声を掛けられたようなので振り返ってみると、若い男性が中腰で話しかけてきていた。私の身長に合わせて声を掛けてくるのは高得点。リョージ様と出会ってなくて、もっと体幹がしっかりしていて、隙が無くて、身長が高くて、顔が良ければ惚れてたかもしれない。


「迷子じゃない。私はリョージ様の嫁候補のクロ」


 相手の目を見て迷子でない事と、リョージ様の嫁候補である事を話すと、物凄いビックリした顔をされた。


「えぇ!兄貴の奥さん候補?そんなに、ちっこいのにか!やっぱり兄貴は凄いな!でも、よく考えたら兄貴も11才なんだよな」


 私のリョージ様交友関係帳によると、彼の名はネイハム。最近まで【白】の勲章で、学院一のダメッ子って言われていた。それが元で虐められたりしてたみたいだけど、リョージ様が1週間で4属性持ちで魔力量は青に仕上げていた。貴族との勝負も圧勝で、リョージ様から褒められていたけど、私からすれば1週間で、ここまで育て上げたリョージ様が凄いのだと思う。


「どうしたの?ネイハム君」


「あっ!マイシカちゃん。この子が!クロさんが兄貴の奥さんだって!」


「えぇ!リョージ君の奥さんってカレナリエンさんとメルタさんだけじゃないの?」


 私とネイハムが話していると、横から女の子が話しかけてきた。彼の嬉しそうな顔からすると、彼女はリョージ様と一緒のクラスにいるマイシカで間違いなさそう。私の調査結果ではネイハムは彼女にぞっこんのはず。ここにも嫁候補補欠を蹴落とすチャンスがあった。私はマイシカにリョージ様の嫁候補である事を強調して伝えると、ネイハムに向かってお願いをした。


「ネイハムが魔法を撃つとこが見たい」


「え?俺が魔法を撃つとこが見たい?兄貴に見せてもらったらいいじゃん」


 むっ!ネイハムのくせに私に口答えするとは生意気。せっかくチャンスをあげてるのに。私が再度ネイハムに魔法を撃つように伝えようとすると、マイシカが「私も見たいな」と言ってきた。よく言った!嫁候補補欠じゃなかったら友達になれていた。


「お、おう!じ、じゃあ要望に応えるよ!兄貴みたいに凄くはないけど…「さっさとする。みんな待ってる」」


 私の言葉にネイハムが「みんな?」と呟きながら周りを見て、やっと気付いたみたい。私とマイシカがネイハムにお願いをしているのを見て、なにか楽しい事が起こると思った人達が集まってきていた。よし、これでネイハムも後には引けないはず。


「ネイハム。早くする」


「分かったよ!見とけよ!お前らに兄貴仕込みの魔法を、もう一回見せてやる!」


 ネイハムは叫びながら【火】【水】【氷】【雷】を連発で撃ち始めた。おぉ!やっぱり、リョージ様に鍛えてもらっただけあって少しは出来る。マイシカも目を輝かせている。これはチャンス。


「マイシカ。ネイハム格好良い?」


「え?急にどうしたの?そうだね。格好良いね。【白】の勲章だった時は、ネイハム君と喋る事が多かったんだけど、【紫】の勲章になってからネイハム君の周りに人が集まるようになって、喋る機会がなくなっちゃった。ちょっと寂しいけど、仕方ないよね」


 良い事を聞いた。ネイハムが嬉しそうな顔でこっちにやって来たから、私は無邪気さを装ってネイハムに近付いて「お姉ちゃんが『最近ネイハム君と喋る機会が無くて寂しい』って」と小さな声で伝えて、ネイハムがマイシカの方を向いた瞬間に「そう言えば、ネイハムはマイシカの事が好きだって」と大きな声で言ってやった。


「えぇ!ちょ、ちょっと!クロさん?急にそんな大声で、なにを言ってくれるんだよ!」


「え?本当?ネイハム君?」


 よし!マイシカが喰い付いた。ネイハムに潤んだ目で下から見上げるように近付いて聞いていた。あれは反則攻撃だと思う。やり方をしっかりと覚えてリョージ様に試してみよう。ネイハムはマイシカの攻撃に、わたわたしながら「お、おう、本当だぞ!ま、マイシカちゃんは、お、俺の事をどう思ってる?クロさんからは聞いたけど、マイシカちゃんの口から聞きたい」と真っ赤な顔をしながら聞いていた。


 周りが囃し立てる中、マイシカも真っ赤になりながら「好きだよ」と言っているのを聞いて、その場に居た学生たちと一緒に「ひゅうひゅう」と言いながらリョージ様がいる学院長室に戻るために修練場から抜けだした。これで嫁候補補欠がまた一人減った。ハーロルト公爵に褒められるかな?


 ◇□◇□◇□


「クロ!そろそろ帰るよ!じゃあ、シャルロッタ学院長。今日、決めた事は近々実行するってことで。ちなみに卒業式って俺だけのためにするって本当ですか?」


「ええ、そうですよ。盛大にしますから楽しみにして下さいね」


 私が学院長室に戻ると、リョージ様とシャルロッタの話が終わったところだった。私がこくんと頷くと、リョージ様は私の頭を撫でて「では失礼します」と学院長室から出たので、私もリョージ様の袖を持ちながらついていった。ライナルト主任教授の部屋に「シャルロッタはライナルト主任教授の事が好きです」との趣旨の手紙をリョージ様の嫁候補クロからとして置いといたから、なにか反応があるかな?それにしても今日は大収穫。3人の嫁候補補欠をリョージ様交友関係帳から抹消できた。


 これからもリョージ様の嫁候補として、最後は候補が取れるように、これからも頑張ろう!

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