第215話 自領訪問3 -マルコを呼んでみますね-

 ハーロルトと別れた亮二が村に戻って、最初にしたのはマルコを呼ぶ事だった。緊急事態との連絡を受けたマルコは門番業務を急いで別の兵士に頼むと、完全武装をして転移魔法陣に飛び乗り、レーム伯爵領の南部にある村に到着すると嬉しそうな亮二が手招きをしてきた。


「一体何事があったんだ?」


「良かった!マルコを待ってたんだよ!ちょっと、こっちに来てみてくれ!」


 テンションの高い亮二に案内されて、ため池にやって来たマルコは訳が分からず、亮二を見て問いただすような顔をすると、亮二は「その質問を待ってました」と言わんばかりの勢いで、ため池に【水】属性魔法で足りない分を補充した事を伝えた。マルコは嬉しそうに経緯を説明した亮二を眺めると、天を見上げながら嘆息して全力で"ミスリルのハリセン"を亮二の頭に叩き下ろした。


「痛ぃ!なにすんだよ!マルコ!」


「うるせえよ!俺はお前の常識外れの自慢話を聞く専門の人じゃねえんだよ!ドリュグルの街を守る門番さんなんだよ!転移魔法陣が有るからって、簡単に呼び出すんじゃねぇ!それに、【水】属性魔法で、ため池に水を足す奴がいるか!」


 亮二が頭を押さえて苦情を伝えると、マルコは“ミスリルのハリセン”で亮二の頭を勢いよく叩いて叫んだ。亮二は叫んだマルコに対して、胸を張って「自分ならできる」と言い放つと、続けて喋ろうとしたがイラついたマルコから連続でハリセン攻撃を受けた。


「ここにいるじゃん!思ったよりも魔力を使うから俺以外は出来そうにない…痛ぃ!でも…痛ぃ!ちょっと、マルコ…痛ぃ!痛ぃ!話を…痛ぃ!痛いってば!」


「やかましい!喋るなら、ちゃんと喋れ!俺はもう帰るぞ」


 ハリセンで叩くだけ叩いてからマルコが帰る宣言をすると、亮二は慌てて「ちゃんと説明するから!帰らないで!」と腰にしがみつくのだった。


 ◇□◇□◇□


「取り敢えず、話を聞いてくれよ。ため池の件はちょっとだけやり過ぎたかもしれないけど、これから話す内容は真面目な話だから。これは“巨大な水筒”って魔道具なんだけど、こうやって【水】属性魔法を付与した魔石を底に入れてひっくり返すと…」


 亮二が“巨大な水筒”の使い方を説明するとマルコは目を見開いて水筒の口から水が出続けるのを食い入るようにみていた。冒険者よりも旅の商人を中心に広まりそうな水筒を見ながら亮二に問いかけた。


「おぉ、これは凄い水筒だな。前もって【水】属性魔法を付与した魔石を用意するだけでいいんだろ?それに、リョージの説明だとお化けのきのこの魔石でも10日は旅を出来る水が出るって事だろ?旅をするのに水が一番の荷物だからな。それで、真面目な話ってなんだ?ため池や水筒に関係する話か?ちなみに、この水筒は誰が作ったんだ?それとも、遺跡で発掘したのか?」


「いや、ライナルトが作ってくれた」


「ん?ライナルト主任教授がこれを作ったのか?相変わらず、あの人は常人の発想を突き抜ける人だな。で、大事な話ってなんだよ。俺も結構忙しいんだぞ。水筒の話は役に立ったが本題に早く入ってくれ」


「おう!そうしよう!水筒の話なんて、単に自慢したかっただけだから…痛ぃ!」


 亮二の単なる自慢に付き合わされただけだと気付いたマルコは、怒りに任せてハリセンを亮二に叩きこむのだった。


 ◇□◇□◇□


「なるほどな。それは確かに街に住んでいる代官が怪しいとしか言いようが無いな。で、どうするんだよ。いきなり乗り込んで断罪するのか?」


「それについては、考え中なんだよね。なにか良い案ない?」


 マルコは亮二からの問い掛けに軽く考えると「ハーロルト公に頼んだらどうだ?」と提案した。


「ハーロルト公なら、優秀な諜報機関を持っているから頼めば貸してくれるだろう。リョージからの頼みなら、噂の“漆黒の闇夜で踊る者”を借りられるかもしれないぞ」


「“漆黒の闇夜で踊る者”?凄い二つ名だな。よし!じゃあ、もう一度、ハーロルト公の所に行ってお願いしてみるか。マルコ、助かったよ。単に自慢するだけのために呼んだんだ…痛ぃ!」


 亮二の「単に呼んだだけ」と言われたマルコは“ミスリルのハリセン”で亮二の頭を全力で叩くと「しっかりしろよ」と言いながら転移魔法陣に乗ってドリュグルの街に戻るのだった。


 ◇□◇□◇□


「何度も申し訳ありません。諜報活動をしようと思うので、諜報員を数名貸して頂けませんか?」


「なにを言っとる?リョージには優秀な諜報員のクロを付けたではないか」


「え?クロって優秀な諜報員なんですか?お菓子を食べてる5才児にしか見えませんよ?」


 ハーロルトの言葉に亮二が視線を投げると、亮二から受け取ったアイテムボックスの中にある、お菓子を食べているクロと視線があった。


「リョージ様。それは心外。私は超有名な諜報員」


「いや、諜報員が有名だったら駄目だろ」


 クロの言葉に亮二が思わず突っ込むと、ハーロルトが苦笑しながら説明を始めた。


「クロは“漆黒の闇夜で踊る者”の二つ名を持つ優秀な諜報員じゃぞ。誰も姿を見ていない事でも有名じゃな」


「えぇ!クロってマルコが言っていた“漆黒の闇夜で踊る者”なの?」


「リョージ様が驚くのも無理はない。私の本当の姿を見たものは二度とお日様を見れなくなる。だから、名前だけが有名になる」


「え?俺はクロの本当の姿を見たけど?」


 亮二の言葉に「私の本当の姿を見て生き残れるのは未来の旦那様だけ」とクロは嬉しそうに微笑むのだった。

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