第216話 自領訪問4 -街に到着しますね-
「それにしても、あの村周辺以外は意外と水不足が深刻だったんだな。なんで、ため池を作っとかないんだ?雨季は有るんだから、ため池を作っとけば作物の収穫量も増えるじゃん」
「それは前領主のレーム伯爵が力を入れてないからでしょうね。ギリギリ暮らせる状態にしとけば、反逆もされないので一番と思われていたのでは?」
亮二のため息にライナルトが苦笑しながら答えてきた。亮二が街の周辺にある村を巡って感じた事は、全体的な水不足だった。乾季と呼ぶほどではないが、冬場は雨が少ないらしく生活するので精一杯との事だった。村人たちも街にいる代官に何度か陳情を行ったが、相手にもしてもらえなかったとの事だった。
「よし!これから街に向かって代官の話を聞こうか。その前に、クロにお願いが有るんだけど?」
「なに?リョージ様のお願いなら服を脱いでもいい」
「いや、なに言ってるの?5才児の裸を見ても仕方ないでしょ。お色気担当はやっぱりメルタじゃないと…じゃなくて!俺たちは、これから街に向かうから先行して町の人から代官の評判と、可能なら代官の行きつけの場所も調べてくれると助かる」
「分かった。“漆黒の闇夜で踊る者”の力を見せてあげる。あと、メルタさんにも報告しておく」
「ちょっ!メルタには報告しなくていいからね!」
亮二の叫び声にクロはニヤリと笑うと街に向かって行くのだった。
◇□◇□◇□
クロの到着から1日遅れで亮二達は街に到着した。街の入口に差し掛かると、門番が槍を突き出して馬車を止め亮二達に質問をしてきた。
「止まれ!この街になんの用だ!」
「私達は、領都に向かう途中の旅の商人です。リョージ伯爵が新しい領主様として着任されると聞きましたので、私達の持っている物をお気に召して頂ければと思いまして」
ライナルトが腰を低くして答えると、門番は納得したように槍を構え直して荷物の確認を始めた。
「商人と言ったが、商人ギルドの証はあるのか?それと、商人と言う割には荷物が少ないが?」
「それは、私達が魔石の商人だからでしょう。魔石だとかさ張りませんし、重さも無いので旅の商人が扱うには都合が良いのですよ。それと、こちらが商人ギルド認定証になります」
ライナルトが商人ギルド認定証を渡すと、門番は名前を読み上げながら確認を行った。
「なになに、“ビンボウハタモトサンナンボウ商店のライノスケ”店もお前も変わった名前だな」
「ははっ。その方が覚えて頂ける事が多いのですよ。もしよろしければ魔石の一つでも買われませんか?お近付きの印に安くさせて頂きますよ」
「そっちの子供は?」
「ああ、こちらの子供は私どもの“ビンボウハタモトサンナンボウ商店”の旦那様の息子でリョーエモンです。旦那様の命で修行の旅も兼ねております」
「こんにちは!門番さん!リョーエモンって言うんだ!よろしくね!」
ライナルトの言葉に亮二がテンション高く挨拶すると、門番は苦笑しながら「通っていいぞ。この道沿いにある“やすらぎ亭”で門番の紹介といえば少しは安くしてくれる」と通行許可を出すのだった。
◇□◇□◇□
「軍曹に質問ですが、“ビンボウハタモトサンナンボウ商店”ってなんですか?それにライノスケにリョーエモンって聞いた事も無い名前ですが、軍曹の国で有名な方の名前を借りた感じですか?」
「そうだね。それにしてもライノスケも演技が上手いじゃないか」
亮二の言葉にライナルトはゲンナリした顔で「まあ、あれだけ特訓させられれば」と呟いていた。亮二はライナルトの呟きを聞こえないふりをしながら馬車を“やすらぎ亭”の前に止めると、中にはいって受付を済ませるのだった。
受付の女性に門番の紹介である事を伝えると、朝飯を無料にしてくれた。亮二は3泊する事と後でもう一人来る事を伝えて、2部屋予約すると鍵を受け取って部屋に入ってライナルトと今後のことについて話し合った。
「これから、どうされます?私は役に立ちそうに有りませんが」
「そうだな。どうする?学院に戻るか?俺としては、この街を片付けたら領都に行く予定にしているからライナルトがいなくなっても大丈夫だぞ。“巨大な水筒”を作ってくれたから、これから色々な交渉で使えるだろうしな」
「そう言えば、軍曹に命令されて“巨大な水筒”を10個作りましたが、これまでに使われたのってマルコさんを呼んだ時だけですよね?」
ライナルトの質問に亮二は若干、目を逸らしながら気まずそうに話し始めた。
「ほら、水不足が深刻だったら“巨大な水筒”を使って救うつもりだったけど、ため池も有るし、それほど深刻でもなかったし、結局、使わなかったんだよね。せっかく急いで作ってもらったのにごめんね」
「いや、いい勉強になりましたよ。これから無詠唱の検証で魔法陣をたくさん書く必要がありますから、いい練習になりましたよ」
爽やかに「いい勉強になりました」と笑顔で告げるライナルトを見て、さすがに悪い気がした亮二は領都に付いたらライナルトにプレゼントを贈ろうと思うのだった。
◇□◇□◇□
「そう言えば、クロさんは来ないですね」
「どっかで、お菓子でも食べてるんじゃないか?」
亮二とライナルトが話していると短い風切音が鳴った。亮二達が音の方に意識を向けると、窓のふちに風車が突き刺さっていた。ライナルトは驚いて硬直していたが、亮二は気にする事なく風車を引き抜くと、こより状になって風車に結ばれていた手紙を読んで軽く頷くのだった。
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