第217話 自領訪問5 -色々調べますね-

亮二が手紙を読んでいる横で、ライナルトは風車と窓のふちに空いた穴を真剣な目で見ていた。


「この深さで刺さろうとしたら、どこから投げればいい?刺さっている角度から計算すると…「あっ、それ俺が作った魔道具で、ある程度の距離から投げると必ず突き刺さって、風車が回るようになってるんだよ。ちなみに、生き物には刺さらないから武器としては使えないぞ。人に刺さったらシャレにならないからな」」


ライナルトが風車を見ながら考察に入ろうとしたのをみて、亮二は魔道具である事を伝えた。


「え?魔道具ですか?羽の部分はミスリル?それに【風】属性魔法が付与された魔石があって、それに先端もミスリルを使って生物と無機物とを見分けているのか?」


「試作品で良かったらプレゼントするぞ?研究の対象にでもするか?他にも“泡立て器”と“お湯が沸いたら音が鳴るやかん”“冷蔵庫”“ストーブ”“ライト”“マッチ”なんてのもあるぞ。このアイテムボックスに入ってるから研究所に持って帰って調べてみたら良いよ。色々と助けてもらったらな、気にせずに使ってくれ」


ライナルトは手渡されたアイテムボックスから道具を取り出して、説明を受けるたびに目を輝かせながらメモを取るのだった。


◇□◇□◇□


「すっかり、軍曹の作られた魔道具に夢中になってしまいましたが、クロさんからの手紙には、なにが書かれていたんですか?」


「おぉ、そうだ。すっかり夢中になって忘れていたな。クロの手紙には役人の評判や、よく行く店、身長体重趣味特技が書かれていたぞ。お見合いか!」


しばらく亮二の作った魔道具について話し込んでいた2人だったが、ライナルトが我に返ってクロの手紙について問いただすと、亮二は手紙を読んで書かれている内容に苦笑を浮かべるのだった。


役人の名前はブラート、3年前にレーム伯爵から代官に任命されており、彼が代官になってからは税金の収入実績が前任者の2倍になっていた。その実績を買われて今年からは徴税権についても任されており、税率に関しても彼になってから2倍近くになっているとの事だった。レーム伯爵からの評価に反比例して住民からの評価は最悪で、すでに税金を払えなくなった農民たちはレーム伯爵領から逃げ出し始めていた。


「なるほどね。後は、よく行く店は“フェアリーの囁き”で、身長165cmで体重70kgの趣味は美術品収集で特技は…どうでもいいわ!それにしても、クロはよくこの短期間で、これだけの情報を集める事が出来たな」


「それは、私が“漆黒の闇夜で踊る者”だから。どう、リョージ様。私の事を見直した?」


ライナルトと亮二が手紙について話し合っていると、クロが扉を開けて入ってきた。亮二は満足気に頷くとクロの頭を撫でて褒めると、ライナルトが「まるで、仲の良い兄妹ですね」と呟くと不満気な顔でクロが反論してきた。


「ライナルト主任教授は不勉強。どう見ても、仲睦まじい夫婦にしか見えない」


ライナルトの言葉にクロが反論しているのを見ながら「そうとしか見えないよなぁ」と笑うのだった。


◇□◇□◇□


「いらっしゃいませ!ご主人様!」


入り口で大きな声で挨拶を受けたブラートは、大仰に頷くといつもの席に座った。


「ん?新しい子か?名前は?」


「はい!最近、入ったノワールと申します!まさか、有名なブラート様にこんなに早くお会い出来るとは思いませんでした!」


元気良く返事をしてくるノワールに、ブラートは不機嫌そうな顔を作りながら頷くとノワールに席に座るように命令した。


「それにしても元気な奴だな」


「すいません。ブラート様。まだ入ったばかりの新人でして。今日、ブラート様が店に来ると聞いて、どうしてもお相手をしたいと申しましたもので」


ブラートの言葉に“フェアリーの囁き”の店長が平身低頭しながら謝罪をしてきた。店長の話では普段は大人しくしているが、ブラートが店に来ると聞いた途端にテンションが高くなったとの事だった。


「おい、そこじゃなくて俺の隣に座れノワール。酌をさせてやる」


「良いんですか!光栄です。ブラート様にお酒が注げるなんて!」


ブラートは嬉しそうに酒を注いでいるノワールを改めて見て、かなりの美貌の持ち主である事に気付いた。整った髪に透き通る白い肌、吸い込まれるような瞳が潤んで自分の事を情熱的に見ている。ブラートは唾を飲み込む音で我に返ると、慌てたように酒を飲むのだった。


「俺は、こんなところで終わる男じゃない!もうすぐレーム伯爵領から出て、隣国に行って貴族の仲間入りをするのだからな!」


「まぁ!そうなのですか!でも、それだと、お店にはもう来ていただけないのですね」


店に入って2時間、機嫌良く未来予想図を話していたブラートが隣国に行く話を始めると、ノワールが拗ねたように寂しそうな顔をし始めた。その様子を満足気に眺めていたブラートは大笑いすると、ノワールの耳元に口を近付けて小さな声で話し始めた。


「よし!ノワール。1週間後に俺はこの国から出て行く。その時に、お前も侍女として連れて行ってやろう」


「本当ですか?私だけ置いて行ったりしません?お約束として、待ち合わせ場所と時間を書いてブラート様の署名付きで頂けませんか?場所に行っても、配下の方に追い払われたら悲しいですから」


しな垂れながらノワールが潤んだ目で見上げた状態で頼まれたブラートは、だらしない顔をしながら頷くと、待ち合わせ場所と時間を書いてノワールに渡すのだった。

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