第276話 婚約について2 -話が加速しますね-

「じゃあ、さっそく装飾店に行こうか」


 装飾店までの道を腕を組みながら歩いているシーヴと亮二は周りの目には可愛らしい恋人同士に見えた。シーヴの頑張りはドリュグルの街でも有名であり、亮二を想っての行動だと知っている者達は2人の様子を見て嬉しそうに手を振ってきたり、年配の女性などはハンカチで目元を抑えながら2人を祝福するのだった。そんな街の住人達からの祝福をシーヴは顔を赤くして手を振り返したり一緒に泣いたりしながら歩いていたが、通りが少なくなった場所でシーヴがためらいがちに話しかけてきた。


「ねえ、リョージくん。新聞に書かれていたソフィアさんとの恋話は本当なの?」


 決心した表情でシーヴが聞いてきた言葉に亮二は今までの経緯を話した。亮二の行動にシーヴは呆れたような顔になると、腰に手を当ててため息を吐きながら説教を始めた。


「男の子から高価なプレゼントをもらったら、ソフィアさんじゃなくても勘違いしちゃうじゃない! 特にリョージくんはドリュグルの英雄で伯爵なんだから、女の子に声を掛けるのはいいけど簡単にプレゼントなんてしちゃダメだよ!」


「それ、カレナリエン達からも物凄く説教された。もう大丈夫だから。勘違いさせないように気をつけるからね」


 亮二の言葉にシーヴは怪しそうな顔をしながらも、装飾店に着いた事でテンションが上ったらしく話を打ち切ると店の中に入っていくのだった。


 ◇□◇□◇□


「これは。リョージ様。お久しぶりでございます」


「やあ。相変わらず繁盛しているようだね」


 亮二とシーヴが装飾店に入ると店長の男性が挨拶してきた。ドリュグルで装飾店を営む男性から亮二は指輪などを購入しており、どこから仕入れたのかと聞きたくなるような情報を常に持っている商売人のお手本のような男性だった。


「今日はシーヴ様との婚約指輪を購入に来られたのですか?」


「流石だね。そうなんだよ。彼女に似合いそうな指輪を何種類か出してもらえるかな」


 前回と同じように依頼すると、店長は奥のショーケースから3点ほどの指輪をもってやってきた。どれも魔石を中心に装飾されている逸品であり、亮二達が居るのが高級店である事が十分に分かるような品だった。


「こちらなど如何でしょうか? 中央に配置されているのは暴れる角牛の魔石で光の角度で色が変わります。前回のような魔道具ではありませんので値段も控えめになっております」


「ちょ、ちょっと。リョージくん。これは高いと思うからいいよ。私みたいな平民の女の子が付けても似合わないと思うから。それにカレナリエンさんやメルタさんより高いのをもらうのもちょっと……」


 店長が持って来た指輪の豪華さにシーヴが若干引きながら断ろうとしたのを遮ると、亮二は細かい値段を聞かずに前回の指輪より高いかを確認すると、店長は優雅な動作で値段の説明を始めた。


「こちらは、カレナリエン様とメルタ様に渡された指輪に比べるとお安くなっております。以前、シーヴ様が購入された筋力アップの腕輪と同じで、金貨50枚程度だと思って頂ければ」


「えっ? リョージくん? 前もらった筋力アップの腕輪って、そんなに高かったの? 渡してくれた時は『安くてゴメンね』って言ってたじゃない!」


 店長から聞かされた金額に驚愕の表情を浮かべて、装備している筋力アップの腕輪を眺めながらシーヴが叫んだ。その様子を笑いながら見ていた亮二はシーヴの視線に気付くと慌てたように言い訳を始めた。


「だって、カレナリエンやメルタに渡した指輪に比べたら間違いなく安かったんだよ! 指輪の値段はシーヴが気絶しないように言わないでおくね」


 シーヴが怖くてカレナリエン達の指輪の値段を聞くのを躊躇っているのを眺めながら購入手続きをしつつ、亮二は店長に小さな声で話し掛けた。


「今日はシーヴだけの指輪じゃなくて、クロとソフィアの指輪も買いたいんだけど?」


「それは、あまりお勧めできません。クロ様は王都で人気のすいーつと一緒に渡されれば問題ないかもしれませんが、ソフィア様は表面上は笑顔で受け取られても、影で悲しまれるのではないでしょうか」


 亮二と店長が小さな声で話し合っている内容が聞こえたシーヴが、怒った表情で亮二に話し掛けてきた。


「ダメだよ! 一緒に買いに来ないと! そんな不誠実な事をしたらイオルス神にも怒られるよ!」


「えっ? どう言う事?」


 シーヴの抗議に亮二が首を傾げると店長が補足をしてくれた。婚約指輪は2人で買いに来るのが普通であり、1人で買って渡す事は無いとの事だった。


「危なく、買って渡すところだったよ。許可をもらって一緒に指輪を買いに来ればいいんだよな?」


「そうだよ! もし、私が指輪を渡されたら微妙な気持ちになると思う。一緒に買いに来るのが普通だからね」


 シーヴと店長から言葉は違えどダメであるとの説明を受けた亮二は、早々に降参すると、2人に許可をもらってから改めて買いに来ることを店長に伝えるのだった。


 ◇□◇□◇□


「では、シーヴ様の婚約指輪は3時間ほどで大きさの修正もさせて頂きます。他にも何か購入されませんか? 今回のシーヴ様の話ではカレナリエン様達も頑張られたと聞きました。感謝の気持ちを込めて購入されるのはどうでしょうか?」


「流石にやり手だね。これからも色々とお世話になる予定だから、今日は口車に乗っておくよ」


 店長の商売上手の言葉に亮二は苦笑を浮かべると店長が持って来たネックレスなどの装飾品を購入していくのだった。

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