第275話 婚約について -ハーレムが動き出しますね-
「取り越し苦労だったって訳か」
亮二は軽く苦笑しながらため息を吐くと、椅子に深く腰掛けた。そんな様子を笑いながら眺めていたカレナリエン達だったが、何かに気付いたかのようで慌てながら話しかけてきた。
「そう言えば、リョージ様は私達には指輪をくださってますが、シーヴやクロには渡していませんよね?ソフィアの分も合わせて早目に用意しないと」
「えっ? なんでそんなに急いでいるの?」
慌てた様子のカレナリエンに首を傾げながら亮二が聞き返すと、エレナ姫の到着が1週間後に迫っている事。到着と同時に婚約の発表が行われる可能性が有る事。王家の者との婚約が発表されてから結婚後1年間は新たに婚約が出来ない事。現状のままだと、シーヴ、クロ、ソフィアと婚約が出来ずに新聞が面白おかしく書き立てる事が予想出来るなどと伝えてきた。
「リョージ様は成人まで後1年ちょっとあります。成人されてから結婚となると、エレナとの婚約から2年以上も待たせる事になります。リョージ様も彼女達を待たせるつもりはないのでしょ? でしたら、リョージ様は早急に指輪を購入しきて下さい」
「わ、分かった。ここまで来たらテンプレ的にも、今すぐ買いに行ってくる! ライラもなにか欲しい?」
カレナリエンの説明に、亮二は慌てた様子で立ち上がるとライラの方を向いて冗談めかして確認を行った。人型とはいえ魔物であり、仲良がいいといっても亮二と結婚まではしないと思っている一同の視線を受けたライラだが、視線を向けられた当の本人は気にする事なくクロとお菓子を食べており、話自体に興味が無いようだった。
「ん? 私は指輪なんて要らないよ? 番になる約束として指輪を送るって事でしょ? そんな物よりお菓子が欲しいな。それに、もう番の約束はしてるから」
「えっ? 最後の方は聞き取れなかったけど、ライラは指輪は要らないって事だよね。よし! ライラは王都でスイーツを食べ放題に連れて行くよ。それと、ライラが個人的に店に行っても俺が支払うから!」
ライラが顔を赤くして最後は小声になったのを聞き取れなかった亮二だったが、それ以上は話してくれそうになかったので、転移魔法陣を呼び出してドリュグルにある屋敷に向かって転移するのだった。
◇□◇□◇□
「よっ! ただいま!」
「お帰りなさいませ。リョージ様。今日の急なご訪問はどうされたのですか?」
転移魔法陣でドリュグルにある屋敷に戻ってきた亮二をシーヴが出迎えた。シーヴは亮二を見た瞬間に輝かんばかりの笑顔を浮かべたが、急にそっぽを向くとそっけない態度になった。
「どうしたんだよ。シーヴ? なに怒ってるんだよ」
「怒ってな……怒っておりません。リョージ様は用事を済ませて早く王都か領地に居られる婚約者の方々の元に戻られたらいいんです!」
最近までは友好的だったシーヴが急にそっけなくなった事に困惑していると、メイド長補佐の女性が近付きながら話しかけてきた。
「お帰りなさいませ。リョージ様。メイド長のシーヴさんは、先週くらいに王都から送られてきた新聞を見てから、しばらくは真っ赤な目をしてらっしゃったんですよ。素っ気ない態度はそのせいかと」
「ちょ! ちょっと! メルさん! 違うからね。そんな事ないもん! 別に泣いてないもん!」
メイド長補佐のメルに裏切られたシーヴは真っ赤な顔になって否定すると、両目に涙を溜めた状態で走り去ってしまった。
「おい! シーヴ!」
慌てて追いかけようとした亮二だったが、メイド長補佐の女性に引き止められると来訪の理由を問われた。亮二はドリュグルの街にある装飾店に宝石を買いに来た事やシーヴにも指輪を渡しに来た事を告げると、メイド長補佐の女性は嬉しそうな顔になった。
「まあ。そうなんですね。新聞を見てから落ち込んでいるシーヴさんが可哀相だったので、近々リョージ様の胸ぐらを掴まえて捩じりながら詰問しようと思っていたんですよ」
「い、いや。新聞に書かれているような事はないんだよ? そ、それにあやふやになっていた婚約話も、はっきりさせようと思って来たんだ。だから捩じろうとせずに、その恐ろしい雰囲気を柔らかくしてくれると嬉しいな」
黒いオーラを放ちながら徐々に距離を詰めてきていたメルに対して、必死で説明して許しをもらった亮二が、改めてシーヴを追いかける為に駆け出そうとすると背後から声がかかった。
「シーヴは本当にリョージ様の事だけを考えて頑張っています。『武器屋の娘がリョージ様の近くにいる為にはメイド長として頑張らないと』と新聞を見た後に寂しそうな笑顔だったシーヴの気持ちを酌んでやってください」
「分かった! 任せろ! それと今日からは君が正式にメイド長だ! シーヴはもらって行くからドリュグルと駐屯地の屋敷の事は任せたぞ!」
「かしこまりました。後の事は私にお任せください」
亮二の言葉にメルは優雅な動作で了承の返事をするのだった。
◇□◇□◇□
「シーヴ。ここにいたのか」
亮二がシーヴを見付けたのは庭の花畑だった。寂しそうに花を見ていたシーヴだったが、亮二が近付いてきた事に気付くと涙を拭って無理矢理笑顔になった。
「リョージ様。先程は失礼しました。今後は、あのような粗相をしないよう十分に気を付けます。それでは私は仕事に戻りますので」
「ちょっと待った! 話を聞いて! シーヴを正式に婚約者として迎えに来たんだから」
「ワタシヲコンヤクシャトシテムカエニキタ?」
亮二を避けるように屋敷に戻ろうとしたシーヴを捕まえると訪問理由を伝えた。シーヴは不思議そうな顔をしながら亮二の言葉を聞いていたが、言葉の意味を理解すると混乱したように片言の言葉になっていたが、頭を振って意識をはっきりさせると叫ぶように話し始めた。
「えっ? でも、私は武器屋の娘のままで、リョージ君は伯爵になったじゃない! あの時とは事情が違うよ! 身分差があって結婚なんて出来ないじゃない! だから私はメイド長として頑張ろうと思って吹っ切ったのにからかわないで!」
タメ口に戻っている事すら気づいていないシーヴが叫んだのを亮二は愛おしそうに見ながら、少し距離を詰めると耳元で囁いた。
「それは、俺に関係ない話だよね? シーヴが俺と結婚したいかどうかって話なんだけど? シーヴ。俺と結婚してください。よかったら返事を聞かせてくれるかな?」
亮二の言葉に真摯さを感じたシーヴは、瞳に大粒の涙を浮かべながら震えている唇を押さえつけるようにしながら何度も頷いた。亮二はシーヴの目から零れ落ちる涙を見ながら嬉しそうにすると、ゆっくりと話し出した。
「今から一緒に婚約指輪を買いに行こう。いいよね?」
「うん! もちろん! 結婚の話が冗談だって言っても取り消せないんだからね! リョージ君は最後まで責任を持ってよね!」
シーヴは顔を真っ赤にしながら満開の笑顔を亮二に向けて頷くと、勢いよく抱きつくのだった。
◇□◇□◇□
「うぉぉぉ!」「やったぁ!」「私の彼氏もあれくらいの甲斐性があればねぇ」「よし! そこで押し倒せ!」「伯爵もげろ!」「若いっていいわねぇ」「今日は宴会だから仕事は早めに終わりますわよ!」「宴会は俺に任せろ!」
シーヴと亮二が抱き合った瞬間に屋敷の窓や曲がり角に潜んでいた者達から大歓声が上がった。抱きついた状態だったシーヴだったが、慌てて亮二から離れると全身を真っ赤にして覗いていた者達を叱責した。
「あなたたち! 仕事しなさい! ちょっと! どこから聞いていたのよ! えぇ? さ、最初から? それにメルさんや出入りの肉屋さん達まで……」
「失礼しました。それと、只今より私がメイド長となりましたのでシーヴさんには早退を命じます。さっさと、リョージ様と指輪を買いに行ってきてください」
2人に近付いてきたメルが、心の底から嬉しそうにしながら亮二に話しかけてきた。シーヴは全身真っ赤にしながら恥ずかしそうに亮二の背後に隠れて、あとは亮二に任すとばかりに軽く背中を押した。
「みんな、祝福ありがとう! じゃあ、さっそくシーヴと指輪を買いに行ってくるよ。今日の仕事は必要最低限で終わっていい。俺からの幸せのおすそ分けだ。存分に宴会をしてくれ!」
亮二は笑いながらメルに数枚の金貨を手渡すとシーヴを連れて装飾店に向かうのだった。
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