第16話 商会とギルドでの話 -時間が経つのを忘れていましたね-

「まずは、お茶でも飲んで落ち着きましょうか?」


 なぜかアウレリオに落ち着くように言われた亮二は、少し温かめのお茶を一気に飲んで一息を吐く。かなり喉が渇いていた事に気付き、興奮気味だったと苦笑を浮かべながら気を落ち着かせるために周りを眺めた。

 連れて来られた場所はアウレリオの執務室であり、落ち着いた装飾で豪華過ぎず、センスの良さを存分に主張していた。


「いいお部屋ですね。簡素だが無駄が無い」


「有り難うございます。自慢の部屋ですが、同業の商人達から『貧相すぎる。もっと派手にしろ!』と言われてます。こんな所にお金を掛けるなら、店の発展のために使うのが商人だと思うんですけどね」


 アウレリオは苦笑しながら、亮二と店の改善案について話を始めるのだった。


 □◇□◇□◇


「あれ? マルコは? それに薄暗くない?」


 話に熱中しすぎたのか、気が付いた時にはマルコの姿が見えなくなっていた。窓から入る光も少なくなり、夕方にさしかかろうとしている事に首を傾げている亮二に、書記を務めていた四十代くらいの男性が答えた。


「マルコ様でしたら『リョージとアウレリオが違う世界に旅だったとカレナリエンに伝えてくる』と仰ってギルドに戻られましたよ」


「え? 違う世界? そんなに話し込んだつもりは無いんだけど……」


 戸惑った表情を浮かべている亮二に、男性は苦笑しながら答える。


「もう、三時間以上経過していますよ」


「えっ! 三時間以上? ヤバい! 一時間後には戻って来るようにカレナリエンさんから言われてたんだ! アウレリオさん! 今日はここまでにしてもいいですか? 実に有意義な時間でした。また時間があればお話しさせてもらってもいいですか?」


「もちろんです。リョージさんと話せば話すほど素晴らしい思いつきが生れてきます。リョージさんがよろしければですが、カルカーノ商会の経営指南役になってもらえませんか?」


「ぜひ! 喜んで経営指南役に就かせて頂きます! では失礼しますね」


 笑いながら右手を差し出しきたアウレリオに、力強く握り返した亮二は慌てた様子でギルドに向かって走り去った。


「さて。リョージさんとの話で出てきた内容を実施するとしようか。まずは買い物カゴの用意だな。それと支払場所を入口近くに移設。数は2つに増やそう。どのくらいで対応が出来ますか?」


「そうですね。明日の昼までには対応可能かと。それにしても不思議な少年ですね。私も商人として随分と働いてきましたが、店の改善でこれほど劇的な案をもらったのは初めてです。月末の売上が楽しみですね」


(商人でもないのに経営に詳しい事については詮索は無しだ。それに、まだ改善案をリョージさんは持っているようだった。あれ程の人材はカルカーノ商店で確保しとかないと。違う店で改善案を出されたら大変な事になる。経営指南役との役職を適当に作ったが、リョージさんは乗り気だったし給与も多めに設定して私の店のために一肌脱いでもらおう)


 アウレリオは書記としてこの場にいた男性から紙を受け取り、それを満足気に眺めるのだった。愛おしそうに撫でる表紙には『カルカーノ商会売上改善案』と書かれてあった。


 □◇□◇□◇


「どんな言い訳をするのが無難かな?」


 リョージは全力疾走でギルドに向かって必死に言い訳を考えながら走っていた。勢いを落とすこと無くギルドの扉を乱暴に開くと、受付にいるマルコとカレナリエンに向かって大きな声で叫ぶ。


「ごめんなさい! ちょっぴり遅れました!」


「うん。ちょっぴりの定義について、リョージさんと小一時間は語り合いたい気がします。ですが、今日はもう時間が無いので止めときましょう。ちなみにマルコから物凄い数のキノコのお化けを討伐したと聞いていますが、カルカーノ商会で証明出来る魔石を取ることは出来ましたか?」


 亮二はカレナリエンのジト目と呆れ顔に対して、視線を微妙に逸らしながら口ごもりながら答えた。


「まあまあかな」


「なにが、まあまあですか! マルコからアウレリオと経営の話で盛り上がったって聞いてますよ」


「なっ! マルコ裏切るなよ!」


「うるせえ! アウレリオと訳の分からん話で盛り上がりやがって! 俺がどれだけ暇だったか分ってるのかよ!」


 亮二の叫び声にマルコは叫び返すと二人で軽く睨み合った。そんな様子を呆れたように見ていてカレナリエンだったが、ため息を吐くと仲裁に入った。


「はいはい! 喧嘩はそこまでです。リョージさんの冒険者と職業の登録作業は完了しています。Hランクからのスタートとなります。タグと証明書をご確認ください」


 カレナリエンからタグと証明書を受け取った亮二は、両方を眺めるとタグには『リョージ・ウチノ』と戦士が記載されており、証明書には名前の他に職業やランク、討伐ポイントや賞罰などが記載されていた。


 証明書

 名前:リョージ=ウチノ

 職業:戦士

 ランク:H

 討伐: - ポイント

 賞罰:なし


 証明書の裏側を見てもレベルに関しては載っていないかった。イオルスが言っていた『この世界にはレベルは無いですからね』のセリフを思い出した亮二は、無職レベル20がどう変化しているのか調べる為にインタフェースを起動する。


 ステータス

 名前:リョージ=ウチノ

 年齢:十一

 職業:戦士

 レベル:二〇

 ランク:H

 筋力:九〇

 魔力:六〇

 俊敏:六〇

 器用:六〇

 スキル:なし

 備考:ボーナススキルポイント一五〇(初回特典五〇含む)


(おっ! ステータスがバッチリ見れるようになってるな。この数値は高いのか低いのかどっちだ? それにボーナススキルポイントって? 証明書とステータスの見え方が全然違うんだな。スキルは宿をどこかに取ってからゆっくり調べてみるか。ん? マルコとカレナリエンさんが訝しげにこっちを見てるぞ。そうか、冒険者登録されている事を喜ばないと怪しいよな)


「やったあ! 戦士になってる! これで魔法戦士に向けての大きな一歩だね!」


 亮二の少し芝居かかった喜びように胡散臭げにしながらも、冒険者にとっての心得の説明をしていくカレナリエンだった。

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