第15話 商会での出会い -営業の血が騒ぎますね-

 アウレリオ = カルカーノ

 ドリュグルの街で職人の子供として生まれる。幼少の頃より計算能力に優れ、父親より「職人としてより商人として育てたい」と私塾で商人になるための教育を受ける。10歳の時にその才能を見込まれた当時の商人に養子として迎え入れられると、その才覚をいかんなく発揮し5年後には支店を任せられる。

 さらに5年後には本店を吸収し、さらなる規模拡大のため商域を王都にも広げた活動をしており、王都にもカルカーノ商会の名は知られ始めている。今、ドリュグルの街で最も有名な人物である。


 商会への道を案内されつつら説明を受けた亮二は、マルコの方に勢い良く振り向くと驚いた顔をして叫んだ。


「この街ってドリュグルって名前なの!」


「そっちかよ! 確かに俺は街の名前を言ってなかったけどよ! お前の斜め上の答えには呆れるわ!」


「冗談に決まってるじゃないか。アウレリオさんってのは、かなりのやり手ってことだよね?」


 テンプレ通りのツッコミに、嬉しそうな顔で親指を立てている亮二の顔を見たマルコは疲れた顔で答えた。


「ああ、そうだよ」


(マルコのツッコミは冴え渡っているとして。アウレリオさんは切れ者って話だよな。平社員営業レベルの俺が対応できるのか? 見た目が子供だからといって遠慮はしてくれないだろうしな。出来れば、今の内から商人のツテを持っておきたい。金はイオルスにもらった分が有るとしても、それまでに商売は始めておきたいよな。それに異世界モノと言えば商売展開は切っても切れないからな)


 考え事をしていた亮二は突然、肩を掴まれ驚いた顔をする。慌ててマルコに視線を移すと、呆れた顔の状態でマルコが話し掛けている事に気付いた。


「おい、リョージ。ボーとしてないで返事くらいしろよ」


「え? なに? 聞いてなかった」


「着いたと言ってるだろ」


 亮二が建物に目を向けると、ギルトと同じサイズの建物があり、二人が中に入ると様々な商品が陳列されているデパートのような場所が目に入ってきた。

 品物はコーナーごとで纏められており、訪れた客が欲しい物を必要な数だけ数だけ手に取り、奥にいる商人の所で支払いをするようであり、夕方の時間の為か一〇人ほどの行列が出来ていた。


「もったいないな。本当に惜しい」


「なにが『惜しい』のですか? それとも『欲しい』とおっしゃいましたか?」


 客が並んでいる光景を見て残念そうに呟いた亮二に男性から声がかかった。視線を移すと、そこには若い商人がこちらに向かって笑顔で近付いてきた。


「お気になさらずに。初めましてアウレリオさん。いいお店ですね」


「おや? 私とは初対面のはずですが?」


「分かりますよ。その若さでそれだけの貫禄が有れば。挨拶が遅れて申し訳ありません、私はリョージ・ウチノと申します。貴方と良い縁が得られればと思い、友人であるマルコに案内して頂きました。以後お見知り置きを」


 アウレリオは亮二の挨拶に一瞬目を見開いたが元の顔に戻ると、笑顔で右手を差し出してきた。差し出された手を握り返しつつ、お互いに目線を合わせてニヤリと笑う。


「おぉ。アウレリオが自ら手を差し出すなんて珍しいじゃないか。初めて会ったリョージがそんなに気に入ったのか?」


「えぇ、そうですね。私が自ら手を差し出したのはマルコを入れて5人目ですね。この方にはその価値が十分以上にあると感じました。ところで、さっきの『惜しい』とはなんの事ですか?」


 アウレリオはマルコに向かって笑顔で語ると、亮二に惜しい理由をたずねるのだった。


◇□◇□◇□


「あぁ。さっき『惜しい』と言ったのは、この店には改善点がまだあるって事です」


「改善点ですか?」


「ええ。せっかく店はいい感じなのに、支払いの段階でお客様が行列を作ってますよね? なぜレジを増やさないのですか?」


「れじ? もしかしてお金を払う場所の事ですか? 順番にお金を払うのですから、待つのは当たり前では?」


(やっぱり。アウレリオみたいな出来る商人でもこの世界の常識からは外れられないんだな。このままじゃ勿体無い! せっかくここまで上手くやれてるんだ。あと少しだけこの世界の常識から解き放てればこの店はまだまだ伸びる!)


「アウレリオさん、貴方はもっと店を大きくしたいですか?」


「もちろんです。商人なら店を大きく、商圏を広げるは悲願と言っても過言ではないですからね。リョージ様は、私の店を大きくする方法をご存じなのですか?」


「そうですね。何点か有ります。まずはお金を支払うレジを増やしましょう。先ほど支払いに並んでる人の多さを見て、諦めて帰った人が居ました。それにお金を払う場所は店の奥ではなく、入口近くに移動するべきです。動線が重なって支払いの行列と、買い物する人が入り交じって動きにくそうにしています。それにお客様が商品を手で持っています。あれでは厳選して買うしか出来ない。買い物カゴを用意しましょう」


 軽い感じで質問したアウレリオだったが、亮二からの提案に目を見開く。そんな様子を楽しそうに見つつも手応えを感じた亮二は怒涛の如く語り始めた。


「さっき、そこに居た女性客が『今日は袋を忘れたからまた今度にしましょう』と帰ってしまいました。買い物袋をこっちで用意するのはどうでしょうか? カルカーノ商会専用の袋を作って袋自体を販売するのもいいかもしれませんね。『袋を買うなんて』と思う方への対策としては、袋を購入された方には銅貨1枚割引券を、特別専用袋を持ってきた人には銅貨2枚割引券を付けるなんてどうでしょう? それに特別専用袋は高級感を出して、お客様が喜んで持ちたくなるようなデザインは必須ですね。他にも……」


「ちょ、ちょっと待ってください! そこの君! 今すぐに多めの紙と飲み物を私の部屋に持ってきてくれ! それと幹部を誰か一人呼んできてくれるかい。リョージ様とマルコは私の部屋に来てもらえませんか? お願いします」


 目を輝かせて改善案を語り始めた亮二を、アウレリオは慌てて遮ると二人を執務室に案内するのだった。

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