第4話 異世界に行くには準備が必要です -異世界に行くのも大変ですね-
【イオルスさんの幸福な皮袋】
幸福の神イオルスが認めた人間の為だけに作成した、神の加護が与えられた皮袋である。階層構造を利用してアイテムを保存することが出来、通常のアイテムボックスと比べると、容量や収容可能サイズが比較にならないほど巨大である。また、同一アイテムをまとめて保存する事も出来る。
「さすがイオルス。ちゃんと仕事してくれたんだな。フレーバーテキストに、ここまで書かれているなんて。ネーミングセンスはアレだけどな」
インタフェースに書かれている内容を読みながら、亮二は呟く。皮袋に入っている他の品物も確認しようとすると、イオルスの声が聞こえてきた。
「ぴんぽんぱんぽぉぉん! 当機は間もなく目的地に到着しまぁす! 膝の上のお荷物など、お忘れの無いようにお降り下さい! 膝の上って! 棚の上です!」
「なんの乗り物を参考にしているんだよ!」
人を食った内容に、青筋を立てながら叫んでいた亮二に、さらに人を食った声が響き渡る。
「『なにを参考にしてるんだよ』と思ったそこの貴方! 別になにも参考にしてないですし、考えてませんよ。残念でした。ぷぷぷ」
「おい! ふざけんなよ!」
「ふう。冗談はさておき、もうすぐ三枚の扉が現れます。好きなのを選んで開いてください。どの扉を選んでも、到着する時代は同じです。ですが、一つ目の扉は『これぞ王道!生まれた時から始めます!ただ、生まれる場所は選べません』となります。場合によったらなにもできずにいきなり人生が終わるかも」
「おい」
「二つ目の扉は『13歳から唐突にスタート』です。セーフィリアでの成人式に合わせました! 成人を迎えても十三才は微妙に子ども扱いされるのが玉に瑕です。成人式をしたのに、子供扱いってどっちなんだよ! って感じですね」
「おい。ちょっと待てって」
「そして、三つ目は『今の年齢のままでGo!』となります。ただし、それなりの年齢の方の場合は、いい歳した人間が突然現れて無双を始めるので、世界各国から『なに者だこいつ?』と、目を付けてられる事間違いなしです!」
説明を聞き終わった亮二は、途中で遮っても反応が無いところを見ると、自動音声だろうと判断し考えにふける。
「思ったよりも悩む内容だな。どれも悪くはないけどな。それにしても、デメリットを強調して説明するのはなんでだ? 一つ目なんて異世界モノならよくある設定なのに『赤ちゃん状態は危険』と言われると二の足を踏むわ。三つ目も世界各国から目を付けられるってどうよ? そんな状態で無双なんてできるかよ! どう考えても二つ目を推奨しているよな? だったら二つ目だけにしたらいいのに」
「今、一つだけ用意しといたらいいと思ったそこの貴方! 正解です! ノリで三つ考えたから、もったいないんで用意してみました。今回の選べる転生の件については、アンケート内容で改善されていきますので、ご記入をお願いします。ぷぷっ。アンケートなんて無いんですけどね」
「だったら言うなよ!」
ツッコミを入れてみたが、やはり反応がないので自動音声のようである。手が込んでいるのか、いないのか判断に悩みながら、扉の前に到着するまで考え続けた。
「よし! イオルスの思惑に乗るのは癪だけど、どう考えても二番目の扉だよな」
亮二は二番目の扉に手をかけると、力いっぱい思い切って押してみる。
「ん? 開かないぞ?」
「ぷぷぷ。実はこの扉は引き戸なんですよね」
「おまっ! 今度会ったら本当にしばくからな!」
叫びながら扉を引いた亮二は、セーフィリアの世界に吸い込まれるように入って行くのだった。
◇□◇□◇□
扉を開くと、亮二の周りを白い光が包み始める。目が開けられなくなるほど眩しくなり、思わず目を閉じた状態で蹲ってしまった。しばらくして光が収まったのを確認して目を開けると、目の前には大きな木がそびえ立っていた。
しばらくきょろきょろとしていた亮二だったが、イオルスのフラグ発言が唐突に頭に浮かび、慌てて周辺の注意を始める。
「なにも居ないか。イオルスがあんなこと言うから、ビビっちまったじゃないか。そういえば結局、ストレージの中身調べてないじゃん。インタフェースの索敵モードで安全を確認してから調べてみるか」
亮二はイメージを固めてインタフェースを立ち上げると、索敵モードをオンにして索敵半径を1kmにして調べ始める。
「この青い点は何か魔物か動物なんだろうな。青ってことは敵として認識してないって事だろうから、しばらくは大丈夫か。じゃあ安心してストレージの中身を確認出来るな」
亮二はそう呟くとインタフェース経由で、イオルスさんの幸福の皮袋をクリックすると内容確認を始める。
【イオルスさんの幸福の皮袋】
【お財布袋】
・金貨×九九
・銀貨×九九
・銀貨×九九
・銀貨×九九
・銅貨×九九
・銅貨×九九
・銅貨×九九
【へそくり -ご利用は計画的に- 】
・宝石(小)×九九
・宝石(中)×九九
・宝石(大)×九九
【癒し部屋】
・ポーション×九九
・ポーション×九九
・マナポーション×九九
・マナポーション×九九
【日用道具】
・テント
・寝袋
・炊飯グッズ
・衣服
・ランタン
【食料品】
・パン
・飲み物
・生肉
・野菜
・調味料各種
・マシュマロ
【そんな装備で大丈夫?】
【問題ない】
・ショートソード
・ロングソード
・杖
・皮鎧
・バックラー
【いいのをくれ】
・ミスリルの剣
・ミスリルの服
・ミスリルの腕輪
・不可視の盾形ガントレット
【ひ・み・つ】
・<閲覧不可能>
「おぉ! 胸張ってドヤ顔してただけあって、中身は充実してるな。階層にもなってる上に、武器防具も用意されている。なんで【問題ない】と【いいのをくれ】なんだ? イオルスの事だしなんかのネタなんだろうな。お! 金もたっぷり入ってるじゃん。安心してしばらくはニートが出来るな。やるじゃんイオルス。ところでこの【ひ・み・つ】ってなんだ?クリックしても<閲覧不可能>としか出ないんだけど?」
しばらく【ひ・み・つ】をクリックしていたが反応がないので後日調べる事にして諦めると、インタフェースを表示させた状態で色々と出し始めた。
「硬貨ってこんな感じなんだな。思ったより小さいな。でか過ぎるよりいいけどな」
貨幣を何枚か出していじっていた亮二の顔が、徐々に険しくなり始める。
「ん? 敵が迫っているな。数は3か。やっぱりフラグになっちまったじゃないか」
ゲンナリしながら索敵モードで確認すると、なにかが赤い点として自分に向かって来るのがはっきりと映っていた。亮二はストレージからミスリルの武器防具を取り出すと、慌てて身に着けていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます