第3話 異世界に行くには準備が必要です -そろそろ出発しますかね-

「これくらいで大丈夫ですかね?」


 満足げな顔をしているイオルスに、亮二は最後の援助を頼む。


「じゃあ、最後のお願いを頼む。サービスとしてイオルスがセーフィリアで必要だと思う物を、ストレージに入れといてくれよ。あっ! 金とは別にな」


「えっ? そんな無茶振りするんですか? お金の件だけでも、お願いを十分に聞いていると思うんですど? それ以外って、なにを渡したら良いんですか?」


「そこは初回特典って事で! 感覚でいいからさ! 適当に!」


「さっきまでのお願いだけでも、亮二さんはセーフィリアで無双できますよ? 素敵なスタートを切るのには十分じゃないですかね?」


 気楽な感じで両手を合わせてお願いしている亮二に、苦笑いしながらイオルスが答えた。


「でもさ。イオルスも俺に長生きをして、セーフィリアで暮らしてほしいんだろ? 世界中を旅する事も考えないといけないしさ。ちょっとだけ、気持ちを込めてくれよ。神様の慈悲ってやつでさ」


「そんな所だけ神様扱いして! むう。分かりました。それでは幸福の神イオルスの名において、亮二さんが我がもの顔で世界を満喫できるように充実させておきます!」


「おぉ! 幸福の神は太っ腹だね!」


 イオルスの宣言に満足げに合いの手を入れると、亮二は最後の質問を投げかける。


「で、ぶっちゃけどうやってセーフィリアに行くんだよ? 神の力で転送とかか?」


「それはですね。あの扉を御覧ください!」


「あの扉? うぉ! い、いつの間にか扉が現れている」


 イオルスが部屋の奥を指さすと、今まで何も無かった部屋に扉が現れていた。


「亮二さんの気持ちがセーフィリアに向いたので、あちらの世界も受け入れ態勢になったんですよ」


「なるほどね。了解!」


 いきなり現れた扉に驚きながらも、軽い調子で扉に手をかけるとイオルスに話し掛けた。


「これで、契約成立だな。短い間だったけど楽しかったぞ。神様だから、もう会うこともないだろうけど、あっちに行って偶像を見かけたら拝んどくよ」


「もちろんです! 初めてのパターンだからって事で、特別にかなり援助をしてるんです! ですから感謝してくださいね! 私の神殿を見かけたら、たっぷりの寄付をした上で拝み倒してください」


 亮二の軽い調子に合わせて軽く返事した後で、イオルスは笑顔で爆弾を落とした。


「ちなみに最初に到着する場所についてですが、私もどこに出るのか分からないんですよ。ごめんなさい! てへぺろっ。魔物にいきなり襲われることは無いとは思いますが、十分に気を付けてくださいね。おぉ! 今の台詞って、ある意味テンプレですか? それともフラグになります?」


「ちょっ! おま……! ふざけんなよ! せめて安全なとこ……」


 最後までイオルスへの苦情を言えず、亮二は扉に吸い込まれていく。亮二が居なくなった部屋は、先ほどまでの喧騒が嘘のように静寂に包まれていた。


「ふう。一仕事が終わりましたね。亮二さんとセーフィリアの未来が幸せに満ち溢れますように」


 イオルスは扉を見つめながら小さく呟くと、ユックリと紅茶を飲み始めるのだった。


□◇□◇□◇


「ふざけんなよ! 最後までしっかりと面倒見ろよ。なにが『今の台詞って、ある意味テンプレ?それともフラグになります?』だよ! 『てへぺろ』じゃねぇよ! いきなり魔物の群れの中とかだったら始まる事無く終わっちまうじゃねえか!」


 吸い込まれる様にセーフィリアへ続く扉をくぐった亮二は、引っ張られる感覚に身を任せながら毒づいていた。ふと亮二が腰に手をやると、皮袋が括りつけられており、服装もスーツや革靴ではなく、ゆったりとした旅人風の服とブーツになっていた。


「セーフィリアに行くのに、スーツじゃ駄目だろうからって事でイオルスからのプレゼントだよな。この皮袋がストレージか? あっちの世界に行くまで、どのくらいかかるか分からないけど、せっかくだから中身の確認をしとくか。イオルスはなにを入れてくれたんだ?」


 ワクワクしながら呟いていたが、皮袋からアイテムを引っ張り出すのは中身をまき散らしそうなので、インタフェースを起動して中身だけ確認しようとしてふと気付く。


「あれ? インタフェースの使い方を聞いてない」


(あ、あれか? イオルスのどじっ娘属性か? やだなイオルスさん。そんな属性持ちだなんて。惚れ直してしまうわ。そもそも惚れてないけど。どう考えても聞いてない俺が悪いよな)


 一人でノリツッコミをしながら、亮二は異世界モノに書かれているインタフェース起動方法を思い出そうと頭をひねる。


「確か、イメージが大切なんだよな。オンラインゲームを思い出すのが一番分かりやすいんだよな」


 仕事が忙しく、ログインしていないオンラインゲームのインタフェース画面を思い出しつつ、亮二はイメージを固める。


「おっ! 出た!」


 亮二の目の前に見慣れた画面が表示された。目の前の三〇センチくらいにメニュー画面が表示されており、画面には色々な文字が表示されていた。皮袋を手に持って検索するとイオルスさんの幸福な皮袋と書かれた項目が表示される。


「そのネーミングセンスはどうよ?」


 イオルスの名付けセンスに軽くツッコみながら、クリックするのだった。

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