第1章
第5話 初めての戦い -やっぱり怖いですね-
索敵モードでは大きさや強さまでは分からないが、赤い点は自分に対して敵意を持っている状態のようである。亮二はストレージから武器防具を取り出すと次々と装着して動きを確認する。
「それにしても、初めての戦いが複数とはね。相手によっては逃げないとな」
そう呟きながら、逃げる事を視野に入れて相手の姿を見てから戦うことに決める。ミスリルの剣の長さや重さを確認しながら、相手が向かってくる方向に意識を向けて腰を落とした。
「キノコ?」
敵意を振りかざして亮二に向かって来るのは、キノコのお化けだった。どの角度から確認しようと巨大なシイタケに、手足の様な触手が生えているだけである。大きさも一〇〇センチほどであり、動きも緩慢で、連携も取れていないようであった。
突出している1体から伸びてくる触手をステップして
「思ったよりも抵抗なく殺せたな。見た目がキノコなのが良かった。これが人型や動物だったりしたら、血が溢れ出て駄目だったかも」
誰かが居る訳でもないのに、口に出したのは興奮しているからだろう。亮二は遅れてきた2体のキノコに向かって駆け出すと、上段から鋭く振り下りした。1体目に対して圧勝したのが油断につながったのだろう。あまりにも鋭く振り下したミスリルの剣は、キノコを左右に切り裂いた勢いのまま地面にめり込んだ。
「なっ! ぬ、抜けねぇ」
地面に埋まっていた大岩に、ミスリルの剣が当たったようで大きな音が辺りに響き渡る。初めての戦闘でテンションが上がり過ぎた亮二にとって、剣を手放すとの選択肢は表示される事は無く、引き抜く事を選んでしまう。戦いに慣れた冒険者なら、まずは剣を手放し三体目と距離を取ったであろうが。
「くっ!」
大岩が思ったよりも固かったようで、ミスリルの剣を引き抜く動作が一瞬遅れてしまう。戦いにおいての一瞬は致命的である。なんとか剣を引き抜き慌てて構えたが、左から飛んできた触手を躱すことが出来ず、反射的に左手で防御をしようと力を入れる。
襲ってくる痛みに耐えるために全力で力を入れ、思わず目をつぶってしまった。だが、いつまで待っても痛みは襲ってこず、不思議に思いながら恐る恐る目を開けると、触手は亮二まで届かず止まっていた。
使い方も分からずに装備していた不可視の盾形ガントレットが、自分への攻撃を自動的に防いでくれたようである。亮二はホッと一息つくと、ミスリルの剣を上段からキノコのお化けに対して振り下ろした。三体とも動かなくなった事を確認した亮二は、腰が抜けたように地面に座り込んだ。思っていたよりも興奮していたらしく、息が荒れて整わないのである。
「うえっ! 疲れたぁ。戦いってこんなに疲れるんだな。それにしても、初戦から複数相手でよく勝てたな。なんで逃げる選択肢を選ばなかったんだろう?」
選択肢の中に逃げるが無かったのは、異世界に突然送られた事と、こちらに来てから密かにワクワクしていたのが大きかったからであろう。亮二にとって異世界とは本の中の世界であり、日頃の忙しい仕事の中、知らず知らず溜まっていくストレスを発散させる清涼剤だった。
「はたから見たらどう見ても、異世界モノの主人公だよな俺って。そらテンションも上がるわ」
突然、異世界に来てしまった。表面上は冷静に受け入れているように見えても、心の中では『実は主人公キャラじゃね?』と思ってテンションが上っていたのであろう。微妙とはいえ、神様にまで会って異世界行きを頼まれたのである。
ストレージから水が入った皮の水筒を取り出すと、震える手で蓋を外す。なんとか水を飲み終えて呼吸を整えた。
「今、気付いたけど、いつの間にかインターフェースも消えてるよな」
インターフェースを出したままは戦えないようである。最初に出す時もかなり集中力が必要だったので、戦いの際には自動的に解除されたのであろう。調べたい内容がある亮二は、再びインターフェースを起動すると、キノコのお化けの検索を始める。
キノコのお化け
セーフィリアに広く生息する魔物である。知性は無く動くものを見つけると麻痺性の毒を触手から出して、動けなくなったところに菌糸を埋め込んで仲間を増やす。人間にとっては麻痺性の毒は動きにくくなる程度のため、一般人でも2~3人いれば討伐は可能である。倒した後はキノコと同様に乾燥させて保存食としても活用されている。触手は舌が痺れる為に食べる際には注意が必要。討伐対象ランクH
「おい。名前からしてそのまんまかよ!『ひょっとして俺主人公?』とか思ってたけど、討伐対象Hで一般人でも討伐可能って出てるじゃん。めちゃめちゃ弱いじゃん。ミスリルの剣を使って『俺強えぇぇ』ってしてたのが、めっちゃ恥ずかしいんですけど!」
あまりのキノコのお化けの弱さにがっくりとしながら、三体をストレージに収納していくのだった。
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