第80話 【C】ランク依頼受諾 -試練の洞窟調査に行きますね-

「リョージさん、この依頼を受けて頂きたいのですが」


 亮二がギルドを訪れると、今日はギルドの受付嬢として勤務しているメルタから1枚の羊皮紙を差し出された。亮二はそれを受取ると「指名依頼?」と呟きながら内容の確認を行った。


 - 試練の洞窟深部調査 -

 牛人によるスタンピードが発生してから1ヶ月が経過したが魔物の出現数が増えてきている。原因を調査するために深部の探索を行う。学者を中心とした探索チームを結成し、そのチームを護衛する為に3人以上のパーティーを6組募集する


 達成条件:試練の洞窟の中での探索チームの護衛。けが人が出た場合は減額となる

 報酬:金貨5枚(有用な情報を得た場合は特別手当を支給)


 内容を確認しながら気になる点が有った亮二はメルタに問いかけた。


「メルタさん、”試練の洞窟”でスタンピードが発生した後に魔物の出現が増えるのって通常では考えられないの?」


「そうですね。前回の牛人が現れた時は牛人の撃退後の1ヶ月は魔物が殆ど出現しませんでしたね」


「それと、学者さん達って勝手な想像だけど戦闘力も体力もないよね?そんな人達が”試練の洞窟”の深部まで行けるの?それに有用な情報って学者さんが見付けても俺たちにも特別手当ってもらえるの?」


「その点に関してはご安心ください。探索チームには体力回復の魔道具とリョージ様…じゃなかった。リョージさんの作った5倍ポーションが支給されますから。有用な情報も冒険者の方に護衛されたからこそ発見されたって扱いになりますので大丈夫ですよ」


 質問によどみなく答えながらメルタは心配そうに亮二に注意を行った。


「リョージさんは”試練の洞窟”の広場までしか行かれてませんよね?牛人のスタンピードを受けても大丈夫だったリョージさんなら問題ないと思っていますが、奥に行けば行くほど危険な魔物が出て来ますので注意してくださいね」


「メルタさん、心配してくれてありがとう!でも大丈夫だよ。たとえ牛人が3頭出てきても、俺に掛かったらサクッと返り討ちだから!」


 メルタに心配を掛けない様に軽く返事をした亮二にメルタは笑いながらも「でも、気を付けてくださいね」と伝えるのだった。


 □◇□◇□◇


 亮二、マルコ、カレナリエンの3人が”試練の洞窟”に到着したのは依頼を受けた翌日だった。現地に到着した亮二達以外のパーティー、探索チームはまだ誰も到着しておらず、ギルドからの早馬連絡便で深部へは探索に必要な説明や、チーム間での連携を確認する為に“試練の洞窟”へのアタックは2日後と決まった。


「リョージ、属性付与のやり方をもう一度講義してくれないか?」


「え?また講義するの?別に何回でもするけど、誰か上手く使えない人でも居るの?」


 属性付与講師の要望に気軽に了承した亮二に、部隊長はホッとした表情で理由を話し始めた。


「リョージに教えてもらった属性付与で駐屯軍の戦力は劇的に向上したんだよ。それは素晴らしいことなんだけどな、実は増援として送られて来た兵士達との差が出てしまったんだよ。そんな状態で増援された兵士達を最前線に出すのは危険なんで元いた兵達で順番に軍事的示威活動をしているから元いた兵士達に疲労が溜まってるんだよ」


「なるほどね。そういった事情なら構わないよ。増援部隊への属性付与をしっかりと叩き込むよ。そうだ!部隊長、この剣に属性付与をしてみてもらえるかな?」


 亮二から渡された剣を鞘から抜きながら見た目は何の変哲もない剣に「この剣に何があるってんだ?」と呟きながら属性付与を行った。部隊長は属性付与がいつもの剣に比べると格段にスムーズに出来る事に驚嘆し、持続時間が通常より長い事に驚愕した。


「おい!リョージ、この剣は何だ?こんな簡単に属性付与が出来て、持続時間がこんなに長いなんて魔剣か何かか?」


「魔剣じゃないよ。その剣はドリュグルの街にある武器屋でオレ専用に作ってもらった一品物なんだよ。素材集めから始めて全工程が全て手探りだから、かなりの金額が掛かったけど、大量生産したら価格はもっと抑えられると思う。どう部隊長?この剣を駐屯軍の標準装備にしないかい?」


 部隊長は亮二に渡された剣を穴が開くほどの勢いで見つめていた。属性付与が出来ると言っても発動までに2秒ほど掛かっていたのが、この剣だとイメージするだけで1秒と掛からず属性付与されたのである。持続時間も2分ほどが限界だったのが、5分経っても属性付与が続いていた。この剣を駐屯軍兵士全てに装備出来れば、どのくらいの戦力アップになるのか計り知れないと部隊長は考えた。


「よし!辺境伯に働きかけよう。武器屋の名前を教えてくれないか?リョージ」


「条件によって教えてあげる」


「条件?」


「そう、条件。まずはカルカーノ商会を通して購入する事。そして武器の修繕については、紹介する武器屋だけに任せる事。それの条件を守ってくれるなら俺からもユーハン伯に働きかけるよ」


 部隊長にとっては特に問題ない条件だったので二つ返事で了承すると、真剣な目で亮二に語りかけた。


「リョージ、俺はどうなっても良いが兵士達全員を無事に家族の許に送り届ける義務がある。この剣を導入する事によってそれが出来る可能性が飛躍的に上がるんだ。リョージも責任を持って対応してくれると思って良いよな?」


「もちろん!ただ1個だけ間違いが有る!」


 リョージから間違いが有ると言われた部隊長は金の話をしていなかった事だと思い、「安心しろ、金のことなら悪いようにしない」と苦笑を浮かべ分かっていると頷いた。そんな部隊長を見て、亮二はニヤリと笑うと豪快に言い放った。


「違うよ、金の話は後からだ!今の部隊長の話に部隊長自身が入ってないよ。『俺はどうなっても良い』なんて人間の為に俺は動かないぞ!部隊長も生き残るために足掻いてくれよ」


 亮二の言葉に呆気に取られながらも内容を理解した部隊長はニヤリと笑って強く頷くのだった。

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