第79話 新しい武器 -普段使いにいいですよね-

「よう!リョージ!良い魔物の肉を仕入れたんだが買っていかないか?」


「じゃあ、屋敷の方に届けといて。料金は今払うから」


「ちょっと!こっちは新しいお菓子を作ってみたよ。前にリョージに教えてもらった“せんべい”を参考にしたんだよ。“しょうゆ”は無かったら塩味だけだけどね!」


「え?出来たの?もちろん買うよ。有るだけ頂戴!袋を2つに分けて1袋は屋敷の方に届けといて!」


「リョージ!今度のパーティーはいつだよ!」


「毎回しねえよ!他の誰かに言えよ!」


「お前みたいに気前の良い奴はいねえよ!」


 シーヴを通してコージモ=ルンディンから連絡があり、亮二は武器屋に向かっていた。この1ヶ月ほどでドリュグルの街で最も有名人となった亮二なので、道を歩いているだけで商人、料理人だけでなく一般市民からも声が掛かるため、亮二が武器屋に到着したのは約束の時間よりも1時間程遅れてしまった。


「ゴメン!遅れちゃった。コージモさん怒ってない?」


「お父さんがそんな事で怒るわけ無いじゃない!…ですよ。でも、リョージ様は時間を守る事を覚えた方がいいよ」


 まだまだ敬語の使い方に慣れていないシーヴに注意を受けながらコージモの所に案内をされた。


「ゴメンね。次から気をつけるよ。あっ!そうだ、途中で美味しそうなお菓子を見付けたから買って来たんだよ。後で家族の皆で食べといて。もちろん屋敷の分もあるからね」


「わぁ!ありがとう。ここで食べるのにお屋敷でも食べていいの?」


 自分だけがズルをしているような罪悪感に少し悩みながら聞いてきたシーヴに亮二は笑顔で答えた。


「その代わりに遅刻した事と無駄遣いした事は内緒ね」


 亮二からの笑顔の提案に「仕方ないなぁ」と言いながらも嬉しそうに買収されるシーヴだった。


 □◇□◇□◇


「遅くなってごめんなさい。武器が出来上がったってシーヴから連絡があったんだけど」


「“ドリュグルの英雄”を呼び付けたんだから幾らでも待つよ。それにお土産まで頂いたようで有り難う」


「素顔で歩いていたらあちこちから声かけられるんだもん。次は変装してから来るよ。お土産は気にしないで食べてね」


「ちなみにシーヴはちゃんとしてるかい?親としては気になるんだよね。本人は『ちゃんと出来てるから!』とは言ってるけどね」


「シーヴはメルタさんに怒られながらも頑張ってるよ。メルタさんも『筋はいい』って言っていたから」


 コージモの親としての質問に鷹揚に対応しながらも、亮二の目はコージモが持っている武器に釘付けになっていた。


「コージモさん、それが例の武器ですか?」


「ああ、まだ試作段階だから改善の余地はまだまだあると思ってるんだけど、武器の強度としては問題ないよ。手に取って見てくれるかい」


 亮二はコージモから武器を受け取り鞘から抜くとじっくりと眺めた。武器自体の大きさはロングソード程で、言い方は悪いが見た目は何の変哲もない剣であった。


「柄の部分にあるフックを外してみてくれるかい」


 普通の剣のようにしか見えなく、困惑気味の亮二はコージモに促されて柄の部分のフックを外してみると柄の部分が分離して長さ30cmのL字型の筒が現れた。


「コージモさん、これは?」


「それが発動体になるんだよ。簡単に言ったら魔法使いが使う杖に相当するね。ただ、それだけじゃ、味気無いからちょっと一工夫させてもらったんだ」


「どうぞこちらへ」と笑顔で裏庭に案内されるとそこは剣が振るえる程度の広さがあり、コージモの話では作った武器の強度やバランスを見るために使われているとの事だった。


「通常は発動体なんだけど、それ以外にも筒状になってるのが分かる?そこに小さな魔石を入れてから軽く魔力を込めると打ち出すことが出来るんだよ」


「え?先込め式銃って事?」


「リョージくんが言っている“さきごめしきじゅう”が何かは分らないけど、リョージくんの住んでいたニホンではすでに有ったんだね」


 心底ガッカリした様子で話すコージモに対して亮二は慌ててフォローを行った。


「違うよ!コージモさん。俺の国の大昔の文献で見ただけで、実物は見たこと無いからビックリしただけなんだよ」


「そういう事だったらリョージくんが驚くのも無理は無いね。それにしてもニホンとは凄い国だね。私が考えていた事なんてすでに存在するんだから」


 - リボルバーやライフルなんかの事は黙っといてあげよう。色々な意味であっちの世界って確かに凄いよな。日本に生まれたお陰で、異世界で無双が出来てるって言っても過言じゃないからな -


「俺も文献でしか見た事がないから、それをゼロから想像して作れるコージモさんが凄いんだよ!ちょっと俺も試射していい?」


 亮二はストレージからキノコのお化けの魔石を取り出すと筒の先端に詰め込んでコージモが用意した的に先端を向けた。的の大きさは直径60cmくらいで、厚さは15cmほどの的になり、亮二は的に向かって構えると軽く魔力を流してみた。軽快な音がしたかと思うと、的に小さな穴が空いており亮二が後ろを確認したところ、貫通して立てかけていた木にめり込んでいた。


「おぉ!結構威力が有るんだな。対魔物戦で戦況を変えたい時に使えるかも。それにライフルとしても使えそうだから魔物の皮や部位を傷付けずに倒す時に向いているな」


 亮二はL字型の筒を剣に再装着してフックを掛けると剣としての性能の確認を始めた。コージモは剣のバランスに問題がないかを確認しようとしたが、亮二が行っている剣舞のような動きに見とれてしまい確認しないまま終わってしまった。


「ごめん、リョージくん。君の剣舞に思わず見とれてしまって確認出来なかったよ。もう一回お願いしたいけど大丈夫かな?」


「え?もう一回チェックするって事?大丈夫だよ、そんなに疲れた訳でもないから」


「有り難う。だったら、何か属性を付与して素振りをしてもらっていいかな?普段使ってる剣が”ミスリルの剣”だから違いは分からないかもしれないけど、この剣は筒の部分に魔力を流せるようにしてるから属性付与がやりやすくなってると思うんだけど」


 コージモの話を聞いて何気に【雷】属性を付与する為に魔力を込めると”ミスリルの剣”の時は「押し出す」イメージが強かったが、この剣は「流す」イメージで簡単に付与が出来た。


「コージモさん!この剣は凄いよ!簡単に属性付与が出来るよ。俺の”ミスリルの剣”と比較しても良いんじゃないかな?」


「え?”ミスリルの剣”は国宝級ですよ!それは幾らなんでも言い過ぎじゃないかな」


 亮二の興奮した様子に若干引きながらも絶賛された事は武器屋としての矜恃を十分に満たしており、コージモは先代の父と並んだと思えるのだった。


 ◇□◇□◇□


「リョージ様、正座!」


「え?何で?」


「また無駄遣いしたでしょう!」


「し、してないよ?」


「では、なぜ、高級魔物肉と見た事がないお菓子が屋敷に運ばれて来たんですかね?」


「しまった!」


「シーヴからも事情は聞いています。待ち合わせに遅れるなんて貴族として以ての外です」


「シーヴ!裏切ったな!」


「ごめん、メルタさんに隠し事も逆らう事も出来ないよ」


「だから、シーヴも正座してたのか」


「2人とも2時間コースですからね!」


「「ええぇ!」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る