第48話 食事会は和やかに -食事するのも大変ですね-

「それでは食事会を開催致します。まずはリョージ様。本日はお越し頂き有難うございます。白雪が無事だったのはリョージ様のお陰です。それにユーハン伯やマルコにカレナ。あなた達が迅速に冒険者に召集を掛けてくれたので、私は落ち着いた状態で待ち続ける事が出来ました」


「こちらの不手際で白雪を危険な目に合わせたにも関わらず、心温まるお言葉を頂き恐縮です」


「ユーハン伯、気になさらないで下さい。白雪は無事だったんですから。それでよしとしませんか?」


 エレナ姫の挨拶を受けて亮二は軽く頭を下げマルコはニヤリと笑い、カレナリエンは微笑んで頷いたが、ユーハンだけが不手際を詫びながら厳しい顔をしていた。エレナ姫は厳しい顔をしているユーハンに対して柔らかな言葉を掛けると、やっと笑顔を取り戻したユーハンは食事を運んでくるように給仕に伝えるのだった。食事は和やかな空気の中で進んでいき、メインディッシュの頃には”試練の洞窟”での戦闘の話に差し掛かっていた。


「では、リョージ様が牛人を倒された時に駐屯軍は何をしていたんですか?リョージ様1人に牛人を対応させるなんてあんまりじゃないですか?」


「いえ、役割分担をしただけですよエレナ姫。彼らが他の魔物を抑えてくれていたので牛人に集中して戦うことが出来たので。1人でやり過ぎたので戦闘が終わった後でカレナリエンに物凄い説教を受けましたけどね」


「当たり前でしょ!聞いてよエレナ!リョージさんたら1人で魔物の群れに突っ込むわ、牛人と勝手に一騎打ちを始めるわでこっちの心配なんて気にもせずに戦ってばかりなのよ!」


 亮二が笑いながら説教を受けた事も含めて説明すると、カレナリエンが真っ赤な顔をしながら反論してきた。


「さっきから、気になってたんだけど、カレナリエンさんとエレナ姫ってお友達なの?」


「そうですよ。私が小さい頃から講師と護衛と友達を兼ねて一緒に居てくれてるんです。最近はお互いがそれぞれの仕事に専念しているので一緒にいる機会は減りましたけどね」


 エレナ姫は少し寂しそうに話すとカレナリエンが笑顔で「それだけ責任感が出てきたって事でしょ」と言いながらワインに口をつけるのだった。


◇□◇□◇□


「あれ?そう言えばマルコはどっかに行ったの?」


「お前の横で飯食ってるわ!何で横にいるのに居ない扱いしてるんだよ!」


「だって、マルコはツッコミが出来て一人前じゃない」


「飯くらいユックリ食わせろや!」


 横で静かに食事をしているマルコをからかうとマルコがツッコミを入れてきた。


「流石に素晴らしく切れの良いツッコミですなマルコさん。俺の中でいつも輝いているよ」


「お前の中での俺の立ち位置を一回ジックリと聞きたいわ」


「2人で大道芸をしたら世界が取れると思ってるよ!」


「いや取らねえよ。なんで大道芸なんだよ、世界を取るなら冒険者でトップを目指すわ」


 亮二とマルコが相変わらずの掛け合い漫才の様な事をしていると食堂の扉が勢い良く開いた。


「マルコ!」


「げっ!ナターシャ、何でここに?」


「『何でここに?』じゃないでしょ!もうすぐだからユーハンの所に来るって言っといたじゃない。昨日、こっちに来ててユーハンから最近の事は聞いてるし、さっき精霊魔法でカレナから報告を受けてるからね。1分あげるから死ぬ気で言い訳を考えなさい」


 突然入ってきた女性ナターシャにマルコは慌てて席を立ちながら逃げ腰で逃走を図ろうとしたが、ユーハンの目線で指示を受けた直属護衛騎士が周りを取り囲みマルコの退路を断つと、近づいてきたナターシャに道を譲って元の配置に戻った。


「てめえら、後で覚えてろよ」


 マルコは元の配置に戻った直属護衛騎士達を恨めしそうに睨むとナターシャに向き合った。


「元気そうだな、ナターシャ。具合はどうだ?」


「ええ、カレナから報告を聞くまでは元気いっぱいだったのよ。でも、看板娘を口説いた事まで聞かされたら元気で爽やかだった気持ちが怒髪天を突く力に変換されても仕方が無いと思うの。そうでしょマルコ?」


「酒は本当に恐ろしいよな。本当に済まないって思ってるんだよ。だから今回はエレナ姫の御前でもあるからからな!穏便にって事で」


 マルコの必死の語り掛けを笑顔で聞いていたナターシャを事情の知らない者が見たら生気に満ち溢れた顔にひと目で虜になっただろう。残念ながらその顔になったナターシャの状態を知っているマルコは蒼白なっており、この後に行われることが分かっているので、へっぴり腰になりながらも覚悟した顔になっていた。


「そんなの関係ないよね。この浮気者!」


 「最高の笑顔」と称されても問題ない笑顔のままで左頬を打ち抜くとマルコの身体は錐揉み回転をしながら吹っ飛んでいくのだった。


 ◇□◇□◇□


「初めまして、リョージ君。マルコがいつもお世話になってます」


「は、初めまして。リョージ・ウチノです。マルコさんにはドリュグルの街に来てからお世話になってます!」


 サッパリとした素晴らしい笑顔で挨拶をされた亮二は、床の上でピクリとも動かないマルコに視線を一瞬だけ向けると怯えたかのように挨拶をした。


 - 多分マルコの奥さんだよな、この人。おっかねぇよ、素晴らしい右ストレートだったけどさ。マルコも一撃もらって床で伸びてるし、綺麗な人が笑顔で近付いて初めて恐ろしいって思ったよ -


 亮二が考え込んでいるのを見て説明が足りないと思ったナターシャは自己紹介を始めた。


「改めて自己紹介をさせてもらうわ。私はナターシャ=ストークマン。そこで幸せそうに寝ているマルコの奥さんよ。マルコやカレナと同じ冒険者でちょっと前までパーティーを組んでいたわ。今はこんな状態だから一時引退をしてるんだけどね」


「一時引退じゃなくて引退だからね!ナターシャ。これから出産育児と有るんだから冒険者なんてやってる場合じゃないんだから」


「え?ナターシャさん、もうすぐ赤ちゃん生まれるの?父親は誰?」


「俺に決まってるだろ!ナターシャが言ってただろ、マルコの奥さんって!」


 自己紹介をしたナターシャにカレナリエンがツッコミを入れて、亮二も驚愕しながら父親の確認をした所で気絶状態だったマルコが起き上がりながらツッコミが入った。


「あら?起きたの?」


「なんで、そんなに残念そうなんだよ。旦那が回復したんだから喜べよ」


「奥さんが居て、もうすぐ赤ちゃんが生まれて父親にもなる人が看板娘を口説くってどう思う?リョージ君はそんな大人になっちゃ駄目だよ?」


「大丈夫ですよ。マルコじゃあるまいし」


「そうよね、マルコじゃあるまいし信じてるわ。間違ってもカレナリエンが悲しむようなことをしたら私の右拳が黙ってないわよ」


 ナターシャの笑顔で握りしめた拳を見ながら亮二となぜかマルコも一緒にコクコクと頷くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る