第49話 異世界デザート -アイスは正義ですよね-
ナターシャも席について食事会は再開した。マルコとナターシャの一連の騒動をエレナは楽しそうに、ユーハンは普段の仕返しが出来たとばかりに清々しい表情で、カレナリエンはエレナの前での騒動に困った顔をしながらも嬉しそうにと三者三様の表情を浮かべていた。
- それにしても、ナターシャさんはもう怒ってないよな?いつもの事っぽいし、被害者がマルコだから気にしなくていいか -
亮二はナターシャが怒っていない事を確認できたので食事に専念し、最後のデザートを楽しみにしていた。
「では、食事会はこれで終わりとさせて頂きます。また、皆さんの武勇伝をお聞かせ下さいね。本日は有難うございました」
「えっ!終わり?デザートは?」
エレナの終わりの挨拶を聞いた給仕たちが片付けを始めたが亮二の悲鳴とも取れる言葉に困惑の表情を浮かべてエレナの方を一斉に向いた。
「あの、リョージ様。どうかされましたか?何か本日の食事会で何かご不満な点が?」
「い、いえ。不満はないんですよ、エレナ姫。デザートとかは無いのかなって思った次第でして」
「“でざあと”ですか?その様な物を聞いたことが有りませんが、リョージ様のニホン国では“でざーと”なるものが食事の最後に出てくるのですか?それはどういったものか言って頂ければ用意させますが」
エレナの問いかけに答えた亮二は自分が知っている限りのデザートについての情報をエレナに熱く語った。
「なるほど、リョージ様のお国では食事の後にお菓子を食べられるんですね。それにしても“けえき”や“あいすくりうむ”など見た事も聞いた事も無いお菓子ですね。それらを“でざあと”と呼ぶのですね。リョージ様は“でざあと”を作れるのですか?一度食べてみたいですが作って頂く事は出来ますか?」
「リョージさんは“でざあと”がどんなお菓子か説明できるんだったら、作れますよね?」
「私も“でざあと”に興味があるわ。まずは冷たいお菓子ってリョージ君が言っている冷たいお菓子の“あいすくりうむ”を食べてみたい。ねえ、マルコ」
女性陣から勢い良く「食べたい」との合唱が起こったのを見て「甘いもの好きは万国共通なんだな」と亮二が呟いたのを聞いてマルコも頷いていた。
「おぉ、何か女性陣の食いつきっぷりが凄いな」
「そうですね。せっかくユーハン伯のお抱えの料理長がいるんですから助けてもらいましょう!リョージ様、作ってもらっていいですか?」
「分かりました。そこまで言われたのならアイスクリームを料理長さんと作ってきましょう」
女性達の歓声を背中に受けて亮二は厨房に向かうのだった。
◇□◇□◇□
「おい!そこの小僧!お前がユーハン伯から言われて来たリョージってやつか」
ユーハン伯からの伝言を給仕から聞いた料理長は険しい顔をすると亮二を睨みつけてきた。
「ああ、俺が食後のデザートを作りに来たリョージだよ」
「ふざけるな!お前みたいなガキに何が出来る。さっさと帰れ!」
怒り心頭の料理長を見ながら亮二が困っているとカレナリエンが厨房に入ってきて料理長にお願いを始めた。
「ねえ、料理長。お願いだからリョージさんに台所貸してくれないかな?」
「いくらカレナリエンちゃんのお願いでも駄目だ!ここは俺の戦場だ。訳の分からない奴に貸すことは出来ない」
「あの、料理長さん。じゃあ、俺が何か料理を作るからそれで判定してよ。駄目なら今日の料理に掛かった費用を全部持つから」
頑なに拒み続ける料理長に、さすがのカレナリエンもお手上げ状態になっていたが亮二からの提案は周りにいたカレナリエンや給仕、料理スタッフだけでなく、料理長にも驚きを持って受け入れられ、料理長は人の悪そうな笑顔で亮二を見て提案を受ける事を伝えた。
「よし、そこまで言うなら試してやろう。お前が言っている“あいすくりうむ”とやらを食べてやる。だが、ここに居るスタッフは誰も使うなよ。可哀想だから調理器具や材料は貸してやる」
「有難う。調理スタッフは必要ないよ。じゃあ、牛乳と生クリームと卵とハチミツを下さい」
「“なまくりうむ”?何だそれ?そんなものねえよ」
料理長の顔を見て嘘はついていない事を確認した亮二は「牛乳はあるけど、生クリームは無いんだ。この感じだとバターも無いな」と呟き生クリーム以外の材料を受け取ると調理台に向かった。亮二は生クリームを使ったアイスクリームは諦め、卵と牛乳で出来る簡易アイスクリームに切り替えることにした。
「卵黄とハチミツを混ぜて、温めた牛乳を入れながらかき混ぜて、とろみが付いたらメレンゲ状の卵白を入れてさらにかき混ぜてっと。後はこれを弱めの【氷】属性魔法で冷やしていきながら、さらにかき混ぜれば!完成っと!」
「リョージさん。これが“あいすくりうむ”なんですか?」
料理長とカレナリエンは徐々に固まっていく牛乳を驚愕と共に見つめ、亮二の完成の声を聞いて恐る恐る「完成ですか?」と尋ねてきたカレナリエンに対して亮二は頷くとボールからスプーンで掬って手渡した。
「冷たいから気をつけてね」
亮二の忠告を聞いてはいたが、カレナリエンはアイスクリームを口に入れるとあまりの冷たさに「きゃ」と悲鳴を上げてしまった。悲鳴を上げた事を謝罪するかのように亮二を見ると、亮二の視線は料理長に釘付けになっていた。カレナリエンも釣られるように料理長を見ると涙を流しながらアイスクリームを食べていた。
「り、料理長?」
「カレナリエンちゃん。俺は料理人になって30年になるが、こんな旨い食べ物を見たことも聞いたこともない。俺は今まで何をやってたんだろうな?」
感動の余り涙を流している料理長を見て亮二は勝利を確信するとガッツポーズをするのだった。
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