第50話 異世界デザート2 -プリンも美味しいですよね-

「お待たせしました」


 亮二の声を聞いて、マルコから亮二と共にいた1週間ほどの話を聞いていた一同は、亮二が席を外してから30分ほど時間が経っている事に気が付いた。亮二は途中で様子を見に行ったカレナリエンの手には大きな盆が持たれており、盆の上には銀色の4つの器にアイスクリームと別の物がそれぞれ盛りつけられていた。


「リョージ様、それが“あいすくりうむ”なのですか?」


「ええ、エレナ姫。こちらがアイスクリームになります。私の国では皆が年中食べておりました。本来は夏場の暑い日に食べるのですが、冬であっても部屋を暖かくしてでも食べるくらい国民は熱中していましたよ」


 待ちきれない表情でアイスクリームを凝視しながら問いかけてきたエレナ姫に、亮二は日本でのアイスクリーム事情を説明した。かなり亮二の主観が入った説明になってはいたが。


「どうぞ、エレナ姫。かなり冷たいですので気をつけてお召し上がり下さい」


 亮二の手によってエレナたちの前に置かれたアイスクリームは王宮で様々な物を食べてきた彼女でさえも見たことが無い物であった。亮二から冷たいと注意されていたので気をつけながらスプーンを持って期待と不安に振り回される気持ちになりながら恐る恐る口に運んでいった。


「冷たい!そして甘いですね!こんな冷たいお菓子があるなんて知りませんでした!それになんて優しい甘さなんでしょう!リョージ様の国では国民が年中“あいすくりうむ”を食べておられるんですよね?皆が病み付きになる気持ちが物凄く分かりました!ちなみに“あいすくりうむ”の作り方を王宮の料理長に教えて頂いても構いませんか?作り方は秘伝になると思いますので、それに見合った報酬は用意させて頂きます!」


「うぉ!怒涛のご感想ありがとうございます。それ程喜んで頂けるのなら作ったかいが有ります。アイスクリームの作り方をお伝えするのは別に構いません。ただ、アイスクリームを作るにはかなりの氷が必要になりますが構いませんか?」


「ええ、問題有りません。いざとなったら料理人を伴って北の別荘まで赴きます。あそこは万年雪がありますので大丈夫です!」


 エレナ姫のあまりの食いつきっぷりに「俺は魔法でゴリ押ししたけど、金持ちのすることは違うな」と呟きながらエレナ姫に後ほど作り方のレシピを渡すことを約束するのだった。


 ◇□◇□◇□


「皆さん、アイスクリームをお気に召したようですのでこちらも試してみませんか?」


 エレナだけでなく試食をしたカレナリエンを除いた全員も、冷たいお菓子に感動しながら量が少ない事に物足りなさそうな顔をしていた。それを見越した亮二はカレナリエンが持っていたお盆から器を取るとそれぞれの前に置いていった。


「リョージさん、自分で運んどいて言うのもなんだけど、これは何?かなりプルプルしてるけど?」


「これはプリンってお菓子になります。アイスクリームほど冷たくないので安心して食べて下さい」


 亮二に手渡されたプリンにアイスクリームを食べるより恐る恐る口に運んだ4人は今まで食べた事のない食感と美味しさに、時が止まったかのように硬直してしまった。


「皆さん、大丈夫ですか?プリンのお味はどうですか?」


「す、すいません。あまりの美味しさに意識が無くなりそうになりました。これは神への供物ですか?」


「リョージさん。さっき食べた“あいすくりうむ”も別世界の味だったけど、これはなんなのかな?さっきも聞いてたけど教えて欲しいよ」


「あっ、何かお腹の子まで喜んでくれているみたい。本当に美味しいね」


「おぉ、これは普段激務に勤しんでいる私に対する神からのご褒美か!」


「おい、リョージ!なんで俺の分だけ無いんだよ!」


 5人からのそれぞれの感想や抗議の声に満足気な表情を浮かべると亮二は今後、この世界で食後のデザートが普及することを確信するのだった。


 □◇□◇□◇


「牛乳を使った料理ってそんなにあるのか?」


 無事に食事会が終了した後で亮二は料理長に捕まっていた。アイスクリームとプリンがかなりのインパクトだったらしく、「他にも知っている料理を教えてくれ」と頼まれて気を良くした亮二は自分が知っている料理を料理長に伝えた。料理長は今まで知らなかった料理の種類があまりにも多いことに驚愕の表情を浮かべながらも、亮二の言葉を聞き逃さない為に必死でメモを取っていた。そんな料理長の反応が嬉しく、亮二は自分で今まで作ってきた料理や食べてきた料理について思いつく限り喋っていた。


「本当に簡単な説明だけで良いんだよね?」


 特に料理長が興味を示したのが牛乳を使った料理のようで、アイスクリームの他にも生クリームやバターの作り方やドリアやカルボナーラなどの作り方を簡単に説明した。


詳細ではなく簡単に説明したのは料理長が「牛乳を使った料理の可能性を追求するために残された料理人人生を全て捧げるので、まずは簡単なヒントを元に自分で作りたい」と言ってきたからである。亮二としては自分が覚えている大まかなレシピを伝えることで、後は完成してもらえれば良いので料理長の提案は渡りに船だった。


「あぁ!任せとけ。近い内にリョージに俺が作った料理を食べさせて「旨い!」と言わせてやるからな!」


 後の話ではあるが、料理長は亮二からもらった牛乳を使ったレシピを元に「牛乳大使」と呼ばれるようになり、ユーハンとタッグを組んで料理を主体とした外交を行っていき、セーフィリア全土に牛乳を使った料理を広めた偉人として歴史書に記録されていくのであった。

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