第47話 褒美を貰いに行くまでの一コマ -あれはいいものですね-

「いつもの服しか持ってないんだけど大丈夫かな?」


 亮二は珍しくそわそわしながら服装のチェックを行っていた。とは言っても、普段から着ているミスリル装備を纏った状態でユーハン伯から授与されたマントと名誉騎士の勲章を身に付けただけだが。


「それにしても、景気のいい子供だと思っていたら“ドリュグルの英雄”さまとはね。夜遅くに来たお前さんを無下に扱わなくて本当に良かったよ」


 準備を整えた亮二は宿屋の1階に降りて馬車が来るのを待っていると、宿屋の主人が笑いながら亮二の向かいに座ってお茶を手渡してきた。


「いや、こっちも本当に助かったよ。夜も遅くだったから、ここで断られたら泊まる場所が無かったからね。他の場所も知らないしそうなったら野宿決定だったんだから」


「それは良かった。そう言えば屋敷をもらったんだっけ?ここにはいつまで居るつもりなんだい?」


「1週間位で準備が整うってユーハン伯とこの文官が言っていたから泊まるのは後5日間だね。あっ!1ヶ月泊まるって言っといて反故にするんだから先払いしているお金は払い戻ししなくていいからね」


 亮二の気の使いっぷりに店主は苦笑いすると自分用にも淹れていたお茶を飲みながら今後の話を始めた。


「じゃあ、お言葉に甘えて有り難くもらっとくよ。ただ、それだとこちらの気が収まらないから食事は食べに来てくれるかい?朝夕と今月末まで無料にしとくから」


「おぉ!それは嬉しいかも。屋敷をもらっても1人で住む事になるから食事の準備が面倒くさかったんだよね」


「お?カレナリエンと一緒に住むんじゃないのか?」


 からかうように言う店主に亮二は難しい顔をして答えた。


「そうしてもいいのか分からないじゃん?若い男女が一つ屋根の下で暮らすのって簡単にしちゃダメだと思うんだよね」


「お、おう。子供のくせに難しい事を考えてるんだな。だったらメイドを雇うのはどうだい?」


「メイドさん?ほう、メイドさんね。それは良いかも」


 亮二はメイドの言葉に喰い付くと店主からメイドに雇う時に月に掛かる費用や注意事項を聞くとほくほく顔でお茶を飲み始めるのだった。


 □◇□◇□◇


「リョージ様、お待たせいたしました」


 御者が迎えに来て、亮二は店主とメイドについて熱く話し込んでいる事に気付いた。時計は持っていなかった為に正確な時間は分からなかったが、話が白熱し過ぎてお茶を何杯飲み干したか分からない位の時間は経っていた。


「リョージ、今日ほど素晴らしく白熱した会話をした事なんてなかった。まさか俺以外にここまでメイドへの造詣が深い人間が居るとは」


「俺も店主ほどメイドに対する博学かつ慈愛に満ち溢れた人物に会えるとは思っていなかった。ぜひとも第2回を開催しようじゃないか」


 亮二と店主は熱く握手を交わすと力強く頷きあった。


「リョージ様、そろそろよろしかったでしょうか?」


「ああ、すまない。かなり白熱した実に充実した語り合いだったんだよ。でも、もう大丈夫!第2回を開催することになったからね。それではユーハン伯の元に向かいましょう!」


 やたらとテンションの高さに「メイド?なんの会議なんだろう?」と思いながらも亮二には聞く事も出来ずにいた御者だったが、自分の職務を思い出して亮二を馬車に乗せてユーハン伯の元に連れて行く為に手綱を握って馬車を進ませるのだった。


◇□◇□◇□


その後は特に御者と話をする事も無くユーハン伯の居城に着いた亮二は入り口でエレナやマルコ、カレナリエンが正装で待ち受けていた。


「本日はお招きに預かり恐悦至極に存じ上げます。姫様に玄関まで迎えて頂けるとは。本日を記念として子々孫々に渡り伝えて参ります」


「もう、リョージ様!そんな堅苦しい挨拶は抜きにして下さい。今日は晩餐会ではなく白雪を救ってくださった友人をおもてなしする気楽な食事会なんですよ!」


 亮二の礼儀に沿った挨拶を受けたエレナ姫は頬を膨らませると、「もっと気楽にして下さい」とお願いをするのだった。


「分かりました、エレナ姫。じゃあ、気楽にさせてもらいますね」


「でも、羽目は外し過ぎない様には気を付けてくれよ。お前の粗相でユーハンが処罰されるとか勘弁してくれよ」


「当たり前じゃん!マルコじゃあるまいし、冒険者と飲み比べをして負けそうになったからって暴れだしたり、どっちが強いかって殴り合いを始めたり、酒場で看板娘をエロい顔で口説いたりはしないよ」


「うぉい!余計な事を言ってんじゃねえよ!あん時はノリと勢いで弾けただけじゃねえか。姫様の前でなんて事を言うんだよお前は!」


 亮二がエレナ姫に対して答えた内容に釘を差すようにニヤけながら注意をしたマルコは、亮二の歓迎会でマルコの壊れっぷりを話され、看板娘を口説いた事まで暴露され反撃だけでなく轟沈されてしまった。カレナリエンの「へぇ、マルコそんなコトしてたの。これは報告が必要ね」との台詞を聞いて、亮二に対して真っ赤だった顔がカレナリエンを見て一瞬で青くなり「いや、違うんだカレナ。だから報告だけは」とゴモゴモと口ごもしているのを見て、エレナはクスクスと笑いながら食堂に向かうのだった。

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