第225話 市場調査? -変装したままですね-

 旧レーム伯爵領の領都の食料品市場で物凄く目立つ3人組が歩いていた。金と翠が混じったストレートの長い髪に、スレンダーな身体でコバルトブルーの瞳で見た目は可憐な正統派美少女。黒髪のストレートに白い肌に豊満な身体つきが見る者を惹き付けるメガネを掛けた知的美人。そんな2人に連れられて戸惑ったような顔をした銀髪碧眼でフリルの付いたワンピースを見事に着こなしている可憐な美少女。


 カレナリエンとメルタに連れられた変装中の亮二の3人組だった。カレナリエンとメルタ、亮二の美貌と、妹を引っ張り回して楽しそうにしている姉2人に見える様子に、すれ違う人々は微笑ましそうに見る者と3人の美貌に見惚れる者とに別れるのだった。周りからの注目され具合が尋常じゃない事に気付いていない3人は、2名は無邪気に、1名は達観した表情で市場を楽しんでいるのだった。


「ここでの買い物が終われば、次は服を買いに行きましょうね」


「そうですよ。服を買った後は装飾品も買いましょうね」


「えっ?さすがに、これ以上の服や装飾品は要らないんじゃ…いえ、なんでもありません。カレ姉様。メル姉様」


 カレナリエンの言葉に反論しようとした亮二だが、メルタを含めた鋭い視線に軽くため息を吐くと諦めたように全てを任せて2人に付いて行くのだった。


 ◇□◇□◇□


「なあ、そこの可愛い3人組。俺たちと遊ばない?」「おい、儂の店で働かないか?3人一緒に働いてくれたら、一人当たり金貨5枚は出すぞ」「お姉ちゃん達、綺麗だねぇ。おじさん、オマケしちゃうよ!」「そこの可憐な美しい花達。私が領都を案内してあげよう」


 市場通りを半分も歩かない内に3人に対して、あちこちから様々な声が掛かっていた。カレナリエンとメルタが適当に返事をしながら領都の情報を得た上で追い払っていたが、しつこく付きまとう者には、どこからとも無く現れた黒い集団が周囲の人に気付かれないように連れ去っていた。


「なあ、ちょっと、疲れたから休憩しないか?慣れない靴で足が痛くなってきたぞ」


「駄目ですよ!その喋り方は!ちゃんとした女の子の言葉を使わないと」


 亮二の言葉使いに注意しながらも、カレナリエンは近くにある喫茶店を見付けると空き状況を確認して中に入るのだった。


「だぁ!疲れた!俺には、この靴は…わ、私には合わない靴だったようですわ」


 亮二が椅子に座って、だらしなく疲れた気持ちを言葉にしようとしたが、カレナリエンとメルタから「言葉使い!」と言われながら、大股を開いて座っていた状態を修正された。そんな様子を眺めていた店主の女性が笑いながら注文を取りに来た。


「ははっ。仲が良いね。あんた達みたいな綺麗どころを見た事が無いけど、レーム伯爵領に来たのは初めてかい?それにしても、なんでこんな寂れた伯爵領に来たんだい?」


「王都から来たんですが、レーム伯爵の代わりにリョージ伯爵が治めるって聞いたんですよ。パレードか着任祝賀会を開催するだろうから、それを楽しんでからドリュグルに行って雑貨屋さんでも始めようかなって。今の領都ってどんな感じなんですか?」


 店主の女性からの質問にメルタが当たり障りない返事をしながら領都についての質問と、亮二がやって来ることについて聞いていた。店主の女性は領都の景気は良くない事と、税金を払えなくて苦労していることや、食材の調達に苦労している話などをしてくれた。


「今度やって来るリョージ伯爵は“ドリュグルの英雄”って言われてるけど、まだ11才って話じゃないか。お嬢ちゃんと同い年くらいだろ?戦いは凄いかもしれないけど政治なんてした事が無いから、結局は前の伯爵様みたいに王都に行ったきりで帰ってこないと思っているよ。そして、その生活を支えるために私達が高い税金を払うんだろ?今度のリョージ伯爵様には、せめて税金を少なくしてくれると助かるんだけどねぇ」


 店主の女性は亮二を見ながら「お嬢ちゃんくらいの年で英雄なのは凄いと思うよ」と言いながら、注文された料理と飲み物を作るために厨房に入って行くのだった。


 ◇□◇□◇□


「俺への期待って微妙じゃね?」


「仕方ないと思いますよ。リョージ様の情報がどこまで領都に伝わっているか分かりませんし」


 亮二のがっかりとした言葉に、メルタが慰めるように返事をしてきた。カレナリエンも亮二の頭を撫でながら「リョージ様だったら大丈夫ですよ」と伝えてくるのだった。


「あんた達は本当に仲がいいね。注文のコーヒーと紅茶になるよ。コーヒーはお嬢ちゃんが飲むのかい?牛乳をたっぷり入れるかい?物価が高くなったから銅貨1枚をもらう事になるけど?」


「有難うございます!じゃあ、牛乳を入れますね。リョージ伯爵がやって来て税金が安くなったら牛乳も無料になりますよね?」


 カレナリエンの言葉に店主の女性は「ははっ。そうなると私も嬉しいね」と言いながら牛乳を手渡して、銅貨1枚を受け取るのだった。


 ◇□◇□◇□


「ちなみに、この格好をいつまでしないと駄目なんですか?カレ姉様。メル姉様」


「「ずっとです!」」


「『ずっとです』って!もう明日からは、絶対にしないからな!」


「「大丈夫ですって!リョージ様は可愛くて絶対に似合ってますから!って、事で、この後に靴屋さんに行きましょうね」」


「2人とも綺麗にハモり過ぎ!」

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