第224話 打ち合わせの時間 -今後の事を話し合いますね-

「セシリオには食料の買い付けと、旧レーム伯爵領で特産となる産業を見付けて欲しいんだ。資金については、当面は俺の持ち出しで対応するから気にせずに食料の調達を頼む」


「おぉ、それは任せとけ。取り急ぎ食糧の買い付けだな。宿屋で提供される朝食が薄い塩味スープに堅パンに干し肉じゃダメだろ。後は、関所を自由に通れるように特別手形を発行してくれよ。慈善事業じゃないからな。特産になるような産業については色々と調べといてやる。それについてはサービスにしといてやるよ」


 亮二とセシリオは旧レーム伯爵領の今後について打ち合わせを行っていた。領都を含む南部地域と、ダンジョンを擁している北部地域とでは貧富の差が徐々に開きつつあった。元々、南部地域は農業を中心とした経済基盤で天候の影響を受けやすかった。その上、数年前からの増税によって離村する領民が増えており、食糧自給率も下降の一途をたどっていた。


「取り敢えず、領都から手を打っていこう。ちなみに俺が治める事になった伯爵領の評判って、なにか知ってる?」


「ああ、それだったら知ってるぞ。『潰れかけ貴族領』『破滅へのカウントダウン』って感じか?間違いなく領民の評価は最低で、他領からの評判も悪いぞ」


「なるほどね。マルセル王から貰った準備金が多いとは思ってたけど、それが理由なんだろうな」


 セシリオの言葉に亮二は「マジか」と頭を抱えながら盛大なため息を吐くと共に、準備金の多さの理由を理解するのだった。


 ◇□◇□◇□


「おい、そろそろツッコませてもらっていいか?」


 セシリオの言葉に亮二が首を傾げて続きを促すと、机を力強く叩いて立ち上がると大声で話し始めた。


「まず!簡単にアイテムボックスなんて渡すなよ!お前はこれの価値を分かってるのか?それに、これってカレさんが持っていた時間が止まるアイテムボックスだろ!」


「ああ、使い勝手は良いと思うぞ?」


「だろうよ!これの使い勝手が悪いなんて言う奴を見てみたいわ!」


 セシリオの叫びながらの言葉に亮二はストレージからお化けのキノコを取り出すと床に置いた。


「ほら。これが、ウチノ家秘宝のアイテムボックスだ。大きさに関係なく、なんでも収納できるぞ?ちなみに、俺たちが乗ってきた馬車も収納されてるぞ。これに比べたらセシリオに渡したアイテムボックスなんて俺が作った奴だから大したことないんだよ。材料と時間が有れば作れるからな」


「え?ちょっと待て。なんだ、そのアイテムボックスは大きさに関係なく収納できる?そんな魔道具が有るのか?神具じゃないのか?それに、時間が止まるアイテムボックスはリョージ伯爵が作った?作っただって!えっ?大した事ない?袋の中は時間が止まるのに?今まで時間が止まるアイテムボックスを作ったなんて聞いた事もないが、リョージ伯爵の故郷では当たり前なのか?」


 混乱しているセシリオを眺めながらコーヒーを飲んでいる亮二に対して、カレナリエンとメルタは全力で亮二の身だしなみを整えていた。そんな様子を眺めながら「よし!よし!俺が常識人だ。リョージ伯爵が異常なんだ」と呟きながら自身の中で答えを出したセシリオは亮二の姿を改めて見て、天を仰ぎながらため息を吐いて話し始めた。


「やっぱり、伯爵様よ。その美少女の格好については俺がツッコまないと駄目か?3人が絡んでいるところを見るのは眼福だが、とてもじゃないがツッコミは出来ないぞ?“ドリュグルの守護神”のマルコを呼んだ方がいいか?」


「ちなみにマルコの二つ名は“王を含むサンドストレム王国全体のツッコミ担当”だぞ。セシリオも早く、マルコに追いついてくれよ。でも今は、俺も諦めの境地に入りつつあるからスルーしてくれると助かる。」


 セシリオの言葉に亮二は乾いた笑いをしながら、カレナリエンとメルタからの美少女に変装している自分に対しての過剰とも言えるスキンシップを受け入れていた。カレナリエンは嬉しそうに亮二の銀髪を色々な髪型に編みこんだり解いたりしていた。メルタは亮二の爪を切って整えた後は装飾品を付けたり外したりしていた。


 セシリオは呆れた顔で亮二の美少女ぶりと、カレナリエンとメルタの亮二に対するスキンシップ姿を眺めていた。美少女になっている亮二と、系統の違う美少女であるカレナリエンと美女のメルタの3人を眺めているのは心が踊るものは有ったが、今の実力ではツッコミは不可能だと判断したセシリオは「じゃあ、取り敢えず食品の仕入れに関しては任せておけ」と告げると逃げるように食堂から出て行くのだった。


 ◇□◇□◇□


「ところで、リョージ様。私はいつまでこの格好をすれば良いのでしょうか?」


「ああ、ビトールはその格好のままで巡回兵になってもらうぞ。ちなみに、ビトールだけじゃなくて部下も含めて全員がその格好だからな。巡回兵の名称は“マチカタドウシン”だ。北部で上手く稼働できるようなら南部にも別の“マチカタドウシン”を設置する予定だ」


 今の格好が巡回兵の正式な装備であるとの説明にビトールは仰天した顔を一瞬したが、主君の命である事を思い出し「畏まりました」と頷いた。ビトールは亮二の言葉に頷いたが、他の者は慌てたように「私の格好は冗談ですよね?」確認を始めた。特に重装備で髪がぼさぼさの格好をしている者や、顔が隠れるほどの籠をかぶってる者は必死に「別の格好にしてもらえませんでしょうか?」と訴えかけるのだった。

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