第223話 変装、仮装 -色々試してみますね-
翌朝、セシリオは亮二と約束をしている宿屋の1階にやって来ていた。約束の時間までに朝食を終わらせようと注文したセシリオは、相変わらず薄味で量も少ないスープに、堅パンと干し肉が出てきた食事の内容にゲンナリとした顔で、ため息を付きながら食べ始めた。
「こちら、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
セシリオが朝の活力を得るために堅パンをスープに浸して無理やり食べていると、向かいの席に美しい女性が相席を求めてきた。銀髪ストレートの長髪でサファイアブルーの瞳に白い肌。セシリオは思わず女性に見とれながらも、我に返って満面の笑みで「どうぞ」と答えると、軽く頭を下げた女性は笑顔で堅パンと格闘を始めたセシリオを見るのだった。
しばらくセシリオの様子を眺めていた女性は、おもむろにアイテムボックスから朝食を取り出してテーブルの上に並べると、優雅な動作で食べ始めた。
「えっ?普通、食堂に持ち込みの料理を出して食べます?」
「宜しければ食べますか?」
目の前に並べられた料理を眺めながら軽くツッコンだセシリオに、女性は無邪気な笑顔を浮かべて料理を勧めてくるのだった。
◇□◇□◇□
「それにしても美味しいですね。この料理は。それに、そのアイテムボックスは時間を止める効果もあるのですか?出された料理に湯気が出てるなんて」
「そうなんですよ。容量は少ないのですが、食べ物を運ぶ時には便利ですよ」
一緒に食事をしながら料理の事を聞くついでを装って、アイテムボックスについて質問すると、女性は無邪気にアイテムボックスの説明を始めた。
嬉しそうに説明している女性に、セシリオは心の中で苦笑を浮かべながら話を聞いていた。普通のアイテムボックスでさえ見る事は少ないのに、この女性は価値を理解していないのか、時間が止まるアイテムボックスを無邪気に見せているのである。
「ところで、今日はリョージ伯爵と会う予定ですが、貴方は誰ですか?」
「私ですか?昨日、お会いしましたけど、覚えてませんか?」
首を傾げながら答えた女性に思わず吸い込まれそうな感覚になりながら、セシリオは頭を振って冷静になると周りを見渡しながら叫んだ。
「おい!変装しろって言ったが、仮装しろとは言ってないぞ!」
セシリオは呆れた表情で大声を上げると、奥に座っていた亮二が立ち上がって、セシリオに近付きながら話しかけるのだった。
◇□◇□◇□
「やっぱりバレた?」
「分かるわ!それに食堂を借り切っただろう!まずはお前!」
セシリオは亮二ではなく、隣の席に座っている男性に指を突き付けた。
「なんで、そんな変な格好をしている!」
知っている者が見たら、「江戸時代の侍だね」と答えてくれる姿だった。精悍な顔つきで、体格も良いビトールは羽織袴を見事に着こなし、ちょん髷姿になっていた。ビトールは悟りきった目でセシリオを見つめると「主君の命ですので」と答えてきた。
「おぉ、おう。そ、そうか。それは悪かった。仕える相手は選んだ方がいいぞ。じゃあ、そこのお前!」
「私の変装を見破るとはお主只者ではないな?」
クロの返事に「只者だよ!それのどこが変装だよ!変な衣装だろ!」とツッコミを入れたセシリオは、改めてクロを眺めた。どう見ても着ぐるみである。高さ的に5才くらいの子供が全身黒猫の恰好で直立不動で立っているのである。誰がどう見ても不自然さしかなかった。
「それで良く喋れるよな?」
「リョージ様。これの欠点は思ったよりも暑い。そこさえ改良すれば完璧」
間違いなく欠点はそこじゃないと思いながら、セシリオはクロの姿については気にしない事にすると、それぞれの変装についてツッコみを入れ始めた。
「おい!そこのお前はなんで、ちょび髭に禿げづらなんだよ?え?お前も主君の命令?そ、それは悪かった。お前は?なんで顔が隠れるほどの籠をかぶってるんだよ?リョージ伯爵の故郷にいる僧侶の恰好?お前はなんで巨大な巻貝をもってるんだ?吹くと大きな音が鳴るって?知るか!重量装備で髪がぼさぼさの奴はなんだ?え?伯爵の国で戦争に負けた兵士の恰好?汗だくだけど大丈夫か?贖罪だから気にしないで下さい?」
セシリオは一人一人の変装を確認しながらイロモノ扱いの対応を終えると、普通の恰好で装飾で変装している人達に近付くと話し始めた。
「あっちはイロモノ対応なんだよな?お前たちは?なんで片側だけのメガネを付けてるんだ?それも伯爵の故郷では流行ってる?片側メガネは分かるが、それは付け髭だよな?女の子が付けるには無理がないか?自分以外は外す事が出来ない逸品です?お、おぉ。そうか。よかったな。そっちの眼鏡は少し遠い場所や暗い場所でも少しだけ景色が見れる?それは凄いな!全部ミスリルで出来ていて金貨100枚以上する?高いわ!そっちの眼鏡が真っ黒に口元を布で覆って帽子をかぶってロングコートを室内で着ているのは?辛いです?そ、そうだよね。おじさんも、それには同意するよ。脱いでも良いんじゃないかな?」
セシリオは自分の質問に返って来る答えに律儀に感想を述べながら、亮二の場所までやってくると盛大なため息をついた。
「おい、伯爵様よ。なんで、お前だけ普通の変装なんだよ?」
「可愛いだろ?」
銀髪ロングのかつらに碧眼で、ゆったりとしたドレス姿の美少女になっている亮二が、やけっぱちな笑顔でセシリオに話し掛けるのだった。
◇□◇□◇□
「なんで女装なんだよ?」
「色々と試してたんだが、カレナリエンとメルタの意見が一致して、これになったんだよ。ねえ、カレ姉様。メル姉様」
亮二が諦めたような口調で2人を呼び寄せると、セシリオが最初に話をした女性と付け髭をした女性が嬉しそうに亮二に近付いてきた。
「そうなんですよ。セシリオさん。どうですか?私とリョージ様の変装は?」
「素晴らしいと思いますよ。俺としてはカレナリエンさんの方が、つけ髭を付けると思ってました」
カレナリエンの言葉にセシリオが苦笑しながら答えると、つけ髭を付けたメルタが話しかけてきた。
「セシリオさんも、つけ髭の良さに気が付いんたんですね!」
「いや、気付いていませんよ。勝手に同志にしないでくれますか?メルさんでしたっけ?貴方につけ髭は無理があるので止めた方が…いえ、なんでもありません。よく似合うと思います。思う存分、つけ髭を満喫して下さい」
メルタの氷を表現したような眼で射すくめられたセシリオは、慌ててフォローすると満面の笑みが返ってくるのだった。
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