第118話 貴族達のその後 -意地悪をしては駄目ですね-
ホルガー=リュッタースの場合
「何故だ!盤面の森の一部は先祖代々受け継いできた領地だ。それを突然譲り渡せと言うのか!それも自主的に!」
ハーロルト公爵と盤面の森を挟んで隣接しているホルガー=リュッタース伯爵は謁見の翌日に王国からの使者による訪問を受け、使者からの第一声に声を荒げてしまった。
「決定に不服があると?」
「い、いや。あまりの沙汰に驚いただけだ。手紙の詳細内容を確認させてもらえるだろうか」
ホルガーは慌てて前言を撤回すると使者から手紙を受け取り、公式の封蝋がされているのを確認して開封すると内容の確認を行った。
王家への手紙を所持していたユーハン伯爵の家臣であるリョージ騎士を門前払いどころか盤面の森に追いやり、抹殺しようとした事は明白であり悪質である。本来ならば叛逆罪を適応するところであるが手紙が無事に届いた事に加え、リョージ騎士自身からも『寛大なる処置を』と嘆願が有った事もあり、ホルガー伯爵が自主的に盤面の森を王家に譲渡する事で本件に関しては不問とする
- 何故だ。何故にリョージを盤面の森に追いやった事が露見している?解雇した文官からの情報なら単独行動なので知らぬ存ぜぬで通すのだが -
ホルガーが考え込んでいると使者から、もう1通の手紙を渡された。
「ハーロルト公爵から?ホルガー伯爵が貴族派で肩身が狭くなっていると思い手紙を書いた。リョージに関する決定はマルセル王直々の命であり、儂も盤面の森を手放すようにと命を受けておる。ただ、儂はリョージと仲が良いので顧問として森の管理を手伝う事となった。もしお主も興味が有るなら使者に返事を返してくれ。日を改めて顧問の件などに付いて話し合おう。良き返事を期待しておるか。なるほどな、マルセル王の勅命ならば断れないではないか」
ホルガーはため息を吐きながら晩餐会後のサロンでの自分の扱いに付いて思い出していた。貴族派の者たちは内情を知らずに盤面の森を活用出来ないと嘲笑の種に使っておりホルガーからすれば「腹ただしい」思いしか無かった。
「盤面の森の顧問か」
ホルガーが受け継いだ盤面の森は見た目は普通の森だが、1本でも伐採したり、森の広場に定期的に入らずにいたりすると魔物が溢れてくる為に常時兵を配置している必要が有り管理費が嵩んでいる上、なぜかハーロルト公領側では問題なく伐採が出来るなど違いや理由については何も分かっていなかった。
「管理費がかかるだけの盤面の森ならリョージに渡せば良い。顧問になれば金だけでなく、ハーロルト公と縁が出来るではないか。なぜ嘲笑される貴族派に所属する必要が有るのか?」
ホルガーは使者に対して王国からの命令の受諾とハーロルトへの返事を使者に伝えるのだった。
◇□◇□◇□
ライナー=ヴォッシュの場合
使者からの言葉にライナーの義母である男爵夫人は恭しく跪くと金貨の入った袋を受け取った。
「ライナー=ヴォッシュには御前での決闘についての褒美として金貨10枚を与える」
「本来ならライナー自身が受け取るはずですが、体調が思わしくない為に代理で受け取ります事をご容赦下さい」
ライナーの父親は先妻を5年前に病気で亡くしており、後妻である妻との間に次男が生まれたが最近亡くなった。家臣団からは『嫡男であるライナー様が跡を継ぐべき』との圧力があり後妻の彼女は当然であると、逆らう事なく受け入れていた。だがライナーからすると後妻と弟は「自分の母親より身分が低く赤の他人とその息子」であり、今まで面倒を見ただけでも頭を下げて感謝してさっさと出て行けとの事だった。
「せめて当面の生活が出来るようには」
夫人の願いも一顧だにせずに追い出されようとしていた矢先に、今回の騒動が巻き起こった。話については王国から詳細な連絡が来ており、王の前で許可なく抜剣したが王の慈悲により決闘として処理された事、相手はドリュグルの英雄で騎士だった為にライナーに絡まれた事、先に抜剣しておきながら1合も剣を交える事なく破れた事、ヴォッシュ家家宝のファイヤー・ウィップを使ったにもかかわらず手も足も出なかった事。そして当のライナーは決闘の後は抜け殻のようになっている事。
「ライナー殿は体調が悪いとの事ですので、
ヴォッシュ家は武の一門として名声を得ていたが、ライナーの行為によって一気に地に落ち、ライナーの弟がヴォッシュ家を相続して名声を復活させるのは20年以上たってからであった。
◇□◇□◇□
マクシモヴィチ=ガミドフの場合
「準備は調ったか?」
「はい、間違いなく。あと1時間程で出発の予定です」
マクシモヴィチは御者から準備の完了連絡を聞くと「ご苦労」と声を掛けて下がらせた。謁見翌日にマクシモヴィチは精力的に動き、その日の内に弟を修道院に入れる手続きを済ませ出発まで漕ぎつけていた。晩餐会と謁見の二日でリョージ・ウチノの名前は貴族界に知れ渡っており、しかも亮二に対してちょっかいを出した貴族が盤面の森の没収、嫡男の当主就任の凍結及び次男を就任させるなど、対応がもう少し過激なら改易となっていてもおかしくない状態との事だった。一歩間違えればガミドフ家も同じ状態になりえる為に、マクシモヴィチは急いで対応を行う必要があったのである。
「それにしても最後の最後まで迷惑を掛けた弟だったな」
苦々しく呟くと今までの悪行を思い出していた。貴族は選ばれた人種であるとの偏った思考で、一般市民に対する態度や下級貴族に対する嘲笑など数え上げればキリがない状態であった。弟に対して甘かった父親である男爵も、今回は庇い立てすれば「取り潰し」になりかねないとのマクシモヴィチの言葉を聞いて、2度と出てこれない修道院に送る事を了承したのである。
「では出発いたします」
配下の騎士の言葉に「よろしく頼む」と答えると、見送りする事なく執務に戻るのだった。マクシモヴィチが行った最初の仕事は弟を修道院に送り込む事であり、次の仕事は亮二に改めて正式に謝罪する為に自宅に招くための招待状を書く事であった。
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