第117話 宿舎での一コマ -王様からの褒美が凄いですね-

 王城から宿舎に帰ってきた亮二は扉を開けると、心配そうな顔で待っていた面子が揃っていた。


「ただいま。どうしたのそんな心配そうな顔で?」


「当たり前だろ。どう考えても王からの事情聴取だろう。こいつは混乱していて気付いてなかったけどな」


 亮二のキョトンとした顔での問い掛けに代表してマルコが答えると、残りの者も亮二の無事に安心したかのように深い溜息や笑顔、本当に何もなかったのか心配そうな顔や「お茶を入れますね」と台所に下がる者など様々な反応を返してきた。特に「混乱していた」扱いをされたユーハンは亮二に対して申し訳無さそうに謝罪をしながら頭を下げてきた。


「リョージよ、本当に済まなかった。王から聞いてもない『牛人の魔石を収める約束』との話を突然持ち上げられて混乱してしまい、挙句に戦闘行為まで始まって流されるままになった。そしてお前が連れて行かれる時には逆にホッとしていたんだよ。本当に申し訳ない!」


「そうよ、何のためにリョージ様に付いていたのよ?貴方がしっかりしないと駄目じゃない!」


「いやいや、カレナリエン。それは流石に逆だから。俺がユーハン伯を守るための護衛だからね」


 カレナリエンがユーハンを責め出したので流石に止めると亮二は皆が安心するように連れ去られてから今までの経緯を話し始めるのだった。


 ◇□◇□◇□


「って、感じだったんだよ」


 亮二の説明を最後まで聞いた一同は全員が全く違う表情をしていた。登場人物の名前に仰天した者、行われたやり取りに対して唖然とした者、”流水の剣”をさっくりと譲り渡した事について愕然とした者、イオルス神が持っていた神具を全部持っている事を初めて知って呆然としている者は亮二との付き合いが短い者が中心で、亮二との付き合いが長い者は登場人物を聞いても「そんなもんでしょ」と遠い目をする者、”流水の剣”を譲り渡した事に対して「”ミスリルの剣”を持ってますもんね」と納得する者、全体を聞いた上で「もうお前に関して驚くのは止めたわ」と達観する者とに分かれていた。


「ちなみに、マルセル王から何を貰われたんですか?」


「なんだろうね?一緒に見てみる?マルセル王も『ユーハン伯爵と一緒に見るがいい』って言ってたから」


 カレナリエンの質問に亮二はストレージからマルセル王に貰った箱を取り出すと机の上に置くと開いてみた。一同が覗き込むと箱の中に入っているのは”短剣”と”勲章”と”手紙”であり今度は一同が硬直していた。


「あれ?どうしたのみんな?」


「おい、マルセル王がこれを渡したんだよな?本当に“これ”についての説明なしに渡されたのか?」


 マルコから再度確認が有ったが亮二としては本当に貰っただけなので「貰っただけだよ」としか言いようがなかった。そこで、一同は箱の中に入っていた手紙を取ると代表してユーハンが読み上げ始めた。


「”俺!俺!マルセル!王様やっているんだよ!”またか、おいマルコ…「だから俺がツッコミの担当みたいに言うんじゃねえよ!王の手紙に対してツッコミが出来るか!」」


 手紙を見た瞬間に心底疲れた表情で冒頭を読み上げマルコに振ろうとしたが、先にマルコからツッコミが入った。ユーハンは疲れた表情のままで手紙を見ると「後は普通の文体だ」と安堵して読み進めた。


「よし、読み上げるぞ。”この箱に入っている”勲章”及び”短剣”はリョージ・ウチノに与えるものとする。領地については”盤面の森”全域とし、寄り親はユーハン伯爵とする”だそうだ」


「おぉ、最初から領地持ちの貴族様かよ。でも、”盤面の森”ってハーロルト公とお前の事を”盤面の森”に追いやった貴族の領地だよな?」


「それについては補足が書いてあるな。””盤面の森”に関しては王家直轄地とした後、管理者にリョージを任じる事とする”だそうだ」


「領地については誰かその内に教えてくれよ。ねえ、それよりも今ここにある”短剣”と”勲章”に付いて教えてくれないかな?」


「えっとですね。まずは”短剣”については貴族の証ですね。基本的に騎士は貴族が任命します。もちろん、俸給を用意する必要がありますので大貴族ほど多くの騎士を持つ事が出きます。ですが、貴族に関しては王家からの叙任がないとなる事ができません。リョージ様の国では違うんですか?」


「俺の国では…ってよく知らないや。元々、親から貰った爵位だしね。『今日からお前、子爵な』くらいの感じだったから。それに短剣なんて無かったな」


「け、結構軽いんですね。リョージ様の国の貴族制度って。ちなみに”短剣”の意味は”魔力が尽きて剣が折れても短剣が有る限りは命尽きるまで戦い続ける”との意味です。確かその”短剣”には折れにくくなる魔法が掛けられているそうですよ」


「えっ?折れにくくなる魔法?それって試しに折ってみるってのは…「絶対に止めろよ!折るなよ!」。それって折れって…「違うからな!折るのは重罪を犯した貴族の爵位を取り上げる時だけだからな!」」


 カレナリエンの説明の中に”折れにくくなる魔法”の単語に反応して - それって折れって事だよな -と思いながら口に出してみたところ、マルコから本気でツッコミではなく制止が入った。余りに真剣な顔で制止してくるので「冗談だって」と言ったが、マルコからは「絶対にお前は本気だった」と胡散臭げな顔で言われてしまった。


「この勲章の意味は何なの?」


 マルコの指摘は間違っていなかったので誤魔化すかのように咳払いするとカレナリエンに勲章について質問を行った亮二に対して文官が代わりに答えてくれた。


「それについては私がお答え致します。リョージ様に渡された勲章は”名誉子爵”の勲章になります。王家に対して著しい貢献をした騎士に対して渡される爵位で恩給として年間金貨15枚が支給されます」


「金貨15枚ってどうなの?多いのか少ないのかもよく分からないや」


「一般庶民が1ヶ月に稼ぐ金額はだいたい銀貨10枚くらいですね。銀貨10枚で金貨1枚になりますので、簡単に言えば一般庶民が1年間に稼ぐ金額を何もしなくても貰える事になります」


「え?じゃあ、働かなくても良いって…「「駄目でしょ、リョージ様。ちゃんと働いて頂かなくては。私達をしっかりと養って下さいね」」」


 亮二が嬉しそうに”働かない宣言”をしようとするのをカレナリエンとメルタが満面の笑みで阻止するのだった。

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