第116話 謁見後のお見合い -皆さんに会いますね-
「えっと、エレナ姫の待っている場所にしては変わった場所ですね」
待ち合わせの場所を見て思わず亮二は案内人に話しかけたが反応はなく「こちらでお待ちください」と言われて戸惑った表情でエレナ姫が来るのを待った。謁見が終わった後に貴族達から様々な視線を浴びながら連れて来られたのは地下闘技場であった。
「そんな気がしてたんだよな。別の日に会う約束しているのにおかしいと思ったんだよ」
10分ほど待たされて現れた5名を見た亮二が、ため息を吐きながら呟いた言葉に集まって来た5名から苦笑が起こった。
「そう言うな、リョージよ。せっかく時間の都合を付けてここに集まったんじゃから」
「国の最高権力者ってそんなに暇なんですか?」
「それだけ皆がお前に興味が有るって事じゃ。剣技に魔力に錬金術に知識に実績、お主に関わる情報を集めれば集めるほど『そんな奴がいるか!』と言いたくなるから直に会って確認したくなるんじゃよ」
亮二の呆れた問い掛けに笑いながら答えたハーロルトは集まった5人を順番に紹介を始めた。
「取り敢えず順番に紹介していこうかの。マルセル王に宮廷魔術師の”ヘルマン=ラーメ”、騎士団長の”テオバルト=ローベ”、枢機卿”ラルフ=ブルムクヴィスト”で儂が”ハーロルト=コルトレツィス”になるの」
「凄い人達を集め過ぎでしょ。どうするつもりですか?俺をこんな所に呼び出して?」
「どうされると思っておるんじゃ?」
ハーロルトの意地の悪い顔に亮二は同じ様に悪い顔で満面の笑みで答えた。
「以前、マルコに同じ質問をされたことが有りますが、答えはいつも一緒です。”もし、何かされそうなら別の国に行って好きにする”だけです」
「出来ると?」
「むしろ、出来ないと思われている方が良いですけどね」
肩をすくめながら答えた亮二にマルセル王が笑いながら「そこまでじゃ」とハーロルトと亮二の会話を終了させた。
「すまんの。お主に対しては今後お願いする事は出てくるが、何かを無理矢理させるつもりはない。それに関しては王として約束させてもらおう」
「いいんですか?そんな事を一介の騎士と約束して?」
「そうせんとお前さんを逃しそうでの。ここで約束しておいた方が安いもんじゃ」
そう告げられた亮二は
◇□◇□◇□
「そう言えば、謁見の時に仰っていた”盤面の森”の話ですが」
「おぉ、そうじゃ。”盤面の森”の攻略者がお主の名前に変わっておったのじゃ。何をしたら変わるかは教えてもらっていいかの?」
亮二から”盤面の森”の話を持ち出されたマルセル王が逆に問いかけてきたのを受けて亮二はどこまで答えようかと悩んでいると宮廷魔術師の”ヘルマン=ラーメ”から説明が入った。
「それについては私から補足させていただきましょう。王家に伝わる魔道具の1つに”記録板”が有るのですが、そこには王国内に有るダンジョン名や”盤面の森”の様な名称が書かれており、横には攻略者の名前と攻略時間が書かれています。先日、突然音楽と共に光りだしまして、光が消えると”盤面の森”の攻略者の名前が”リョージ・ウチノ”となった訳です。ユーハン伯爵に問い合わせを行ったのですが『そのような情報はリョージからは入っていません』としか返ってきませんでしたので」
「ま、ユーハン伯爵からすれば手持ちの札を簡単に教えられないわな。しかも最高の札じゃしな」
「最高の札と言ってもらって嬉しいですが、そんなに大した札じゃないですよ?」
ヘルマンの説明にハーロルトが軽く補足した内容に「よし、この流れで誤魔化そう」と決めた亮二が答えると騎士団長の「テオバルト=ローベ」が豪快に笑いながら話しかけてきた。
「はっはっは。面白い事を言うなリョージよ。牛人を3体同時に相手をして怪我一つせずに討伐したと聞いたぞ。そんな奴が『大した札じゃない』なんて笑いしか出てこないぞ。って事で戦ってみようか?」
「やですよ。今日はもう戦いましたもん。今日はゆっくりするって決めてるんです」
「そう言うなよ。俺に勝ったら俺の使っている”シルバーの大剣”をやるぞ」
テオバルトの提案に亮二はストレージから”ミスリルの剣””コージモの剣””流水の剣”を取り出してテオバルトに見えるようにすると「これらが有るんでいいです」と答えた。
亮二が取り出した3本の剣を見た5名は驚愕の表情で亮二と剣達を見比べた。固まった5名を亮二が眺めていると、今まで沈黙を保っていた枢機卿”ラルフ=ブルムクヴィスト”が震える声で亮二に話しけてきた。
「リョ、リョージ殿、こちらの剣はもしかして”ミスリルの剣”では?」
「そうですよ?それがどうかされましたか?結構、使い勝手が良いんですよ。属性付与の三重掛けにも耐えられますしね」
亮二は嬉しそうにラルフに話しかけていたが、固まった表情で亮二を見つめているラルフに、目を見開いているヘルマン、物欲しそうな顔をしているテオバルトに面白そうな顔をしているハーロルト。その後ろで真剣な顔をしているマルセル王がいた。亮二が首を傾げるとまずはテオバルトが亮二に交渉を掛けてきた。
「リョージ!その剣を全部売ってくれ!金貨1000枚でどうだ!」
「いや、無いです。どこに普段使っている剣を売る剣士がいるんですか。最近手に入れた”流水の剣”でしたら交渉に応じますよ」
「よし!じゃあ後で使いの者をやるからな!絶対に忘れるなよ!」
「使ってませんから先に渡しときますけど”流水の剣”ってそんなに良いですか?切れ味は鉄剣と同じくら…「お前は何も分かっていない!その”流水の剣”は【水】属性が自動で付与されるんだぞ!」」
「俺は、ほぼ無意識に属性付与出来ますし、それに好きな属性は【雷】だから別に」
亮二の余りの答えにテオバルトは愕然として目に見えて肩を落とすと「他の戦闘系の奴らに刺されるなよ」と言った後は気を取り直して”流水の剣”を受け取った。ほくほく顔で”流水の剣”を眺めているテオバルトを尻目に今度はラルフが凄い勢いで亮二に詰めかけた。
「リョージ殿!それは”ミスリルの剣”ですよね!もしかして腕輪もですか?」
「これですか?”ミスリルの腕輪”ですよ」
「やはり!なぜリョージ殿がイオルス神が使われていた神具をお持ちなのですか!まさか”見えない盾”とかお持ちじゃないですよね?」
「あるよ」
亮二は”不可視の盾型ガントレット”をラルフに見えるようにすると、恍惚とした表情で触りながら「これがイオルス神の身を守っている神具」と呟いた。いつまで経っても離れないラルフに亮二が本気で引いていると、流石にテオバルトが力尽くで剥がしてくれた。
「あぁ、あとちょっと!もうちょっとだけ!」
「止めとけ、本気でリョージが嫌がっているぞ。別の国に行かれてしまう」
テオバルトが語りかけた内容にラルフの目が正気に戻ると「失礼しました」と頭を下げたが視線は亮二の装備に釘付けになっていた。亮二はラルフの視線から逃れる様に後退りながらヘルマンに話しかけた。
「ヘルマン様も何か有りますか?」
「いや、今日のところは止めときましょう。あ奴らと一緒にされるのは嫌なので」
「「おい!どう言う意味だ!」」
ラルフとテオバルトが同じタイミングでヘルマンに噛み付いたが、ヘルマンは涼しい顔で流すと「また、後日に」と述べるとマルセル王とハーロルトに向かって頭を下げた。
「ああ、では本日はこれくらいにしておこうか。リョージよ、騙して済まなかった。エレナ姫はお主の”すいーつ”に惚れ込んでおる。入学すると忙しいかもしれんが、時間を作ってやってくれ」
「もちろんです。王城でしか手に入らない材料も有るかもしれませんので」
ハーロルトの謝罪に頷きながらエレナにスイーツを作る事を約束すると、横からマルセル王が懐から箱を取り出して渡してきた。
「リョージよ、今日の決闘に対する褒美じゃ。ユーハン伯爵と一緒に開けてみるがいい。今日は大儀であった」
マルセル王はそう告げると5人を連れて地下闘技場から出ていき、残った亮二も案内人に連れられて宿舎に戻るのだった。
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