第110話 王都に到着5 -いい関係を築けそうですね-
「「どこに行ってたんだ!来るのが遅すぎるぞ!」」
亮二達一行が城門をくぐり抜け貴族街の馬車置き場に到着したのはハーロルト公と分かれてから4時間程経過していた。亮二達が馬車から降りた瞬間に左右両側から同じ台詞が耳に入ってきた。右側を向くと2週間ぶりに再開したマルコとユーハンであり、左側を向くとさっきまで一緒に居たハーロルトであった。亮二は全ての人間が自分の近くに集まったのを確認して事情の説明を始めた。
「ハーロルト公と分かれてから、門をくぐらせてもらえなかったので一般人側に並んで待ってたんですよ。その間にも楽しい事が有ったので暇にはしませんでしたけどね」
事情を聞いたハーロルトは首を傾げながら亮二に対して語りかけ始めた。
「付いて来んかったお前を迎えに行かせたはずじゃが?儂の伝言は伝わってなかったのか?」
「それは、ハーロルト公が伝言を頼んだ門番が勘違いしたのが原因だと思いますよ?捕縛されそうになりましたからね」
「捕縛?何故リョージ殿を捕縛する必要がある?儂は「早急にリョージ殿をここに連れて来い」と言っただけじゃが。門番の名前は聞いておるか?」
ハーロルトの問い掛けに後ろに控えていた秘書らしき女性が「確かガミドフ家の次男だったかと」と報告していた。
「ふむ、なるほど。そ奴は儂の伝言を歪曲してリョージを捕えて連れて来ようとしたのか?罪人のように?」
「報告によれば兵士を3名無断で連れて行ったとの事です」
「門番の権限にそのようなものは無かったがの。ガミドフ家の権力を乱用したか」
ハーロルトは秘書からの報告を聞くと険呑な目をして「潰すか」と呟いた。慌てたのは亮二の方である。門番がどうなろうと別に構わなかったが、兄のマクシモヴィチはひと通りの筋を通して帰っていった。なぜ自分がガミドフ家の取り潰しを防ぐ為に、こんなに必死になっているのか分からないままマクシモヴィチが場を収めた事を説明した。
「ちっ、命拾いしおったな」
「いや、ハーロルト公。今のおかしい発言だからね。ハーロルト公がその発言をしたら皆が震えるから!見てよ、そこの秘書さんも怯えてるじゃん!」
「いえ、リョージ様。ハーロルト公の仰ることは間違っていないのです。貴族は領民を守る為に存在しています。それを忘れて権力を笠に着るとは言語道断です。ただ、ハーロルト公が『潰すか』と仰りましたので、リョージ様が先ほどマクシモヴィチ様の事を説明されてなければ、明日にでもガミドフ家が無くなった話を聞かれていたと思いますよ」
秘書からさらりと大貴族の力の凄さを説明された亮二は流石に若干引きながら、ユーハンとマルコをハーロルトに紹介した。
「ハーロルト公、こっちにいるのがドリュグルの街を中心に治めているユーハン伯爵で、こっちが例のマルコだよ」
「なるほど、確かに良い面構えをしておるな。儂がハーロルトだ。ユーハン伯よ、良い家臣を持ったな」
「初めましてハーロルト公。
「はっはっは。安心し給えユーハン伯。少なくとも儂はリョージ殿をお主から取ったりはせんよ」
ハーロルトの挨拶に対して警戒気味に挨拶を返したユーハンの用心深さに笑いながら安心させるように言質を与えると、マルコの方を見てニヤリと笑った。
「お主がマルコか。リョージが送った手紙に儂の一筆も入れといたんだが、どんなツッコミをしてくれたんじゃ?リョージからセーフィリア随一の才能の持ち主と聞いておる」
「いやいや!間違ってますからね!その認識は。大体、貴方に対する俺達の認識を崩して何を期待されてるんですか?それにリョージ!お前ふざけるなよ!無茶振りばっかりしやがって!間違っても俺はツッコミ担当じゃないからな!ハーロルト公もリョージから何を聞かされたかは知りませんが、セーフィリア随一の才能ってなんの事ですか!」
「え?ツッコミじゃろ?」
「ちょっとだけ失礼しますね。リョージみたいなボケかましてんじゃねえ!ツッコミ担当じゃねえって言ってるだろ!」
ハーロルトの面前で緊張していたマルコに対して公衆の面前で”ツッコミ担当”と言われたマルコは声を荒らげて抗議したが、ハーロルトからリョージと同じボケが返ってきたために思いっきり突っ込んだ。最初に謝罪を入れているのは大貴族に対するマルコの少なからずの礼儀である。
「はっはっは。リョージの言ったとおりだな。マルコよ、お前の事も気に入った。ユーハン伯よ、リョージとマルコにカレナリエンやアウレリオなどの、素晴らしい家臣団を持っておるお主とならいい関係が築けると考えておる。手紙はリョージと一緒に悪乗りして「よろしくね」と書いてしまったが、少なくとも儂の本心でもある。ちなみに儂は教皇派の筆頭だが貴族派の事についてはどう思う?」
「貴族の誇りを忘れた拝金主義ですね」
「金満主義が気に食わねえ」
「興味ないし、邪魔するなら潰す」
ハーロルトからの問い掛けに三者三様で返ってきた答えにハーロルトは満足気に頷くと「ようこそ、教皇派へ」と右手を差し出すのだった。
◇□◇□◇□
「ちなみに楽しい事ってなにがあったんじゃ?」
「傲慢な門番の心を折った!それと水飴を見付けた!」
「水飴とは何じゃ?旨いのか?」
「それ自体は調味料ですけど、料理の幅が広がるから今度ご馳走しますね」
「門番の心を折った話はどうなんだよ?」
「どうでもいい!マルコも体験したいなら見せてあげるよ」
「いらねえよ!なんで何もしてないのに心を折られないとダメなんだよ!」
「見せたかったなマルコにも”ライトニングニードル512連”を」
「ツッコまねえからな!」
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