第111話 晩餐会が始まる前の一コマ -バタバタしちゃいましたね-

「晩餐会?」


 頭に疑問符が浮かんだ顔の亮二にメルタが頷きながら答えた。


「そうです。今日は晩餐会で明日が王への謁見日なんですよ。マルコから聞いてませんでしたか?」


「マルコから何も聞いてないよ?入学式の日すら分かってないのに、肝心な事を教えないんだからマルコもまだ修行が足りないよな」


 呆れ気味に亮二がマルコに対してダメ出しをしていると、何かに気付いたらしく亮二がメルタの両腕を持って必死な形相で語りかけてきた。


「晩餐会まで後どのくらいの時間があるの?!」


「た、確か受付が始まるまで後3時間ほどですかね?」


 メルタから晩餐会の情報を聞いた亮二の声は周りの者が何事が起こったのかと感じるくらいの剣幕を含んでいた。


「よし!そのくらいあればどうにかなるか。行くよ、メルタ!」


「ちょ、ちょっとリョージ様?どこに行かれるのですが?引っ張らなくても付いて行きますから!」


「リョージ様!1時間前には必ず戻ってきて下さいね」


 カレナリエンの言葉に頷きながらメルタを連れて亮二は充てがわれている宿舎を飛び出して行くのだった。


 ◇□◇□◇□


「いらっしゃいませ。本日はどのようなお召し物をご希望ですか?」


「急で申し訳ないんだが、この子に合う衣装を何点か見せて欲しい。気に入ったものがあれば即金で購入させてもらう」


 メルタが連れて行かれたのは王都でも有名な貴族御用達のドレス専門店であり、王都に来た事が無いはずの亮二が何故この場所を知っているかとの質問に「ハーロルト公の秘書さんに聞いた」との答えが返ってきた。


「こちらなど如何でしょうか?」


「礼節 7」のスキルをフル活用している亮二の仕草で、亮二達が上客である事に気付いた店員が素早くメルタのサイズを調べると、店の奥からドレスを1着持ってきた。店員が持ってきたドレスはイブニングドレスに相応しく、夜の服装として優雅さが兼ね備えられていた。基本的な色調は”薄い藍色”で光沢のある上質の布がふんだんに使われており、襟や背を大きく開ており袖なしで長い着丈になっていた。


「良いんじゃないかな?メルタの意見はどう?」


「私は、こんなに凄い物でなくても大丈夫ですよ。留守番をするつもりでしたので」


 普段見た事のないドレスを持ち出されてメルタは一瞬目を輝かせたが、晩餐会に自分は出ない事を亮二に伝えて辞退しようとした。亮二は店員に向かって晩餐会についての質問を行った。


「今日の晩餐会に出席するんだけど、騎士は婚約者を連れて行けないの?」


「滅相もございません。晩餐会に招待されておられるのでしたら、王都に居る以上は出席する義務があります。”トラウゴット=ヘッシャー”伯爵は奥様6名と参加されますよ」


「6名って凄いな。じゃあ、俺がカレナリエンとメルタを連れて行っても大丈夫じゃん。取り敢えず試着してきてよ、ご主人様命令って事で」


 店員に確認した内容に満足気に頷くと、何か反論しようとしたメルタに亮二はドレスを手渡して奥にある試着室に追いやるとドレスの料金の確認を行った。


「ちなみに、あのドレスの料金を教えてくれる?」


「金貨3枚程になります」


「金貨3枚!?安いね。じゃあドレスにリボン、レース、宝石をさり気に少しだけ豪華さを出すようにして欲しいな。金貨2枚分を追加してもらっていいかな?」


 金額を聞かれた際に値引きの交渉だと思っていた店員は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になって「畏まりました」と応えるとドレスに合った装飾品を探し始めるのだった。


 ◇□◇□◇□


 晩餐会の受付時間になると貴族たちが続々と貴族派、教皇派の派閥などに分かれて広間に集まり始め会話を行いだした。亮二達はユーハンと一緒に受付を済ませ広場に来ると貴族達からの一斉に注目を浴びた。


「なんか注目浴びてない?」


 亮二が周りを見渡しなが呟くと、ユーハンが当たり前のように答えた。


「当然だろう。ちなみに教皇派と縁を結んだ私の注目度よりも”ドリュグルの英雄”であるリョージの注目度の方が間違いなく高いけどな。牛人を三体同時に相手をした戦闘能力を少しでも見極めたいんだろうよ」


「ま、当然であろうな。だが、リョージ殿だけでなくユーハン伯も注目の的であるのを忘れてはいかんぞ」


 ユーハンの亮二を誂うような言い方に背後からハーロルトがやって来た。ハーロルトが亮二達に近付いて会話の輪に入った事に貴族達からどよめきが起こった。噂では聞いていたが、辺境伯のユーハンは新興の貴族であり中立派と言われていたからである。


「ほっほっほ。皆戸惑っているような、結構結構。これでなくては派閥争いは面白くない」


「これが派閥争いになってるんですか?ユーハン伯が参加されただけなのに?」


「そうじゃよ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんの旦那の上司は、新興の貴族ながらも動向には元々注目されておったし、リョージ殿が家臣になってからは注目を独り占めされておったがの。あの貴族派の奴らの悔しそうな顔を見てみろ、これで2大派閥のバランスが少し崩れるって顔をしておるじゃろ。ん?1人だけ殊更青い顔をしている奴がおるな?心当たりはあるか?」


 カレナリエンの独り言にハーロルトは貴族派が集まっている場所を嬉しそうに見ながら、1人だけ顔色が違う貴族を見付けると亮二達に語りかけた。亮二達はこちらを見て青い顔をしている貴族に目をやると、露骨に顔を背けられた。


「誰じゃ、あの貴族は?」


「あの方はユーハン伯の隣の領地をお持ちの貴族ですね」


「なるほどね。”盤面の森”に強制的に入らせてくれた貴族様ですね。お礼でも言っといたほうがいいのかな?」


 亮二の呟きに全員が「「「止めときなさい」」」と苦笑しながら止めるのだった。


◇□◇□◇□


「リョージ様、結局このドレスのお値段を聞いてないんですが?」


「大丈夫!そんなに高くないよ!本当なら素材から用意して作りたかったんだけどね。あのドレス専門店と意匠から起こす契約をしたから楽しみにしといてね!」


「ちなみに素材は何を使われるのですか?」


「もちろん!ミスリルを”これでもか!”ってくらいに使うよ。魔石を使ってみるのも面白かもね」


「どれだけ高いドレスが出来上がるんでしょうね…」

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