第55話 ランクアップ祝い準備 -イベントは好きですね-

「って、事で今日の夕方からよろしく頼む」


「おい!『って事で今日の夕方からよろしく頼む』ってなんだよ。お前、今の話で言えば全体の9割位の所から始めただろ?頼むから最初から話しくれないか?」


 亮二が宿屋の店主に会った時の第一声がそれだった。もちろん店主が理解出来る訳もなく、最初からの説明を求めるのは当然であった。亮二はランクアップした事と、それに対するお祝いを食堂でする事を店主に説明した。


「なるほど、リョージが【D】ランクになったから祝いをここでするって事だな。そう言えば、お前さんがドリュグルの街に来た時もギルドの酒場で宴会をしたんだよな?何でそっちでしなかったんだよ」


「当たり前じゃないか!せっかくこっちに来て初めてメイドに対して造詣の深い同志を得たんだぞ。売り上げに貢献するのは同志として当然の義務じゃないか!」


 宿屋の店主は目を見開くと無言で手を差し出して力強く頷くのだった。亮二も店主の手を握ると「頼んだぞ同志。俺も動ける限り動く」と一言添えるとドリュグルの街に足を向けるのだった。亮二が向かったのはドリュグルの街の食料品を取り扱う店が集まっている地区であり、まず目のついた肉屋をターゲットにすると気楽な感じで店主に話しかけた。


「やあ、今日はいい天気だね」


「ああ、いい天気だな坊主。で、なんか用か?ここは肉屋だぞ?」


「もちろん買い物だよ。ここにある肉を売って欲しいんだけど。あと、料理できる人も推薦してもらえないかな?」


 亮二の挨拶に面倒臭そうに返事をした店主に買い物であることを伝え、食材調達のついでに知り合いに料理人が居るかも尋ねるのだった。


「ああ、肉を売って欲しいのか。当たり前だが金はあるよな?それに料理人の推薦?確かにここには肉屋だから買い物に来る料理人は何人もいる。だが、何で見ず知らずのお前に推薦しないといけな…ん?お前どっかで見たこと有るな?」


 亮二の顔をまじまじと見つめていた肉屋の店主が驚きとともに「あぁ!」と手を叩いて大声で叫ぶのだった。


◇□◇□◇□


「”ドリュグルの英雄”のリョージじゃないか!お前さんが”試練の洞窟”で魔物を狩りまくってくれたお陰で肉が市場に溢れ返ってるんだよ。貴重な肉が多くて大儲けさせてもらったから感謝感謝だけどな。また、討伐依頼を受けたら今度は肉を売るのは俺んとこに来てくれよ。ギルドでの買い取りより2割増しで買ってやるぞ。で、肉の購入と料理人の推薦ってのは何かあるのか?」


 急にテンションが上がった店主の質問に亮二は【D】ランクアップ祝いをする為に食材調達に来た事と、食材調達の為の店回り第1号がここであることを告げた。亮二の話を聞いた肉屋の店主は少し考えこむと亮二に対して提案を持ちかけてきた。


「なあ、リョージのランクアップ祝いをすることだけどよ。俺にも一枚噛ませてくれないか?もちろん、肉は俺んとこで格安に用意する。他に必要なのは野菜や果物に飲み物か。その辺に関してはこっちで見繕っておくわ。料理人は暇そうにしてる奴なんてドリュグルの街には一杯いるから宿屋に連れて行ってやる。ちなみに食材に対する予算はいくら使うつもりなんだ?」


「ユーハン伯から報奨金に金貨50枚出てるから、その範囲内ならどれだけ掛かってもいい」


「おいおい。どんだけ盛大なパーティをするつもりだよ。王侯貴族か!取り敢えず金貨10枚を預けてくれるか?十分だと思うけど、足りなくなったら後から貰いに行くからよ。時間は何時から始める予定なんだ?」


「夕方から位しか考えてなかったからそのへんは任せてもいいかな?宿屋の店主には伝えとくから」


「おう!じゃあ、適当に料理人を連れて宿屋に行くからな」


 亮二はストレージの中に手を突っ込んで金貨10枚を取り出すと店主に気軽に手渡した。店主は金貨10枚あることを確認すると懐にしまいこみ、奥から店員を呼ぶと大量の肉を宿屋に届けるように指示を出して自らは違う店への食材調達と料理人確保のために店を後にするのだった。


「って、事で肉屋の店主が来るからよろしく」


 亮二は一旦、宿屋に戻ると店主に後で肉屋が食材を持ってくることと料理人を連れてくることを伝えた。


「分かった。肉屋の店主か、良い奴に声を掛けたな」


「そうなの?」


「ああ、アイツはこういった祭り事が大好きなんだよ。よく、祭り事を企画しては赤字を出して奥さんに殴られているな」


 宿屋の店主は過去に行われた祭りと赤字を出しては奥さんに殴られている肉屋の話を亮二に楽しそうに伝えた。


「ちなみに、今回の予算はどの位で考えているんだ?大事なことを聞いてなかったな」


「初期費用としては金貨10枚を肉屋の店主に渡したよ!最大で金貨50枚まで大丈夫!」


 予算額を聞いた宿屋の店主は一瞬硬直すると亮二を穴の開くほど凝視して、ため息をつきながら「お前、馬鹿だろ?」と毒を吐いた。


「ちょ、馬鹿って。同志なのに酷いじゃないか!」


「うるさい!馬鹿を馬鹿って言って何が悪い!」


「大丈夫だよ、ここの利益もちゃんと出るようにするから」


「そんな話をしているんじゃねえよ!俺の利益の話じゃなくて使う金額の話をしてるんだよ。どこの世界にランクアップ祝いで金貨を10枚も使う奴が居るんだよ」


「だからいいんじゃん!目立つし」


「なんでそこで胸を張って嬉しそうな顔をしているのかは分からんが、頼まれたからには盛大にしてやるよ」


 宿屋の店主は疲れた顔をしながらも亮二のランクアップ祝いを盛大にするための準備を始めるのだった。

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