第54話 ランクアップ認定式 -やっとランクアップできますね-
「だぁ!納得いかねぇ!もう一回やろうぜ!」
気絶から回復したクセニアの第一声は亮二との再戦を求める怒りの声だった。
「いや、さっきので決着は付きましたよね?最初に1回だけって言ったじゃないですか」
「ダメだ!1回じゃ実力が分からないから3回勝負だ。ほら、さっさと開始位置に移動しろよ」
クセニアから一方的に再戦の要求をされるワガママっぷりを発揮されていた亮二は「子供かよ」と呆れながらも相手がギルドマスターなので丁寧に返事をしていた。だが、亮二よりもカレナリエンの方が怒り心頭のようでクセニアにキレ気味に食って掛かっていた。
「ねぇギルドマスター。なんで負け犬の分際でそんなに悪あがきをしてるんです?敗者は敗者らしくみっともなくコソコソと執務室にでも逃げ帰ったらどうなんですか?誰も止めませんよ」
「ちょ、カレナリエン。何か今日はいつもにも増して厳しくない?さっきの脳筋発言の方がまだマシだったヨ?」
「当たり前です。ギルドマスターがランクアップ試験のルールを守れなくてどうするんですか!こんな沢山の冒険者達の前で範を示すべきギルドマスターが怒りに身を任せて戦いを継続させたんですよ!これを怒らなくて何を怒るんですか!」
カレナリエンから怒りのオーラが止めどとなく出ている事に気付いたクセニアはさっきの勢いが嘘のように大人しくなり「身支度を整えてリョージへのランクアップ認定式をする」と発言すると肩を落としながら更衣室に向かっていった。カレナリエンから離れて亮二の横を通った時に若干、涙目だったのはカレナリエンからの叱責が余程堪えたんだろうと亮二は他人事のように考えていた。
「それにしてもリョージさん凄いですね。あの“飛竜を砕く者”と二つ名を持つギルドマスターに勝っちゃうなんて」
「飛竜を砕く者?」
カレナリエンの賞賛を嬉しそうに聞きながらもクセニアの二つ名が気になって聞いてみた。特に初めて付いた二つ名が“キノコを極めし者”の亮二としてはクセニアの二つ名がどのような経緯で付いたのか知りたくなってカレナリエンに尋ねた。
「ええ、ギルドマスターは冒険者時代にソロで飛竜を何匹か討伐をしているんですが、さっきリョージさんが受けた初撃からの連撃攻撃を伝説級の飛竜に対してもやっています。その時は飛竜を『倒せなかった』と帰ってきてから悔しそうに言ってましたけどね」
「飛竜を砕きまくってたからの異名か。伝説級の飛竜だから初撃からの連撃を防げたって言いたいの?ひょっとして、人間であの攻撃を受け止めたのは俺が初めてとか?」
亮二が恐る恐る口にするとカレナリエンは少し考えて頷くと真剣な顔で答えた。
「そうかもしれませんね。今までは『この攻撃を受けたのは2人』って言っていたのが、亮二さんが防いだから3人になってましたもんね。でも、飛竜の話はよく聞くんで、飛竜を1人と数えているとは思うんですが、もう1人が誰だかは絶対に言ってくれないんですよね。ギルドマスターが口にしない相手でリョージさんと飛竜以外なら「王族種」かもしれませんね」
「王族種?それってエルフ種とかと同じなの?」
「そうですね。種族で分けるのなら同じかもしれませんが、強さは桁違いですね。有名な所で言えば“魔王”“竜王”“海王”とかですかね。最近、“魔王”は大人しいですが、残りは相変わらず暴れまわってますので」
「“山賊王”とか“破壊王”とかも居るんだよね?」
「よくご存知ですね。“王族種”と言うだけあって一門が居るんですが、“王族種”の王自体が暴れることは少なくて一門が暴れていることが多いですね。王の下に四天王がいて、その下に将軍がいて部隊長がいてって感じで、王を頂点としたピラミッドを形成していますよ」
亮二とカレナリエンで“王族種”の話で盛り上がっているとギルドマスターの正装でクセニアが職業適性検査場にやってきた。
「またせたな。では、さっそくリョージのランクアップ認定式を行う。とは言っても正式の認定式じゃないから適当なんだけどな。ほれっ!」
「ちょ、ちょっと雑じゃない?放り投げるなんて扱いひどいじゃん」
「そんなみみっちいことを気にするんじゃないよ”ドリュグルの英雄”さん。私に勝ったんだからもっと大らかにならないと。これからもっと大変なことになるんだからな」
出来上がった証明書を受け取った亮二は【D】ランクになっている事を確認すると集まっていた冒険者達の方を向いて大声で喜びを爆発させた。
「よし!ここに居る冒険者諸君!今日は俺が【D】ランクになった記念日だ。諸事情があって一気に【D】ランクになったが怒らないで祝って欲しい。俺のランクを皆に分け与えることは出来ないが、記念にパーティーをしようと思っている!今日の夕方に俺が宿泊している宿屋の1階の食堂まで来てくれ!もちろん飲みたい放題、食べたい放題だ!何人連れてきてくれてもいいが、食事の量には限界があるからそれだけは分かってくれよな」
亮二の話を聞いた冒険者は「だからお前のこと大好きなんだよ!」「前はたまたまこの街にいなかったからな、今回は死ぬまで飲んで食うぞ!」「一生付いて行くわ」「奢ってもらうのは奢ってもらうがカレナリエンちゃんを横取りした事は許さないからな!」などと大歓声を上げると、さっそく仲間や知り合いを呼ぶために職業適性検査場から駆け足で去っていくのだった。
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