第56話 ランクアップ祝いでの一コマ -人生色々ですね-

「あれ?結構凄いことになってる?」


 準備の邪魔になると宿屋の自室で待機するようにと言われて3時間。宿屋の店主から降りて来て構わないと言われ、会場と化した1階の食堂を見た亮二の感想だった。1階の食堂は普段ならテーブルと机が所狭しと並べられているが、今は中央に固められた状態でクロスが掛けられ机の中央には花が盛りつけられており、その回りには料理がひしめき合うように置かれていた。


「おう!リョージ。凄いだろう。でもな、ここだけじゃなくて外も見てみろ」


「いい感じになってるじゃん。さすがお祭り男だな」


 肉屋の店主から声が掛かったので亮二は嬉しそうに礼を言いながら外に出て絶句してしまった。宿屋から出て正面の通りの左右に屋台が合計で30店舗ほど並んでおり一番奥は何を売っているかも見えない状態になっていた。ぱっと目につくだけでも焼き肉、海鮮焼き、団子、果実、飲み物に何故か花や武器防具などの店も並んでいた。


「こんばんは、リョージさん」


「こんばんは、アウレリオさん。どうされたんですか?」


 ニコニコと満面の笑みで近づいてきたアウレリオに「なにか良いことが有りました?」と話しかけた亮二にアウレリオは呆れた顔をしながら答えた。


「どうされたも何も、今日はリョージさんのランクアップ祝いでしょう?肉屋の主人から話を聞いたのでカルカーノ商会の総力を持って協力をさせてもらってますよ」


「え?冒険者だけの祝いの予定だったんだけど」


 カルカーノ商会の総力を上げてと聞いて引き気味にしていると、さらにアウレリオは爆弾を投下した。


「エレナ姫やユーハン伯も来られるそうですよ」


「え?肉屋のおっちゃんの人脈どんだけだよ!」


「いや、肉屋の主人から私に連絡があり、私からカレナリエンやマルコに確認が入って、その場にいたユーハン伯が乗り気になってエレナ姫を誘った。って感じですね」


「戦犯はアウレリオさんじゃん!」


 アウレリオを責めるような目で見た亮二に対して、肩を竦めるといかにも心外ともいうような表情で亮二の背後に目線を向けて言い放った。


「やり過ぎたようですよ、マルコ、カレナリエン」


「えぇ!リョージさんは絶対に喜んでくれると思ったのに。1階の花は私のデザインなんですよ」


「リョージが派手にやるって言ったんじゃないか。冒険者だけって限定してないお前さんが悪いわな。あの言い方だったら誰でも良いって思うぞ」


 亮二が振り返ると、マルコとカレナリエンが立っておりカレナリエンは嬉しそうにマルコは悪巧みが成功した悪戯っ子の様な笑顔だった。亮二は2人の顔を見て納得したような顔をするとマルコの耳元で呟いた。


「点数稼ぎに上手く使ったんだから、足が出たらユーハン伯が出すように言っといてよ」


 マルコは「バレたか」と言わんばかりの顔をして苦笑いしながら頷くと経費負担の分担について了承するのだった。


 ◇□◇□◇□


「では、リョージ君の【D】ランクアップを祝して乾杯の前にエレナ姫からの祝辞を頂きます」


 板についた司会役をしている肉屋の主人からマイクを受け取りエレナは急遽設置された壇上に上がると、集まった冒険者を始めとする参加者に視線を向けた後に、同じく壇上にいる亮二の側に寄って祝辞を始めた。


「リョージさん。この度は【D】ランクへの昇格おめでとうございます。これからも”ドリュグルの英雄”として剣となり盾としてこの街を、我が国をお守りください。今日はリョージさん発案のランクアップ祝いですが、ユーハン伯ともちろん王家からも援助させてもらっております。皆さんもリョージさんの功績を讃えて、今後の活躍を期待しましょう。そして今日は思う存分食べて飲んで頂ければと思います」


 エレナの祝辞の後はユーハンの乾杯の挨拶があり、乾杯の合図とともに冒険者達から威勢のいい唱和がおこった。それが合図となったかのように宿屋の1階に設置されたパーティー会場は戦場の様な食料争奪戦となった。エレナの回りにはユーハンやマルコ、カレナリエンが控えており、その回りを取り囲むかのように貴族が並んでいた。亮二もその環の中にいたがエーランド=エイセルの様に亮二を目の敵にするような者はおらず、逆に何とか亮二と顔を繋ごうと我先にと話しかけていた。


「楽しんでらっしゃいますか?リョージ様」


 エレナがどこか呆然としている様子の亮二が気になった様子で話しかけてきた。


「はい、存分に楽しませてもらっています。軽いノリで始めたランクアップ祝いがこんなに大事になるとは思わなくて呆然としていました」


「”ドリュグルの英雄”を祝うんですから当たり前じゃないですか。しかも大金を自ら出されていると聞いています。これくらいの規模になるのは当然だと思いますよ?」


 エレナは目の前で戸惑った顔をしている亮二の事が私人としても気になり始めていた。ドリュグルの街の期待の新人。遥か東の国にある「ニホン」からアーティファクトで突然飛んできたニホンの子爵でもあり、あの牛人と一騎打ちをして傷ひとつ負うこと無く討伐できる剣技の持ち主。そして、今まで食べた事も聞いた事もない料理を知っている知識人でもある。彼のお陰でこれからの食事が充実したものになると心待ちにしている状態であり、誰に対しても平等に接しており懐の深さも感じられる。


「カレナリエンが目を付けていると聞いていますが、今後の活躍によっては私も狙ってもいいのかもしれませんね」


 小声で呟いたエレナだったが、カレナリエンには聞こえていたようで笑顔でエレナに近付くと腕を取って少し人混みのない場所に連れて行った。


「ちょっとエレナ、ダメよ。私がリョージさんを狙ってるんだからね。いくらエレナ姫・・・・でも譲ることは出来ないわよ」


「大丈夫だよカレン。リョージ様が最低でも我が国で伯爵位にはならないと私と結婚なんて出来ないんだから。それに私が狙うのは彼の実力と人望よ。もちろん、貴方も含めてね」


 必死な顔で警告しようとする昔からの友を安心させるかのように笑顔で話すとエレナはカレナリエンの肩を叩いて食事の輪に戻って行くのだった。

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