第57話 屋敷での軽い騒動 -メイド欲しいですね-

「こちらが、ユーハン伯から支給されるリョージ様の屋敷になります」


 式典でユーハン伯から恩賞を渡される際に横に控えていた若い文官の1人が、代理人として亮二に屋敷の説明をする為に宿屋まで迎えに来て案内をしてくれる様であった。若い文官に案内されて到着した屋敷は亮二が宿泊している宿屋から馬車で10分ほど、歩いても30分程度離れた場所であり、外見は古くもなく新しくもなくといった感じで庭の手入れ自体も行き届いており一目見て亮二は気に入った。


「結構、いい感じですね。長らく人が住んでいない様に見えたけど手入れはされてる感じですかね?」


「そ、そうなりますね。えぇとですね、3年前に住んでいた方は騎士を引退されて奥さまの実家である村に帰られたと聞いております。その後はユーハン伯爵の預りとなり管理していた次第です。こ、今回のリョージ様の功績により支給されるにあたって庭の手入れを再度行ったのと、内装を新しくした上で家具なども用意させてもらっております。り、リョージ様。さ、早速、屋敷内のご確認をおお願いします。とにかく早く」


 なぜか、屋敷に着いた途端にどもり始めた若い文官の説明を聞きながら不審な顔をした亮二だったが、玄関口に立つと扉に手をかけて中に入った。扉も手入れされた様で、特に抵抗する事もなくスムーズに開いて亮二を屋敷の中に招き入れた。明るい外から中に入った亮二は少し薄暗い玄関ホールに複数の人影があることを確認すると、思わず腰の剣に手をかけて「誰だ!」との声を人影達に向かって投げつけた。


「「「「おかえりなさいませ!ご主人さま!」」」」


 元気いい言葉が人影達から聞こえてきた。その声達に心当たりのある亮二は4人を一人ひとり眺めると何も言わずに外に出て扉を閉めた。


「文官さん?」


 亮二は戸惑いと困惑で、中で行われている事に理解が追いつかない顔をして文官を見つめた。文官も大量の冷や汗と真っ青な顔で「主命ですのですいません」と小さな声で呟くと、亮二に屋敷の鍵を強引に手渡して屋敷と亮二から逃げるように馬車に乗り込むと大急ぎで帰っていった。


「どうすっかな」


 あまりの展開に付いていけない状態で1人取り残された亮二は手元の鍵を見つめると握りしめながらもう一度、玄関を開けて中を覗きこんだ。


「「「「おかえりなさいませ!リョージ様!」」」」


 やはり4人から聞こえてくる元気な声に幻覚でないことを確認すると亮二は恐る恐る玄関口に入って4人を等分に眺めて質問を行った。


「何しているの?カレナリエンさん?」


「はい!ご主人様をお待ちしておりました」


 亮二の問いかけに元気よく返事をして答えたカレナリエンは優雅に一礼を行った。カレナリエンの服装は正統派ロング丈メイド服で黒を基調として統一されており、エプロンは純白でフリルが散りばめられ、頭にはカチューシャを付け髪型は団子にして左右に分けて纏められていた。


「気に入らなかったですか、リョージさん?」


 余りに呆然としている亮二に不安になりながら、両手を合わせて握りしめながら上目遣いで亮二を見つめてきた。


「OK!大丈夫。最高に気に入ってるよ。もろストライクの直球ド真ん中だよ!鼻血が出そうなくらい似合ってるんだけど、何でそんなカッコをしているの?メルタさんやシーヴも、それとツッコみたくは無いんですが何故エレナ姫もメイドの格好をしているんですか!」


 亮二の叫び声が屋敷中に響き渡るのだった。


◇□◇□◇□


「え?カレナが『リョージさんってメイドが大好きみたい』って情報を仕入れたので」


「カレナリエンさんとメルタさんが『メイド妹キャラで攻めて見なさい』って言ってきたので」


「1回着てみたかったんです」


 三者三様の答えに亮二は眩暈を感じながらも美少女達が完璧に着こなしているメイド服を感動と共に眺めていた。


 - おいおい。ここに桃源郷があったよ。4人ともそれぞれタイプが違うから同じ服を着ている筈なのに印象が全く違う。正統派美少女のカレナリエンさんは王族のメイドでももったいない位に完璧のフォルムだし、知的美人のメルタさんはメガネを掛けたらクールビューティーのメイド長に間違いなしだし、シーヴは5年もすればカレナリエンさんとは違う活発系美少女を襲名して回りの男たちを虜にするだろうな。大きくなったシーヴがメイド服を来てカレナリエンさんとメルタさんを「お姉さま」と言っている所を想像しただけでご飯5杯はいけますな。それに、それにですよ!エレナ姫!王女がメイド服を着てるんですよ!そんな姿を見たのって俺が初めてだろうな。メイド服を着てても隠しようの無い高貴さが溢れ出てますな。このミスマッチが!大事なことだからもう一回申し上げますがこのミスマッチが堪りません! -


「リョージさん。眺めてばかりじゃなくて全員を見た感想を一言もらえますか?」


 亮二が硬直して再び動かなくなったのでカレナリエンが代表して亮二に感想を求めた。


「皆さん!本当に有難うございます!分かりました、このリョージ・ウチノが皆さんを雇います!契約金は一人あたり金貨5000枚で月額金貨5枚でいいですか?」


 興奮して鼻血を出す勢いで雇用契約を口走っている亮二に今度は女性陣がパニックになり、亮二と女性陣の両方がパニックから回復するのは1時間ほど経ってユーハン伯とマルコが屋敷に遊びに来てからであった。

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