第279話 婚約について5 -王都で指輪を買いますね-

 研究所長室での婚約騒動が終わった後はクロとソフィアを連れて、王都の装飾品店にやってきていた。それぞれと婚約指輪の購入をする予定の亮二だったが、クロより「一緒で構わない」と声が掛り、ソフィアも一緒で構わないとの返事があったので3人でショーケースに展示されている装飾品を眺めていた。


「いかがですか? リョージ伯爵。お気に入りの商品はございましたでしょうか?」


「えぇ! 店長さん?」


 何点か指輪を出してもらっていた亮二たちに声が掛った。亮二たちが声の主に視線を向けると、そこにはドリュグルの装飾品店の店長が笑顔で立っていた。店長は笑顔のままで優雅に礼をしながら挨拶を始めた。


「リョージ様が仰っている店長はドリュグルの装飾品を営んでいる男ですよね? それでしたならば、私の弟になります。いつも弟がお世話になっております」


「お、おぉ。兄弟さん? 本当に? こんなにそっくりなのに? ……ちょっと、テンプレ過ぎるだろ。店長さん。少しだけ時間をもらうね」


 王都の装飾店の店長は見えないように苦笑しながらも丁寧に家族について説明を聞いた亮二だったが、完全に疑いの目を向けるとソフィアとクロに「ちょっとだけ席を外すね」と伝えて、外に出ると転移魔法陣を使ってドリュグルへ転移するのだった。


 ◇□◇□◇□


「疑ってごめんなさい。ドリュグルの店長さんを見てきたよ。間違いなくお兄さんだって。『兄によろしくお伝え下さい』ってのと、『弟の最上級顧客ですから、最高級のおもてなしを頼みます』だってさ。」


「もちろんでございます。弟の最上級顧客で無くても、私の接客に変わりはありませんよ。では、本日のクロ様とソフィア様の婚約指輪候補達を並べていきますね」


 謝罪しながら頭を下げている亮二に王都の店長は恐縮して謝罪を受け入れると、気分一新するかのような優雅な動作でクロとソフィアの前に5種類の指輪を並べた。クロの前には魔道具を中心とした指輪が、ソフィアの前には宝石を散りばめた通常の指輪が用意されており、それぞれに対して詳細な説明を始めた。


「まずは、クロ様の指輪についてですが、風属性や雷属性が付与された指輪となっております。特にこちらについては、少し大きめの魔石を入れる事で持っている武器に雷属性を付与する事が出来ます。ですので、ドリュグルの英雄であり、雷を纏いし者との二つ名を持つリョージ様と同じやり方で戦うことが出来るのではないでしょうか?」


「ん! それは素敵。リョージ様。私はこの指輪が良い。買っても大丈夫?」


 店長の説明を聞いたクロは無表情だが、亮二にだけは分かる仕草で喜びを表現すると雷属性が付与できる指輪を手に取った。


「ちなみに、この指輪だけど大きさを好きな時に大きさを変えることは出来る?」


「それは流石に難しいですね。ご依頼を頂ければ、本日中に大きさを変える事は出来ますが?」


 クロの身体が大人と子供に変わるのは特定の人間しか知らされておらず、店長にどう伝えようかと悩んでいる亮二にクロが袖を引っ張りながら話しかけてきた。


「リョージ様。チェーンを付けるから大丈夫」


「そっか。クロが良いのなら。じゃあ彼女の指輪は雷属性が付与できる指輪にしてくれるかな」


「かしこまりました。サイズを調整させて頂きますので、こちらにお越しください。ソフィア様は決まられましたか?」


 店長は指輪を近くに居た店員に渡してクロの指輪のサイズを調整するように指示すると、ソフィアに声を掛けた。店長から声を掛けられたソフィアは、まだ決まっていない事に少し涙目になりながら小さな声で「まだです」と答えると、亮二はソフィアの隣に座ると一緒に指輪を選び始めた。


「5個ある内の中で『これは、ちょっと違う』と思うのはある?」


「それでしたら、これは宝石が大きすぎて常に付けるにはちょっと。それとこちらは宝石の色が少し……」


 質問されたソフィアは自分とは合っていないと思われる指輪を3つ選ぶと、亮二は残りの2つの指輪を持って店長に話しかけた。


「ねえ、店長さん。これとこの指輪二つを1個にする事は出来る?」


「なるほど。それは面白い作品になりそうですね。こちらとしては問題ありませんが、お値段が少々高くなりますが?」


 亮二の提案に店長は興味を引かれたような顔になると技術的には問題ないが、値段が跳ね上がる事を伝えてきた。


「どのくらいかかるの?」


「さようでございますね。そちらの指輪については両方で金貨30枚ほどになりますので、一つにまとめるとなるとデザインの見直しと加工費を合わせて金貨50枚と2週間のお時間を頂けますでしょうか?」


 店長から金額を聞いたソフィアは仰天した顔になって断ろうとしたが、亮二は軽く頷いて問題ない事を伝えながら店長に提案した。


「ねえ。俺がデザインするから時間の短縮は出来ないかな?」


「確かに、リョージ様が作られたと宣伝するだけで買われる方は多いでしょうね」


 亮二の提案を冗談だと受け取った店主が軽く笑いながら答えたのを見て、亮二はストレージからミスリル鉱石を取り出して、スキル 抽出5を使って形を整えるとスキル デザイン5で指輪を創りだした。


「はい。こんな感じだけど?」


「こ、これは。一瞬で? どうやって? いや、そんな事よりも素晴らしい造形の方が重要だ。私ならいくらで購入する? 造形だけでなく、リョージ様が作ったとなると価値を付けれない。いや、しかし……」


 混乱している店長を眺めながら、亮二は嬉しそうにしながら次々と指輪を作っていくのだった。

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