第278話 婚約について4 -話は続きますね-

 亮二が研究所長室に入ると、カレナリエン達一同が亮二を迎い入れた。カレナリエンは満面の笑みで、メルタは苦笑を浮かべながら、クロとライラは机の上に置かれているスイーツを食べながら手元にあるメモに色々と書き込んでいた。肝心のソフィアを探して研究所長室全体を見渡したが居ない事に気付くと、カレナリエンに目線を向けて問い質した。


「ソフィアは?」


「えっとですね。隣の居室で身支度を整えていますよ」


 笑顔のカレナリエンの言葉に亮二が不思議そうな顔をするとメルタが補足を始めた。小麦粉を利用したスイーツを考えついたので徹夜に近かった事。髪の毛もボサボサの上に、小麦粉が顔中に付いていたので魔道具のどこでもシャワーを使っている事。婚約者会議は滞りなく終了して、後は亮二の申し込みが残っている事を伝えてきた。


「えっ? でも、シャワー中だったらしばらく時間が掛かるよね?」


「もうすぐじゃないですか? ちょっと急な話なので混乱していたようですから、スッキリするためにシャワーを浴びたのが本命みたいですしね」


 カレナリエンと亮二が話していると、奥の扉が少し開いて濡れた髪のソフィアが顔を出して亮二が居る事に気付くと真っ赤な顔になって「はわぁぁ」と言いながら慌てて扉を閉めるのだった。


 ◇□◇□◇□


「私達はここに居ますので、頑張ってくださいね」「物凄く緊張していますから、優しい口調で言ってあげて下さいね」「砂糖の分量が多すぎる」「今はその台詞じゃないと思うな」


 婚約者達から激励の言葉を受けたら亮二は笑いながら大きく頷くと居室への扉にノックをして中に入っていった。


「ソフィア入るよ?」


「ひゃい! だ、大丈夫です。お待ちしておりました!」


 亮二が部屋に入って声を掛けると、濡れた髪のソフィアが真っ赤な目を潤ませながら返事が返ってきた。ソフィアの緊張っぷりに亮二も緊張すると沈黙が2人を包んだ。


「あ、あのさ。カレナリエン達から聞いたと思うんだけど、プレゼントを渡したり、新聞で書かれたりしてるのに何も言わなくて不安にさせたかもしれないけど、ソフィアが不安に思う日を今日で最後にしたいんだよ。だから、俺からの婚約の申し込み受けてくれるかな?」


「はい! 喜んでお受けいたします。リョージ様と一緒にすいーつの開発をして支えさせていただいます! 不束者ですが末永くよろしくお願い致します。」


 両目から涙を流しながら嬉しそうに何度も頷き、震える唇を手で抑えるようにしながらソフィアは亮二からの婚約の申し込みを受けるのだった。婚約を受けてもらえるとは思っていた亮二だったが、口に出して申し出を受けてもらえるとホッとしたような表情となりソフィアに近付くと複合魔法のドライヤーで髪の毛を乾かし始めた。


「えっ? えっ? リョージ様?」


「婚約者になったんだから髪の毛くらい乾かせてよ。ブラッシングもさせてもらうね」


 ストレージからミスリルの櫛を取り出してブラッシングを始めた亮二に、最初は戸惑った表情を見せてたソフィアだったが、赤い顔をしながらも亮二にされるがままの状態で身を預けるのだった。


 ◇□◇□◇□


「よし! 完了! 髪の毛も乾いたし、艶も出て綺麗になったね。可愛いソフィアがさらに可愛くなったよ」


「そんな。か、可愛いだなんて……」


 亮二からブラッシングが終わった事と可愛いと笑顔で告げられたソフィアは、耳まで真っ赤にしながらモジモジとしていたが、突然決意した表情で右手を大きく掲げて「まじかる装着変身!」と唱えだした。


「えっ? ちょ、ちょっと待った! なんでソフィアが変身ペンダントを持ってるの?」


 突然、右腕を掲げて変身キーワードを唱えたソフィアに亮二が混乱しながら叫んでいると、光り輝いていた中からソフィアが現れた。全身真っ赤にしながらも真剣な表情と姿に亮二は釘付けになった。


「そ、その格好は?」


「リ、リョージ様。ブラッシング有難うございましたニャン!」


 服装はそのままで狐耳と尻尾を生やしたソフィアが右拳をこめかみの辺りに、左拳を腰に当てた状態でしなを作りながら返事を返してきた。ソフィアの唐突な行動に釘付けの視線から唖然とした表情に変わり、最後は硬直した状態のままで返事もできずに脳内をフル回転させて出した結論は平凡な質問だった。


「えっと、その格好と語尾にニャンと付けた理由を教えてもらっていいかな?」


「えっとですね! カレナリエンさんから『リョージ様は獣人の格好をして「にゃん」と語尾に付けると大喜びをしてくれるわよ』と教えてもらいました! どうですか? 喜んでもらえました?」


 ポーズを決めたまま真剣な表情でソフィアが変身理由やニャン語の説明をしながら満足したかどうかを求めたが、亮二は曖昧な笑顔を向けながら「ちょっと、待っててくれる。あっ! もちろん体勢は楽にしててくれていいよ」と言いながら扉を開けて研究所長室に戻るのだった。


 ◇□◇□◇□


「どうでした? ソフィアは喜んで受けてくれました?」


 研究所長室に戻った亮二にカレナリエンがワクワクした表情で話しかけてきた。亮二はカレナリエンの顔を見ながら、複雑な表情をしながら軽く質問した。


「ソフィアに変身ペンダントを渡したのはカレナリエン?」


「そうです! 私のリョージ様メモには『リョージ様はライラやフェリル様の耳尻尾に反応し、メルタのニャン語に骨抜きになった』と書いてあります! 本当は私の為に開発したグッズですが、今回はソフィアの為に特別に貸してあげました! 喜んで頂けましたか?」


「いや! 嬉しいんだけど! ちょっと違うって言うか! 狐にニャンって! 良いんだけど!」


 ドヤ顔で説明したカレナリエンに亮二は微妙な顔になりながら叫ぶのだった。

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