第82話 洞窟への突入 -成長を見るのは楽しいですね-
「3班!撃てっ!」
「イエッサー!」
掛け声と共に放たれたファイアボールは緑狼達に襲いかかると紅蓮の炎を咲かせ、火力の花が消えた後には緑狼だった物体が5体転がっているだけとなった。静寂を取り戻した洞窟の中に亮二の鋭い声が再度響いた。
「よし!第1班は周囲の警戒!第2班は魔石のみ回収でその他は放置!第3班は休憩に入るため後衛に移動だ!」
「「「サー!イエッサー!!!」」」
駐屯軍以上の一糸乱れぬ規則正しい動きで探索チームに所属する
「いい動きだったぞ!お前ら!その調子で行くぞ!」
「軍曹、有り難うございます!サー!」
亮二の褒め言葉に6名は大きな声を出すと右手を眉毛の辺りに当てて作業を再開させた。その動作を知っている者がいたら“敬礼”と教えてくれただろう。
「すまん、何が起こってるのか誰か俺に教えてくれないか?」
突然、目の前で起こった非常識に付いて行けなかったマルコは周りに説明を求めたが、マルコに視線を向けられた者は、視線を逸らす者、目を合わせて盛大なため息を吐く者、首を振って「あきらめろ」と目で訴える者と十人十色の反応を示した。だが、すぐには誰も答えずに沈黙が続いたが、カレナリエンが代表してマルコに説明を行った。
「私も詳細はよく分からないんだけど、リョージ様の国で一流派を築いている軍隊方式だそうだよ」
「でも、戦っていたのは学者様達だよな?」
マルコはテキパキと魔石取出し作業や周囲の警戒をしている6名を眺めながら確認を行った。その姿は誰が見ても“学者”ではなく“軍人”にしか見えなかったからである。
「始めは『深部調査に行くなら学者たちの生存確率を上げといたほうが良いよね。魔道具やポーション、冒険者に守られるだけではなくて、自分の力で未来を切り開く』との話から始まったはずだったのだが、気がつけば魔法を使って戦えるようになってまして。学者達だけでパーティーを組んで『深部に行くまでの雑魚は我らが露払いします!』と言われて、こうなった次第で」
今回の深部調査隊の指揮官を務める部隊長が疲れた声と顔をしているのを見て、全てを理解したマルコは元凶を怒鳴りつけた。
「リョージ!お前何やったんだよ!」
マルコの怒りの声にキョトンとした顔で「チョットだけ頑張ってもらっただけだよ」と、なんでそんなこと聞くのと言わんばかり返事が返ってきた。さらに怒鳴ろうとしたマルコに気付いた学者たちが作業を止めるとマルコの前に一列で並んだ。
「マルコさん!軍曹を責めないでください!この方は考えるしか能の無いゴミ屑だった我々を戦士として生まれ変わらせてくださった救世主なのです!」
「“ぐんそう”?リョージの事ですかね?いやいや、あいつに何を言われたかは分かりませんが、貴方達は頭を使う事がお仕事ですからね。王都から来て頂いた最高の頭脳集団って事を忘れないで下さいよ!」
マルコに注意を受けながらも爽やかな笑顔で、リョージの事を神様のように崇拝した表情で見つめる国内最高頭脳を持つ学者達を見ながらマルコは頭を抱えるのだった。
□◇□◇□◇
「ごめんなさい、やり過ぎた事は認めます。テンションが上がりすぎました」
先日、牛人を迎え撃った広場で亮二はマルコに頭を下げていた。そんな亮二の周りでは「軍曹!頭を下げないで!我々は感謝の言葉しかありません」と学者達が亮二に頭を上げるように懇願していた。亮二はそんな学者達を見渡すと「最高だ!お前達!」と輪の中心で嬉しさを爆発させていた。
「なに?この茶番」
「俺の方が聞きてえよ。国内最高頭脳集団のはずなのに脳筋みたいな行動になってるじゃないか。リョージのやつは一体何をしやがったんだよ」
マルコだけでなく、詳細を知らないカレナリエンの2人から疑惑の目を向けられた亮二は素晴らしい笑顔で経緯の説明を始めた。
「まずは、探索チームの学者達に深部調査で必要な事があると洗の…説得します」
「おい、洗脳って言おうとしただろ?」
「で、森の中に連れ出して1時間ほど放置します。もちろん、回りにいた魔物は先回りして駆除しておきます」
「おい」
「そして、あちこちを爆破して不安感が増してきたところで颯爽と“ドリュグルの英雄”が現れます。後は慕ってきた学者達に時間差魔法の運用の仕方を教えた後に、”試練の洞窟”に入って大量のマナポーションを消費して魔法を撃ちまくって慣れさせて、体力的にも疲れてきたら5倍ポーションを飲んで1日15時間くらい戦闘をさせるだけで屈強な魔法使いの出来上がりです!」
「また、その状況かよ!リョージ、今回来て頂いている学者達は王都でも選りすぐりの人材ばかりなんだぞ。こんな所で遊んでいる場合じゃないんだ」
「それは違うぞマルコ!学者だから何もしなくていい訳が無いだろ。俺達護衛が全滅する事も想定して、俺達が居なくても自力で脱出できないと駄目だろ。俺達みたいな消耗品と違って学者達は一朝一夕では育たない選ばれた人達なんだからな!」
マルコからのツッコミに突然真剣な表情で語り始めた亮二に学者達からは憧憬の眼差しが注がれていたが、カレナリエンからは微笑ましい、部隊長からは尊敬の要素が疑惑より少し多い眼差しが、マルコからは完全に疑惑の表情が注がれていた。
「で、本音は?」
「面白そうだったから!」
「やっぱりな!そうだと思ったよ!」
マルコの叫び声が洞窟内に反響するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます