第76話 式典会場は大賑わい -サプライズは楽しいですよね-

“ドリュグルの英雄”

「1週間で3ランクアップをした稀有な冒険者」

「ギルドの2枚看板受付嬢の両方と結婚の約束をした異国の子爵との噂もある貴族」

「辺境伯や一流の冒険者であるマルコやカレナリエン、新進気鋭の大商人アウレリオや各ギルド長などの有力者と強いコネクションを持つ実力者」


 権力と財力を持ち、剣の実力なら【A】ランクと言われ、魔力も桁外れで使える属性も数知れず。ドリュグルの街にいる冒険者からは「神は二物を与えないはずじゃなかったのかよ。リョージにどれだけ与えるんだよ」「何かある度に奢ってくれるから最高だぜ」「もう1人くらいと結婚してくれないかな?」と賛否両論の評価が出ていた。もし、リョージがその話を聞いていたら「神様から貰ったから仕方ないよね。奢りはするけど婚約者はもう決まってるから」と言いそうだが。


 そんな話題に事欠かないリョージが冒険者として一人前とされる【C】ランクまでアップしたのだから、授与式はギルドが主体で行うとはいいながらもユーハン伯を初め権力者達によって政治色の強いイベントになっていた。


 夕方から開始される授与式に参加するためにユーハンを始め、主だった貴族や冒険者ギルドのマスター以下の役員やギルドとの取引が多い商人などが集まり、全ての準備が整ったので式典が執り行われることとなった。


「では、これより冒険者リョージの【C】ランク授与式を執り行う。【D】ランク冒険者のリョージ、壇上へ!」


 緊張のあまり青い顔をしながら式典を進めているギルド職員を気の毒そうに眺めながら参加者一同は主役が来るのを待った。普段であれば10分程で職員から認定証を渡して終わるだけの授与式が1時間以上に膨れ上がったのは、ランクアップ対象者がここ最近でドリュグルの街一番に注目を浴びている冒険者でユーハンとのつながりが強いとの触れ込みもある亮二だったからであろう。


「リョージ、壇上へ!」


 職員の再度の呼びかけにも反応が無く、壇上に居る職員や脇に控えている関係者からざわめきが起こり始めた。招待されているユーハンを始めとする貴族たちは式典に対するマナーが有るため私語は控えていたが、主役である亮二がいつまで経っても壇上に登場しない事を疑問に思いながら待ち続けていた。


「それにしてもリョージはまだ来ないのか?」


 職員の呼びかけから5分が経過し、痺れを切らしたユーハンは誰とはなく周りに尋ねた。ユーハンを始めとする貴族たちの対応を任されているギルドの役員は青い顔で汗を拭いながら「全力でリョージを探しております」と返答していた。普段は踏ん反り返って御託を並べている役員の醜態を楽しそうに眺めているマルコは嫌な予感がしながらも、今の立場上は貴族として出席しているため亮二探索に動くことが出来ず、また、カレナリエンやアウレリオに亮二を探してもらおうと考えるも2人とも見付ける事が出来なかった。


 さらに5分ほどが経過し、一同の苛々がピークになった瞬間に灯りが全て消えた。


「何事だ!すぐに灯りを用意しろ!護衛班はユーハン伯及び参列している貴族を中心に防御陣形!!」


 マルコの号令に素早く防御陣形を築いたのは普段の訓練の賜であろう。ギルド側の対応はお粗末なもので、灯りの消えた状況に右往左往していた。そんな中、突然壇上に眩いばかりの灯りが集まりそこに女性が1人立っていた。


参列者の中に亮二と同じ出身の人間が居たら「スポットライト」をイメージ出来たであろう場所にいるのはカレナリエンであり、普段の冒険者の装備でも受付嬢の姿でも無く、白を基調とした貴族が着るようなパーティードレスを着ており、翠がかった金髪の輝きをさらに引き立てていた。


「えぇと、れでぃぃすえんどじぇんとるめん!長らくお待たせしました!これより【D】ランク冒険者リョージ様の【C】ランク冒険者へのランクアップ授与式を行います」


 参列者がカレナリエンの登場の仕方に普段とは違う衣装に呆然としながらもあまりの美しさに賞賛の眼差しを向けていると、その横にもう一つの灯りが増えた。そこには亮二が、普段の服装とは違うドリュグルでは見たこともない衣装を着て立っていた。


 スポットライトを知っている人間が見たら“燕尾服”だと分かっただろうが。


「皆さん!本日は私の授与式の為にお集まり頂きまして有難うございます。【C】ランクになっても日々の鍛錬を怠ること無く、ドリュグルの街に居る限りは盾となり退魔の剣として町の人々を守り続けます。今日は私からもユーハン伯を始めとした皆さんにお礼の品を用意させて頂きました。ご笑納頂けると幸いです」


 亮二がそう話して視線を舞台の脇に向けると様々な物が乗った荷台を押してアウレリオが現れた。


「こちらはリョージ様より皆さまへの贈り物となります。ユーハン伯へは「銀の剣」及び「銀の鎧」「防御のペンダント」に「5倍ポーション100本」、それ以外の貴族様には「銀の短剣」及び「5倍ポーション50本」、ギルドの役員の方々には「5倍ポーション10本」を用意させて頂きました。今回の贈り物に関してはリョージ様と専属取引契約を結んだカルカーノ商会が後ほど目録と一緒に届けさせて頂きます」


 満面の笑みでアウレリオからそう告げられると参列者から感嘆の声や怨嗟の声が上がった。感嘆の声はマナーを忘れて思わず声を出した貴族であり、怨嗟の声は亮二との専属取引契約を結ばれてしまったアウレリオに対してギルドと取引のある商人たちからだった。


 □◇□◇□◇


 - 式典が始まる直前の一コマ -


「ところでリョージ様に質問があるんですが「れでぃぃすえんどじぇんとるめん」ってどういう意味なんですか?」


「俺の国で“皆さん”って意味だよ」


「そうなんですね。それとは別の話なんですが、私の着ている衣装は物凄く素晴らしいのは分かります。女の子なら一度は着たくなるような衣装ですからね。でもこの衣装って結構お金がかかってるんじゃないですか?」


「イヤダナカレナリエンサン。ソンナオカネガカカッテイルワケナイジャナイデスカ」


「リョージ様?その口調は前と同じですね。お幾らですか?」


「金貨にじゅうまいくらい。でも!今までで一番安いんじゃないかな!それに俺の衣装も含めての値段だから大丈夫!」


「何が大丈夫ですか!帰ったらお説教ですからね!!」


「またこのパターンかぁ!」

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