第77話 式典の後日譚 -マルコとアウレリオは頑張ってますね-
「それにしても楽しかったね。またランクアップする時は同じようにやってみる?」
亮二から笑顔で話しかけられたマルコは苦虫を噛み潰したような顔でため息を吐いた。
「あのな、リョージ。出来れば次からは前もって俺だけでも良いから連絡をしてくれ。『なぜ、私達に内容を伝えて頂けなかったんですか!訓練の一貫としては悪質すぎます!』と護衛班からの苦情が凄かったんだよ。警護を指揮する立場上、本当に頼むわ」
「でも、前もって言っていたらサプライズにならなかったでしょ?あっ!サプライズってのは“お茶目”って意味だから」
亮二の説明に「“さぷらいず”ってのは“お茶目”って意味じゃ絶対ないだろ」と呟いたマルコに驚いた顔をしながら確認を行った。
「サプライズの意味を知ってるの?」
「知らんが、お前の言い方だと間違いなく違う。付き合いだして1ヶ月程だが、お前の性格は何となく分かってきた。お前がその顔をしている時は大体嘘だ」
マルコの決め付けに「そんな酷い!」と項垂れたフリをしながら悲しい顔を一瞬だけすると真面目な顔に戻って説明を始めた。
「今回のランクアップ授与式は政治色を強めた内容にしただろ。あんな事をしたら『完全にギルドは貴族の下になりました』って宣伝してるようなもんじゃないか。ダメじゃん!ギルドは建前だけでも独立独歩で行かないと。さすがのユーハン伯もちょっと焦ったって感じ?」
亮二の正論に思わず言葉の詰まったマルコだったが、弟であるユーハンのフォローをするように話しだした。
「そう言ってやらないでくれないか?あいつも貴族として一生懸命に動いているんだよ。押し付けてる俺が言うのもどうかと思うんだけどな」
「ユーハン伯の事情は分かった。俺の無茶で政治色が強かったと記憶に残る事は殆ど無いと思うし、結果良ければ全て良しとしとこうよ」
「で、本音のところは?」
「カレナリエンの純白ドレスが見れて眼福でした!メルタとシーヴの分も用意しとけばよかった!」
「やっぱりな!俺のちょっと感動した気持ちを返せよ!」
亮二といつものようなやり取りが出来る事にマルコは心の底から安堵するのだった。
◇□◇□◇□
亮二のランクアップ授与式が終わった次の日から、カルカーノ商会の前には人集りが出来ていた。今までの客層は平民が中心だったが授与式を境に貴族に仕えるメイドや料理人が来るようになっていた。そこでアウレリオは2日ほど店を休業させるとドリュグルの街には今まで無かった2階建ての店舗に改装し営業を始めた。
1階が価格帯を抑えたそれなりの商品が並んでおり、2階は高品質な物が並んでいるが値段も同じく高価格で販売されていた。一般市民は特別な日には2階で買い物だが、普段は1階で買い物を行い、貴族層は普段から2階で買い物をするようになり住み分けが出来るようになっていた。
亮二がカルカーノ商会を訪れたのは改装が終わった3日後だった。アウレリオは亮二が訪問すると店舗を案内して感想を求めた。
「店舗を2階に分けて2階が富裕層向けって発想は素晴らしいね。後、改善の余地があるとしたらレジを2階にも設置する事かな。袋を分けるのもいいかも、2階で買ったってのが分かるようにすると購入者は優越感を持てるからね。『あら、奥さん!今日は2階で買い物されたの?』『ええ!息子の誕生日だから奮発しようかなって』みたいな会話がされるようになったら完璧だよね」
「なるほど、袋に関してはすぐの用意はできませんがレジに関しては早急に用意させましょう。1階のレジが混んでいる時に2階のお客様に一緒に並んでもらうのは何かが違うような気がしてましたからね」
アウレリオは亮二からの指摘を頷きながら記入すると、早速部下に対応をするように命じるのだった。亮二は“巧遅は拙速に如かず”を地で行くアウレリオに感心しながら、自分の商売のためにアウレリオと話を続けるのだった。
「ところで、ポーションの売れ行きはどう?」
「素晴らしいの一言ですね。発売してから数量制限が必要なくらいに売れてますよ。冒険者の方々は掛かっているのが自分の命ですので、値段に関係なく購入されていきますね。そう言えば、先日の授与式でお渡ししたポーションを売りに来られた方もいましたが、特に問題は有りませんか?」
アウレリオはポーションを売りに来た名簿を亮二に渡しながら確認を行った。亮二は受け取った名簿に目を通して貴族の名前を覚えるとアウレリオに名簿を返却し「特に問題ないよ」と返答した。
「良かったのですか?」
「別にいいよ。あくまでも俺からの贈り物だからね。販売をするって事は財政が厳しいのかもしれないから、こちらからアプローチをかければ上手く取り込めるかもしれない。アウレリオさんには悪いけど、これからも俺からの贈り物を売りに来る人がいたら教えてもらっていいかな?それと、買い取り金額については他の店より甘めの査定でお願い。差額については迷惑料ってことで連絡をくれた金額に足して渡すから」
アウレリオの確認に亮二は軽く答えた後に理由を説明すると、アウレリオは内容に納得しながらも亮二を本当に味方として取り込んで良かったと安堵するのだった。
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